第79話
シバは上昇し鋭い眼光の銀髪の女と真正面で対峙した。
改めて見ると腰まで伸びる艶やかな銀髪と軍服のような装いに腰に携えられた長剣も相まってどこか気品を感じさせる。
また魔族特有の角が左側の前頭部に一本生えており腰からは漆黒の翼が広げられていた。
その漆黒の翼が一瞬ピクリと動いた。
「、、!」
直後、無数の羽根が勢いよく発射された。さながら黒い弾丸だ。
シバはその場では避けきれないと判断したのか大きく身をひるがえしこれを回避した。
シバの回避に合わせて立て続けに黒い羽根の集団は魚群のようにその後を追う。
空中で旋回を繰り返し移動するシバだったが自身を追う羽根に向かい合い魔弾を放った。
魔弾と羽根がぶつかり爆発が起き黒煙が上がった。
だがその黒煙の中から銀髪の女が飛び出し一瞬でシバの懐に入った。
彼女の右手の五指には鋭く先端の尖った刃が具現化されていた。
刃はシバの腹を引き裂かんと斜めに振り上げられた。
一瞬で間合いを詰めた銀髪の彼女は自分の攻撃が決まったと小さく笑みをこぼした。
シバはやや後方へ下がってこれを回避したが彼女の五指はシバの腹を浅く引き裂いた。
負けじとシバも斜め上に振り切られた彼女の手口を掴み素早く彼女の脇腹に蹴りを入れた。
だがシバの蹴りは空を切った。
正確には彼女の全身が漆黒の羽根となりボロボロと崩れ実体が消えたのだ。
「!?」
空中で舞う黒い羽根は風に吹かれていった。
風に吹かれる羽根を目で追っていたシバの背後を魔弾が襲った。
シバはすぐさま反応し腕を払いそれを弾き返した。
だがまたしてもシバの腕は空を切った。
魔弾は再び漆黒の羽根とりなりシバの腕をすり抜けた。
「チッ、」
シバの周りを黒い羽根が舞い散る中シバは上空に意識を向けた。
腕を組みシバを見下ろす銀髪の女の姿がそこにあった。先ほどの彼女はどうやら分身だったようだ。
彼女はおもむろに腰に据えていた長剣を鞘から取り出すとその剣先をシバに向けた。
直後彼女はシバに向かって急降下した。長剣をシバに突き刺すようにやや体を捻り構えている。
シバも素早く魔法陣を展開しシバ愛用の自動拳銃M1911の生成を試みた。
魔法陣が展開されるとすぐに光の粒子が集まりその形を形成していき手にM1911が握られた。
「!?」
銀髪の彼女はシバの手にする見たこともない黒い物体に一瞬目を疑った。
シバを突き刺さんと迫りくる彼女に銃口を向けそのトリガーを引いた。
銃口から発射された魔力の弾丸は長剣を構える彼女に向かって真っすぐ伸びていった。
「!!」
彼女は急降下しながら自身に向け放出された弾丸を体を傾けることによりギリギリ回避した。
彼女の表情から驚きの色がにじみ出ている。
だがシバの放った弾丸は一発ではない。さらに連続でM1911から放たれる弾丸は次々と彼女を襲う。
初見でこの弾丸をかわすだけのことはあるかそれ以降の弾丸も全て回避した彼女はあっという間にシバの目の前まで来ていた。
落下の加速も加えて突き出された剣先がシバに迫る。
全弾かわされた挙句至近距離から撃った弾丸もかわされたシバは反対の手で防壁を展開させた。
鬼気迫る表情の彼女は防壁などお構いなしに長剣を突き刺した。
銀髪の彼女の剣先とシバの防壁が衝突した瞬間その勢いの激しさに突風が起こる。
せめぎ合う剣先と防壁、シバの防壁も簡単には破られていない。
剣先と防壁がぶつかり合う中でシバは動いた。
彼女に見切られたとは言え再び引き金に指をかけM1911の銃口を向けた。
「これなら避けられないだろ、」
剣先と防壁の攻防の一瞬で彼女の体の動きが止まったその瞬間にシバは魔力の弾丸を打ち込んだのだ。
発射された弾丸は確実に彼女の額を捉えていた。だが真っ直ぐ彼女の額に向かう弾丸が彼女の額を突き抜けることはなかった。
どこからやって来たのか先ほどの漆黒の羽根が彼女の額を弾丸から守っていたからだ。
「なに!?」
信じられないと言った表情のシバにさらに彼女は長剣に力を込めた。
瞬間彼女の手にする長剣は赤黒い光を纏った。
一気にシバの防壁はその力に耐えきれずに木っ端みじんになった。
そのまま赤黒く光る長剣はシバの掌を貫きその剣先はシバの頬をかすめた。
シバが首を傾けなかったら逆にシバの額を彼女の長剣が貫いていた。
「くっ、、」
彼女はすぐさま長剣を引き抜きさらに突き刺そう体を捻る。
長剣が引き抜かれたときにシバは彼女から一度距離を置いた。
長剣で貫かれた手のひらや頬からは血が出てはいるもののそれよりも焦げたような傷口が目に余る。
シバは治癒魔法を自身に付与しながら銀髪の彼女の出方を伺った。
だが目の前から忽然と彼女は姿を消していた。
シバは後ろを振り向き無駄だと分かっていながらも牽制で彼女にM1911の銃口を向け弾丸を放った。
しかし彼女はその弾丸を避けるのではなく今度は長剣で全て弾いたのだ。
「初見は驚いたが、弾の出る筒の向きとお前の指先を見ていれば造作もない。」
彼女はそう言うと再び一気にシバとの距離を駆け抜け体をやや右方向に捻る。
彼女が長剣の突きの構えになった時にシバはM1911を手放した。空中に放り出されたM1911は光の粒子となりその形を崩していった。
銀髪の彼女は長剣を持った右手を素早く突き出しシバの体に照準を合わせた。
加速と自身の体の捻りによる運動エネルギーを乗せた突きを右肩に二発連続、三連撃目に未だに傷の癒えていない左腕を狙う。
シバは最初の2連撃を回避するべく体を右に捻った。
だがその体勢は左腕を狙った三連撃目に体を近づけ自ら当たりに行くことになってしまう。
案の定彼女の最後の一発に吸い込まれるようにシバの左腕はわずかではあるが前に出た。
彼女の長剣の剣先がシバの左腕を貫かんとしたその瞬間剣先が肉を突き刺す生々しい感触はなく代わりにキンッ!という短く甲高い音と火花が弾けた。
銀髪の彼女は長剣を握る右手に痺れるような衝撃を受けた。
同時にシバの左腕を捉えたはずの長剣は上から叩きつけられる勢いに負けその軌道がずれた。
いや、ずらされたのだ。シバが右手で振り下ろした細身で長くやや反ったものによって。




