第81話
初めて異世界の武器である”銃”を手にした時の興奮は形容しがたいものだった。
日の光を反射し一瞬の閃光の後に地面に突き刺さるその日本刀を手にした時はその興奮が再びシバの中で再燃するように湧き上がった。
美しい波模様の描かれた刀身は日の光を反射させキラリと煌めいた。
体術や剣術の模擬戦のように開始を告げる合図はない。
再燃する興奮を抑えるようにシバは深く息を吐いた。激しく騒ぎ立てる鼓動を落ち着ける。
お互いの呼吸が重なった瞬間、同時に地を蹴った。
シバは彼女との距離を一気に詰め刀を頭上に掲げた。
対して銀髪の彼女は体を捻り長剣を体に引き寄せる。完全に高速突きの連撃の構えだ。
彼女の突きよりも一歩速くシバは縦切りを放った。刀身が霞むほどの速度で彼女に迫る。
自分の突きの速度にそれなりの自信があった彼女だが後手に回るのを久しく感じた。
突きの構えから瞬時に受けの構えに移る。
シバの頭上から振り下ろされた一撃を彼女の長剣は受け止めた。
だが甲高い剣同士のぶつかる衝撃音が響くこともなければ火花が散ることもなかった。
なぜなら彼女がシバの打ち込みを自身の長剣の剣身で滑らせ受け流したからだ。
自身の刀が受け流されたと分かると足を踏ん張り前方に傾く体を踏みとどめシバは瞬時に後方へ大きく跳んだ。
彼女はシバの一撃を受け流すと流れるように剣先をシバに向ける。彼女お得意の突きの構えだ。
彼女の右手が突き出されシバの体の中心に長剣の赤黒い光を纏った剣先が吸い込まれていく。
だが彼女の剣先がシバの体を捉える直前にシバの刀を持つ右手が揺れるようにぼやけた。
同時に彼女の長剣の剣身に小さく火花が上がり突きの軌道がずれシバの肩をかすめた。
彼女はシバの右手がぼやけて見えたのが高速で刀を振ったと理解した。高速で動かした刀で彼女の突きを弾いたのだ。
それでも臆することなく彼女は体勢を立て直すと長剣を構えた。
ほんのりと淡い紫色の光が彼女からにじみ出た。その光はすぐさま移動し彼女の持つ長剣に集まった。
「?」
シバは彼女の様子に警戒するように眉をひそめた。だがその直後目を見開いた。
淡い紫色の光が集まった長剣はさらに太くなり大剣へと変化した。紫色の光がオーラとなって長剣を包んだのだ。
シバはさらに彼女から距離を置いた。しかしながらそれでもその圧力がビシビシと頬を殴るように伝わってくる。
シバは目の前のオーラを纏った大剣にそしてその大剣の放つ圧力を受けうっすらと笑みを浮かべた。
強者を前に一歩も引く気はない、むしろ嬉々としている。そう言った面持ちでシバは強く刀の柄を握る。
そのオーラを纏って肥大した長剣を後ろに向け彼女はシバに突進した。
シバもそれを迎え撃つべく刀を中段に構えた。
彼女は体を大きく開き後ろに向けられた大剣を大きな半円を描きながら振り下ろした。
その速度は大剣からは想像もできないほど速い。
だが大振りすぎるモーションによりシバは大剣との間合いを目測し後ろへ下がった。
シバの目測通りに撃ち込まれた大剣はそのまま地面に叩きつけられた。
その大振りの一撃がシバに直接襲うことはなかった、直接は。
縦に素直に振り下ろされた大剣によって生み出された紫色の斬撃が突風を纏って前方のシバを襲ったのだ。
「うぐっ!」
呻き声を上げながら中段に構えた刀でその斬撃を受けるシバ。
だがその威力と周囲の突風に歯を食いしばるも踏みとどまることはできず後方へ吹き飛ばされた。
凄まじい重さだった。地面に叩きつけられたシバは軋むように全身に激痛が走る。
治癒魔法をかけながら彼女の方に視線を向けた。
「、、!」
すでに彼女は両手で体験を握り体の右側で構えていた。
治癒魔法の手を止め痛む体に鞭を打って慌てて体勢を立て直す。
だが容赦なく彼女は大剣を水平に振った。その速度はやはり速くそれでいて大袈裟なくらい大振りに大剣は撃ち込まれた。
大剣の大振りからは再び紫色の斬撃と突風が生まれシバを襲った。
シバは刀を前に構え斬撃自体の直撃は避けようとした。
斬撃と刀が衝突し直撃は免れたもののその威力は殺されることなく突風と共に吹き飛ばされた。
激痛に顔を歪めるシバであったが二度も斬撃を正面から受けた刀を見るとうっすらと笑みを浮かべた。
シバの手にしている日本刀はシバの笑みが映りこむほど真新しい状態のままで傷一つ付いてはいなかったのだ。
それからは治癒魔法をかけつつシバは彼女の斬撃を避け続けた。
大剣ゆえの大振りで速度は速くても斬撃の来る方向は分かるため刀を使わずとも直撃を回避するのは容易だった。
何度か大剣が振られた後に彼女が大剣を振り次の構えに移るタイミングでシバは彼女に向かって跳んだ。
右手に持つ刀を体の左側に抱えるように構える。
大剣を後ろに振りかぶった彼女の正面はガラ空きだ。
このままでは間に合わないと判断したか彼女は大剣を元のサイズの長剣に変形させた。だが長剣はそれでも紫色のオーラを纏ったままだ。
その圧力から威力は大剣の時と大差ないように感じられる。
左足の踏み込みに続き一瞬で距離を詰めるシバに合わせて右手を高速で閃かせる。
不気味な紫色の生き物のようにしなった長剣がシバの体を捉えた。
対してシバは腰を絞るように左に捻り一閃、刀を振り抜いた。
パキッ!!
澄んだ金属音が申し訳なく控えめに響いた。
かすかに紫色のオーラを纏った銀色の鋭利な破片が舞い上がり日の光を反射し煌びやかに光りながら落下する。
地面に突き刺さった銀色の破片は、真ん中から折れた長剣の剣身だった。やがて紫色のオーラは風に吹かれるように消えた。
シバと銀髪の彼女はお互いに立ち位置を入れ替えるようにたたずんでいた。
彼女はあの一瞬で水平に振られた自身の長剣を左に抱えるような状態から引き抜いたシバの刀が打ち砕いたと理解した。
「面白い、、」
半身から折られた長剣を手に水平に振り切った体勢のまま彼女は驚きの色を滲ませつつもうっすらと静かに不敵に笑い呟いた




