第85話
壊滅的なこの状況に物怖じしている冒険者たちの中で一人抗おうとする者がいた。イケメン冒険者ブースである。
「僕たち冒険者がここで食い止めて都市の住民を守るんだ!」
完全に淀んだ空気を払拭するようにブースが言い放った。
そしてブースは他の冒険者たちの前へ移動する。
「僕たちがやらないと!このままでは都市の住民が全滅だ!さあ!やろう!」
ブースは他の冒険者を奮い立たせるように地下強く言った。
「けど、こんなことできる奴を相手になんか、無理だ、、」
一人の冒険者の男がポツリと呟いた。
「みんなで力を合わせれば何とかなr」
「そう言うことじゃねーよ、、」
ブースの言葉にかぶせるように色黒で右目に切り傷がある冒険者の男は言った。
「俺たちは慈善事業やってんじゃねえ、、自分の命が一番だ、」
絞り出すように言う片目の色黒の冒険者はさらに続ける。
「そりゃ依頼で魔物討伐や人助けだったらやるさ、今までに何度も危険なクエストだってあった。けどな今回は訳が違うんだよ、」
彼は地上に目を向けてさらに続ける。
「魔物を狩ったり迷宮攻略に向かったり要人の護衛をしたりしてやって来たけどなそれは自分に見合ったクエストだからだ。俺たちは自分のレベルに合わせたクエストを自分たちで選ぶ権利がある、そうだろ!」
冒険者がクエストを選ぶ際には自分の冒険者レベルとその一つ上のレベルに設定されたクエストを自分で選び発注してもらう。
自分の身の丈以上のクエストは基本的には受けることはできない。なぜなら彼の言う通り命を落とす危険もあるからだ。
さらに言うならばそのシステムを取り決めているのはギルド支部だ。彼の言い分はクエストを統括するギルド支部に従っており全く持って正しいのだ。
「クエストの最中に予想外のことが起きて何度も死を実感したこともある。それは仕方がないとも思ってる。けどなこれはどう考えても死にに行くようなもんだろ!誰が死ぬと分かってるところに飛び込むかよ!」
彼の言い放った言葉にブースは目をつむり俯きながら耳を傾けていた。
そして彼の言葉が未知なる敵との恐怖におびえる周りの冒険者をある意味励ました。
ここから逃げ出してもいい、仕方がない、きっと誰も攻めることはないだろう、そんな思いが彼らの中で渦巻き始めた。
「みんなが皆お前みたいに英雄志望じゃねえんだよ、、悪いが俺は降りるぜ、」
そして色黒の冒険者の男はブースに吐き捨てるように言い自分たちの前にいるブースに背を向けた。
「あのー、皆さん揃って何してるんでしょうかー?」
丁度その時遅れてやって来たのかそこにいた冒険者たちにある女性がおずおずと尋ねた。
「レスペシオ!?」
その声にマーニが反応した。
やって来たのはレスペシオだけではない、他の受付嬢の姿も見受けられる。
「な、なんで受付嬢たちがやってきてるんだ?」
冒険者の一人は驚いた様子で言った。
「彼女たちだけではないよ、」
そう言って受付嬢たちの後ろからギルド支部局長ディエフとその付き人のフォンがやって来た。
「支部局長まで!?」
思いもよらない人物の登場にさらに驚きの色を示す冒険者たちにディエフは柔和な笑みを浮かべた。
「君たちの負担が大きいのは十分承知の上で頼みたい、どうか力を貸してくれ、」
ディエフはそう言うと冒険者たちに向かって頭を下げた。それに続いてフォン、受付嬢たちも彼らに頭を下げた。
「君たち冒険者が何を思ってクエストを行っているかは我々ギルド支部の者は介入しないという方針でやって来た。クエストを発行する側とクエストを行う側、君たちはただそれだけの関係だと思っているのかもしれないが我々職員、そしてこの都市の住民は君たち冒険者の存在に大きく感謝しているんだよ、」
ディエフは顔をあげると冒険者一人一人の目を見ながら話し始めた。
