第87話
なんとかエラスティスによる強大な攻撃を退けたブースたち冒険者は内なる炎を燃え上がらせたように自分たちを奮いあがらせていた。
「よし!このまま力を合わせればあの魔族を討伐できる!気を引き締めていこう!」
「「「「オオオオーーー!!」」」」
今この場にいるものはこの冒険者たちの一致団結した雄叫びが勇敢で頼りあると捉える者と早死にタイプの可哀そうな奴らと捉える者に二分されるだろう。
前者はギルド支部局のディエフやその付き人フォン、受付嬢たち、そしてエイミー、後者はシバ、アイ、マーニだ。エイミーに関してはなぜか冒険者たちの輪の中に加わっている。
士気を高めた冒険者たちはブースを筆頭にマシロ、そのほかの冒険者が続きエラスティスに向かって行った。
「私も行かないと!」
エイミーもその後を追おうと飛び出すがマーニに腕を掴まれた。
「ちょっと!何するんですか!」
マーニの腕を強引に振り払おうとしたがマーニはびくともしない。
そんなエイミーに対してマーニは何も言わなかった。ただじっと不敵な笑みを浮かべているエラスティスの方を凝視しているだけだった。
そのマーニの様子にエイミーはただならぬ雰囲気を感じた。強引に振りほどこうとするエイミーも抵抗をやめ冒険者たちを心配するような視線を向けた。彼らの後姿とその先にいるエラスティスを見て不安が募る。
「皆散れ!」
先導するブースはエラスティスを前にマシロたち冒険者に指示をする。ブースの指示に従い冒険者たちはエラスティスを囲うように散開した。
エラスティスは特に警戒した素振りを示すことなく無防備でいる。
無防備なエラスティスに先手必勝と一人の冒険者がエラスティスの背後から飛び込んだ。身体強化で右腕が赤く光っている。
「バーニングブロー!!」
体を捻り勢いよく突き出された拳は赤い炎を纏いエラスティスの背中めがけて轟轟と唸る。
炎拳がエラスティスに直撃すると同時に小さな爆発が起きた。その爆発を火種に同じような爆破がエラスティスの体のいたるところで発動した。
やがて無数の爆発は連鎖し一つの大きな爆発となりエラスティスの全身は炎に包まれた。
「やったか?」
他の冒険者は爆発と共に燃え上がる炎を警戒した様子で見る。
「いや!まだだ!!」
ブースは叫んだ。
ブースの言う通り炎の中からは高らかな笑い声が響いていた。
「この程度か!ぬるすぎるぞ!人間!」
炎の内側から渦を巻くように突風が吹き荒れエラスティスを飲み込んだ炎はあっさりとかき消された。
エラスティスは自身を包んだ炎を生んだ冒険者を捕食者のごとくキィッと睨みつけると一瞬でその懐に入った。
「炎とはこういうものだ、」
冒険者の耳元でそう呟くとエラスティスはその冒険者の腹に魔法陣を展開させた手を合わせグッと突き放した。
瞬間的に目の前にやって来たエラスティスにゾッと背筋が凍るのを感じた冒険者は同時に重力に従って落下していくのを感じた。
飛行魔法で体勢を立て直そうと試みるも思ったようにできない。自身の身に異変が起きていると理解するのに数秒を要した。
さらにその異変が自分の体の内からこみあげるような熱さから起因していると感じた時にはその熱さは全身に及んでいた。
内側から骨格、筋肉、内臓と自身の肉体を内側から蝕むような熱さ、それらが溶けるような感覚。そして次第に痛みが伴う。
———炎とはこういうものだ
落下する自身を見下ろすエラスティスを視界に捉えた。視界の周りには黒い炎が取り囲んでいる。
「あづいぃ、あづいぃ、あづいぃぃ!あ“あ”あ“―――!!」
助けを求めるように天に右腕を掲げる。だがいくら動かそうとしても右腕が上がる感覚はない。もがくように反対の腕を天に伸ばす。
頭上に掲げられた左手の五指の先端からボッと黒点が閃いた。その瞬間左腕は黒い炎に包まれ炭のように朽ち果てる自身の左腕を見た。
「これが、炎か……」
爆発するように一気に黒い炎が冒険者を包み黒い火達磨となって落下していく。
やがて炎が消えるとその冒険者は跡形もなくなっていた。
「あ、あれは……そんなまさか……」
黒い炎を見てレスペシオは目を見開き口元を手で押さえた。
「あれは最上位の炎です……通常は赤い炎ですがその威力は赤、青、紫、黒紅、そして黒。古い文献に記載されていても実際に黒い炎を扱えるなんて……」
レスペシオの言う通りその魔力の強さから炎の色はだんだんと黒に近づいていく。炎も含め属性適正が100の魔王の後継者であるアイですら扱うことができるのは黒紅色の炎だ。黒の炎はさらにそれの上位互換だ。
「何だと!?あいつがあんなにあっさりやられるなんて……」
骨も残らないほどの純黒の業火はほんの数秒で冒険者を屠った。このわずかな時間、冒険者のだれ一人として加勢に入る者など皆無だった。皆金縛りにあったように動けずただ仲間が黒い炎に蝕まれていく光景をただ目の当たりにした。
エラスティスは灰も残らず葬った人間から視線を外し残りの冒険者たちに移した。その目は殺した人間の弱さを憐れむような、それでいて氷のように冷たかった。
「弱いな、人間たちよ……」
エラスティスの言葉は焦げた匂いと共に残る冒険者たちのもとへ届いた。
とりあえず1話分だけ投稿します。ブックマーク、評価してくださった方々ありがとうございます。




