第89話
『だから僕はこの都市の人々の英雄にでもなってやる!』
ブースの覚悟に満ちた佇まいには片腕を失っていてもどこかマシロのような屈強な面影が感じ取れた。
「英雄か、そんな存在に私も出会いたかったよ。日々魔族から追われさらには人間にまで忌み嫌われ襲われる」
ブースのふつふつと静かに燃える敵対心を跳ね除ける様にエラスティスは自虐的な笑みを浮かべた。そしておもむろに地上に向け腕を伸ばした。
彼女の指先は気味の悪い赤黒い膜のような光に包まれたかと思うとその膜は触手のように何本にも枝分かれし地面のある地点に伸びていった。
その触手の先には血だまりが広がっており何人もの人間の遺体が無造作に転がっていた。それらはいずれも首がとんでいた。そう、ブースたちと一緒にやって来た冒険者たちの亡骸だっのだ。
いくつもの触手が冒険者たちの亡骸に広がる血潮に触れるとそれらをポンプのように吸い上げ始めた。徐々にその膜状の触手は膨張していき辺り一面に広がっていた血だまりは不気味なほどきれいになくなった。
地面に伸ばされた先端が膨張した膜状の触手はエラスティスのもとへ戻るとその中身をエラスティス自身が取り込んだ。
冒険者たちの血液を取り込んだエラスティスは白と黒の二つの淡い光に包まれ少し苦痛に悶えるように体をよじった。だが胸のあたりに現れた赤い光点がその光を強くして白と黒の淡い光を飲み込んだ。
「ふう、人間の“もの”は未だに慣れないな。だが魔族以外の“もの”は久々だ」
そう言うエラスティスの首には蛇が這ったような赤いアザが浮かび上がっていた。さらに彼女の両頬にはひっかき傷のようなアザが一筋、目じりから伸びていた。
その場にいた者は皆エラスティスの行動、そしてその後の変貌に目を丸くした。
「あいつは一体何者なんだ!?」
「分からない、人間の血液を吸収する魔族なんて聞いたことがない」
シバの吐露した疑問にマーニですら理解できずただただ未知の出来事に、存在に、驚愕していた。
「そ、そんな、ま、まさか!?で、でもあれはただの伝説のはずです」
エラスティスを見て誰よりも狼狽した様子でレスペシオは声を震わせた。
「、、、どういうこと?」
アイがレスペシオに尋ね皆がレスペシオの言葉に注目した。
「あ、あれは、古い文献で登場する、ほ、本当に実在していたかよくわかっていない存在です」
さらにレスペシオは一呼吸おいた。
「あれは、滅んだはずの“吸血族”です」




