第77話
助け出した亜人や魔族を一か所に集めマーニは言った。
「転移、」
胸の前に出した両手を広げると手に収まるほどの大きさの立方体は徐々に拡大していきアイやエイミーも含め全員を包みこむ結界となった。
そして彼らを包んだ結界は白い光を発し光が収まったときにはすでに結界ごとその場から姿を消した。
「アデルフィー、しっかりつかまってろよ、最短ルートで地上に戻るぞ、」
シバはアデルフィーに声をかけると階段へと駆け出した。
だがマーニの転移による光と何らかの揺れに気をとられていた黒服の男たちもシバを捕らえようと部屋の出入り口を固めた。
黒服の男たちの数は十人、対してたった一人のシバ、加えて小さな少女を抱きかかえている。
黒服の男たちは半数が前に出て迫るシバに対応し残りの半数が扉の前を陣取った。
前衛の男たちは魔法陣を展開し一斉に鎖を放った。
計五本の鎖が真っ直ぐシバに向かって伸びていく。
シバは跳躍しこれをかわすが後衛の男たちはこれを待っていたかのようにすでに魔法陣を展開していた。
後衛の男たちからも魔法陣から鎖が放たれ空中にいるシバに向かって伸びる。
左腕で抱きかかえるアデルフィーに後衛の男の鎖が一本向かってくるとシバは体をひねりこれをかわした。
同時に首を傾け別の鎖が頬をかすめるもぎりぎりで避けた。
だが先ほど避けたはずの前衛の男たちの鎖が即座に方向転換し地面に着地するシバの背中めがけて向かってきた。
シバは後衛の男たちが放った鎖を一本掴むとその男もろとも振り回した。
鎖に鉄球が繋がった武器、通称モーニングスター(フレイル型)のごとく黒服の男は前衛の男たちへと飛んでいった。
横に振り回された男は一振りで前衛の男たちを薙ぎ払っていった。
それに伴いシバの背中めがけて放たれた鎖は行き場を失いお互いに絡みあい勢いはかき消された。
シバは地面に着地するとさらに加速した。
扉を死守するべく前衛の五人と後衛の一人がやられ残る後衛の四人はやけになって襲い掛かる。
一人が拳を突き出した。だがシバは難なく繰り出されたパンチを片手で受け止め自身の側に引き寄せた。
同時にその男の顔面にシバのパンチが炸裂した。
残り三人。
「クソがぁぁ!」
黒服の男が叫びながら魔法陣を展開させ魔弾を放った。
シバは腕を振り払い防壁を展開し魔弾を防いだ。直後その男の元へ一瞬で距離を詰め頭を鷲掴みにし思いきり地面にたたきつけた。
シバの身体強化も相まって男の体は地面にめり込んだ。
残り二人。
だが残る二人はシバに背を向け部屋を後にしていた。自分たちの役目よりも保身を優先したようだ。
だがシバは容赦しなかった。というよりもこれからシバの進む道の前に彼らがいるだけなのだが。
シバは扉を抜け階段を駆け上がる。目の前には必死に逃げる男たちが見えたが敢えて攻撃はしなかった。
「おい!早くしろ!奴が追い付いちまう!」
「分かってる!こっちには鍵があんだ!問題ねえ!」
階段を上りきった男たちは隠し扉の鍵を開けていた。片方がズボンのポケットからカードの様なものを手にし隠し扉にかざしている。
「なあ、やけに遅くないか、、」
「ああ、確かに、だが今がチャンスだ、」
シバに怯えかなり焦りの色が見える一方で思ったよりも遅いシバにやや安堵した。
カードをかざしてから魔法陣が表示されると隠し扉は解除された。
二人が急いで扉を抜けシバが通れないようにすぐさま閉めようとしたが遅かった。
待ってましたと言わんばかりのタイミングで扉を通り抜けたシバを認識した時には黒服の男たちは意識を失いかけていた。
勢いよく隠し扉を抜けたシバはその勢いのまま左の男の顔面に膝蹴りを食らわせた。
直後隣の男に向かってシバの回し蹴りがきれいに決まった。
残り0人、制圧完了。
「アデルフィー、とりあえず終わったぞ、」
シバの胸に顔をうずめるアデルフィーの背中をさすりシバは安心させるように穏やかな声で言った。
「たった一人で、すごいです、シバさん!」
シバを見上げて満面の笑みでアデルフィーは言った。
「そうかそうか、すごいかー!」
アデルフィーの屈託のない笑顔に得意げな顔で彼女の髪をワシャワシャと撫でるシバの様子は完全に親戚のおじさんのそれだった。
「でもお姉さまはもっとすごいのです!」
ワシャワシャと髪を撫でられ嬉しそうにするアデルフィーだったが自慢げに言った。
「そのお姉さまとやらよりも俺の方がすごいということをいつか証明してやろう、」
幼い少女相手にややムッとした様子で大人気なくシバは言ったがアデルフィーも負けていない。