「君たちのおかげでこの都市に暮らす住民の安全は守られてきた、魔法兵士たちもいるが、生活の一部である存在の君たちがいるおかげで豊かに安全に住民は暮らしていけるんだ、だからもう一度立ち上がってくれ、」
再びディエフ一同は冒険者たちに頭を下げた。その行動に冒険者たちは困惑した。
「確かに僕たちは元々誰かのために闘うわけじゃない、君たちの言うことは正しいと思う。僕は英雄気取りでおかしいのかもしれない、、」
それまで黙っていたブースは言う。
「それでも、今まで笑って僕たちにありがとうと言ってくれた沢山の人たちを見捨てることはできない!彼らの笑顔を守ることができたら、彼らの笑顔をもう一度見ることができるなら、僕は英雄気取りでも何でもいい、」
「それが僕の目指した冒険者だから!!」
冒険者ブースのその言葉は目の前の殺伐とした禍々しい巨大な塊に怯える冒険者の心に一抹の希望を与えることとなった。
俺は子供のころから冒険者に憧れた。勇敢で自由なその姿に。家族で都市の外に出かけた際突然魔物と遭遇した。助けを呼ぼうにも兵士はいない、俺は魔物の鋭い爪で右目を斬られてしまった。家族共々魔物に殺されるのは時間の問題だった。
そんな時さっそうと現れたのが冒険者だった。彼らは数では劣るものの怯むことなく魔物に向かっていき次々と魔物を倒していった。
その日の夜、斬られた右目の痛みよりも勇敢に闘う彼らの姿を見てからの興奮の方が勝っていた。誰にも縛られることなく自由にそして勇敢に強くなりたいと思った。
だがそれが今はどうした?自分の身の丈に合ったクエストを自分で決める?それは俺たちの自由だ?笑っちまうぜ、俺が求めた自由、憧れた勇敢な勇姿はそれなのか?
違うだろ!
『大丈夫か?』
『うん、助けてくれてありがとう!』
『ありがとう!』
『ありがとうございます、』
『ありがとな!』
いつからだ?自由をはき違えちまうようになったのは、目の前の報酬しか考えられなくなっちまったのは、こんな笑顔を忘れちまうなんて、どうかしてたぜ、、俺もあの冒険者たちみたいに!
「、、ブース、前言撤回だ、やるぜ、、俺も!」
色黒の冒険者マシロは気合に満ちた表情で笑みを浮かべてブースに言った。
「怖いのは分かる、俺も怖え、けどよ、思い出しちまったんだ、ガキの頃憧れた勇敢な冒険者の姿を、かつて俺に笑顔で感謝する住民の姿を、」
「別に英雄になろうって言ってんじゃねえ、そんなのブースに任せちまえばいい、俺たちの憧れた勇気の象徴がこんな中途半端なものでいいのかよ!」
「住民たちを守れるのは俺たちなんだぞ!」
ブースが灯した冒険者たちの心を、勇気の灯を、マシロがさらに大きく燃え上がらせた。彼らの叫びは消えかけていた冒険者たちの心に、勇気に、再び火を灯した。
「くそ!やってやるよ!俺も!」
「俺だって!」
一人、また一人と次々に他の冒険者も名乗りを上げた。ブースの勇気の灯が、マシロに、周りの冒険者の心に燃え移りそれは大きな炎となった。
「ここは危険です支部局長たちは避難を、」
マシロはディエフや受付嬢たちに避難を促した。
「我々も共に闘うよ、受付嬢たちは治癒魔法に長けている者が多い、それに、、」
マシロの提案にディエフは首を横に振って言った。さらにディエフが後ろに目をやった。
その先には白銀の甲冑を纏った魔法兵士たちがいた。
「それに彼らも呼んだ、すべて君たちに任せるのは悪いからね、」
二ッと笑みを浮かべながらディエフは言った。
「支部局長、、」
「よし!勇敢なる冒険者よ今こそその勇士を示せ!!」
「「「「おおおおおーーー!!!」」」」
高らかに叫ぶブースに冒険者たちは続いた。
「君らも闘うんだろ?」
ブースはエイミーたちに尋ねた。
「そのつもりですけど、でも、彼が、、」
エイミーは返答するもののやや困ったようにシバを指差した。
エイミーの指差す先には黒いオーラを纏ったシバの姿があった。




