第86話
シバは自分の甘さを吐き出すように深く息を吐いた。
体内を循環する血液の流れを、魔力の流れを感じるように気持ちを落ち着かせていく。
シバの全身からはうっすらと黒いオーラがにじみ出てくる。
(レスペシオさんが来たけど隠してる場合じゃないよな、)
「俺が威力を分散させるから後処理よろしく、」
「えっ?ちょっと、シバ!?」
唐突にそう言うと困惑するエイミーを置いてシバはエラスティスの方へ行った。右手には日本刀が握られている。
「どうやら本気を出すみたいだな、」
嬉しそうに笑みを浮かべながらシバを見下ろしてエラスティスは言った。
「言っとくが”切り替え”をさせる暇を与えなかったのはお前だからな、」
シバはある程度の距離を保ちエラスティスを見据えて刀を構える。
「まさかその剣でこれに対抗すると?」
「ああ、そのつもりだ、」
「なめられたものだな、」
エラスティスの体から猛々しく紫色のオーラが現れ彼女の全身を覆った。
「うぬぼれるな、シバよ!!」
そう叫びながら彼女は天に掲げた腕をシバめがけて振り下ろした。
轟轟と燃え盛るように周囲にエネルギーをまき散らしながら直径20メートルの赤黒い超巨大な魔弾が接近する。
迫りくる巨大な魔弾との距離を瞬時に目測しシバは動いた。
突如シバの纏っていたオーラから稲妻状の火花がバチバチと煌めいた。シバの纏うオーラは殺気立つように激しさを増していく。
それと同時にシバの手にする日本刀の刀身から眩い黄色の光が迸った。その光、黄色いオーラは一気に大きく広がった。
シバの手にしていた日本刀と同じ造形美でサイズが何倍もの黄色いオーラによる刀が出来上がった。
(いくら硬く生成したっていってもあくまで物質、あの魔弾には敵わねえ。けどあいつみたいに刀身を魔力で作り出せば五分だろ、)
そのままシバの右手が閃いた。空中に眩い黄色の曲線が描かれる。
右から左へ斜めに黄色い線が動く。同時にもう一つ、左から右へ斜めに巨大な刀が走る。
ズドンッ!!
剣と剣がぶつかり合うような澄んだ金属音ではない。力と力のぶつかる鈍い音が轟いた。
右から振られた刀が素早く切り返され左から右へと走った。その速さゆえに二つの刀で同時に振り切ったように見えた。
斜めにクロスした黄色い斬撃が巨大な赤黒い魔弾に衝突した。斬撃は対象を断ち斬らんと食い込んでいく。
だがそれでも威力は互いに五分だ、斬れる気配はない。
「ならもう一発!」
シバは黄色く煌めく巨大な刀を掲げ真っ直ぐに振り下ろした。
黄色い斬撃は三つに重なりアスタリスクの形の斬撃がエラスティスの放った超巨大な魔弾をじりじりと押し返した。
「力比べか、面白い!」
口角を上げ好戦的な笑みを浮かべるエラスティスの纏う紫のオーラも激しさを増した。
一度はやや押されかけた赤黒い大玉だったがエラスティスに呼応するように勢いを増し押し返した。
「力比べじゃねえよ、」
シバがそう言うと三本のクロスした斬撃は滑らかに魔弾を貫通した、いや魔弾を”斬った”。
「何!?」
「アイ!マーニさん!エイミー!」
6つに分断された魔弾の残弾がシバの横をすり抜けアイたちの方へ飛んでいった。
「全く、こういうことは前もってちゃんと言いなよね!それじゃあ、2つずついこうか!」
「、、、任せて。」
シバが6つに分散させた超巨大な魔弾の残弾を後ろのアイたちが防壁や結界で背後に広がる都市への直撃を防ぐ、これがシバの狙いだったのだ。
マーニは胸の前で近づけた両手を一気に広げ結界を、アイは迫りくる魔弾の残弾に向け防壁を展開した。
マーニは2つの残弾を何重にも重ねた結界で包み込んだ。そのまま多重結界ごと上空へ吹き飛ばした。
アイは2つの残弾の位置に合わせてそれぞれに対応した防壁を展開した。残弾はアイの展開した防壁に衝突し押し合いになった。
だがその2つの防壁に魔法陣が浮かび上がるとそこから灼熱の炎が現れたかと思うと炎の竜が飛び出すように顕現した。2体の竜は残弾を咥えるとマーニの飛ばした結界を追うように上昇し2対の赤い線が天高く伸びていった。
バーーーン!!
空気を震わせる爆発が上空で起きた。アイとマーニの処理した残弾が衝突した。
アイとマーニはうまく対応できたがエイミーは彼女たちのようにはいかなかった。
「ちょ、ちょ、ちょ!」
(でもここで私がやらないとこの都市の住民が、、)
覚悟を決めたエイミーは防壁を展開した。1枚ではない何重にも防壁を展開させている。
残弾の威力に押されることなくなんとか残弾を上空へはね返すことができた。
「エイミーちゃん!もう一つ!」
安堵するエイミーにマーニが叫んだ。珍しく焦燥している。
「あーああああ!」
最後の残弾はエイミーの横を通り過ぎていった。
「任せろ!!」
誰よりも早く回り込み都市に迫る残弾を迎え撃つ者の姿があった。
冒険者ブースである。
「ぐぐぐぐぅおおおー!!」
ブースは展開した防壁で何とか持ちこたえるもその表情は険しい。
ピキッ、
だが防壁に小さなひびが走った。
「ブース!!」
冒険者マシロがブースの背中を支えた。
「マ、マシロ、、」
「俺だけじゃねえ!他の奴らもいる!」
マシロだけではない、他の冒険者も後ろから支えている。
「お前ら防壁展開!!」
全員が防壁を展開する。
「お前ら根性見せろよぉ!!」
マシロが叫ぶ。
「「「「おおおおおおおおおお!!」」」」
冒険者たちは一つになって残る残弾を弾き返すことに成功した。
「やったな、ブース、」
肩で息をするブースを労うマシロ、そして他の冒険者も互いに称え合っている。
「何とか都市を守りきれたか、、」
エラスティスによる超巨大な魔弾による脅威が去り支部局長ディエフとフォン、そして受付嬢たちはホッと胸をなでおろした。
だが忘れてはならない、今は都市を破壊する脅威が去っただけだと言うことを、その脅威の根源がまだ存在していることを。
シバはその根源であるエラスティスを見つめている。
エラスティスも目を見開き心底嬉しそうに不気味な笑みを浮かべてシバを見下ろしていた。
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