「いいえ、お姉さまはとても強いのです!」
アデルフィーも若干ムキになってシバに言い返す。
だが再び地下が揺れた。
「さっきからこの揺れは何だ?とにかく地上に出ないと、」
シバはアデルフィーを抱え来た道をたどって入り組んだ迷宮のごとき地下通路に戻った。
アデルフィーたちを監禁していた部屋に通じる壁は一度解析魔法をしているので簡単に抜けることができた。
「正直こっからが問題なんだよな、」
この地下に侵入してからかなりの時間彷徨っていた地下通路でいちいち通った道を覚えてはいなかった。当然帰り道など見当もつかないのだ。
「こうなることを想定して通ったところに印でも付けておくべきだった、、」
先程までの自分を恨みながらシバはどうしたものかと頭を悩ませた。
「もしかして帰り方が分からないんですか?」
眉間にしわを寄せどうするか考えているシバの様子を見てアデルフィーが尋ねた。
「え、いや、そんなことは、ないぞ、うん、アデルフィーは俺が守るから、」
歯切れ悪くも年上としての体裁を守りつつシバは答えた。
「まあ、だれしも忘れてしまうことはあるでしょう、あまり気にしない方がいいと思いますよ、お姉さまも自分の行いに後悔するなら先に行動しろといつも言っています。」
(こんないたいけな少女に気を遣われた挙句、慰められるなんて、、)
「ベ、別に後悔なんてしてないぞ、ちゃんと地上に出る方法はあるぞ、」
シバはアデルフィーを地面に降ろし自分から少し離れるように言った。
「アデルフィー、最短ルートで帰るって言ったろ、これが最短ルートだ、」
シバはそう言うと魔力を右手に溜めるようにやや膝を曲げさらに腰を落とした。
右手に黒いオーラが纏い魔法陣が展開された。
すると黒い光点が現れそれが徐々に大きくなっていった。
直径一メートルほどまで肥大した光球をシバは通路の天井めがけて勢いよく放った。
放たれた光球は天井を突き抜け勢いが収まることなくぐんぐん上昇していった。
「ほれ、アデルフィー行くぞ、」
シバはアデルフィーを手招きした。
「確かにこれはものすごく早いですね、」
呆然としながらもアデルフィーはシバのもとへ駆け寄り抱きかかえられた。
シバは自分の放った光球の作った地上へと続く吹き抜け穴を浮遊魔法で上昇していった。
地上からの光が多くなりやがて二人は地上に戻ってきた。
だがそのまま空中から見渡すと元いたオークション会場の広場からかなり離れた場所から出てきたことが分かった。
シバがオークション会場の広場の方へ視線を向けるといくつか煙が立ち上っていた。
「なんだ、あの煙、、それにやけに静かだな、」
先程までの賑わいはなく妙に静まり返っている広場に変な胸騒ぎを感じシバは様子を見に広場の方へ移動した。
「なんだ、これは、、」
広場上空に到着してすぐに自身の胸騒ぎの原因が判明した。
広場付近の建物は全壊し煙が立ち上っていた。広場に併設されていたステージは跡形もない。先ほど見た煙の正体はこれだった。
そして広場にいた大勢の参加者の死体が見るも無残に横たわっていたのだ。
シバはアデルフィーに見せないように自身の胸に顔をうずめさせたが自分自身正直驚きを隠せなかった。
何者かによる攻撃を受けた、この場にいた人間を逃がすことなく殺していることから推測するにおそらく魔族によるもの、シバはそう確信した。
「とにかく皆のところに戻るのが先だな、」
シバは考えるのをやめ一度ベルカの宿屋に戻ることにした。
だが突然、魔弾がシバに向かって放たれた。
「何だ!?」
シバは放たれた魔弾を回避し魔弾の放たれた方向に目をやった。
視線の先にはいくつもの魔弾が浮かんでおり一斉にシバに向かって飛んできた。
「おいおい、マジかよ!」
迫りくる複数の魔弾を回避しながら移動するも魔弾はシバを追従し決して逃そうとはしない。
この数の魔弾を回避しつつアデルフィーを抱えていたら正直反撃に移れない。そう思ったシバは球体の防壁で自分たちを包んだ。
「アデルフィー、今からお前をベルカさんたちのところへ送る、着いたら皆に何者かが広場を破壊して俺を攻撃していると伝えるんだ、」
次々と魔弾が防壁に衝突する中でシバは黒い円を出現させた。
「これはゲートだ、ここを通ればベルカさんのところに行ける、」
「ならシバさんも一緒に、」
焦った様子で不安げにアデルフィーは言った。
「これは一人しか通れないんだ、だから、頼んだぞ、」
半ば無理やりシバはゲートにアデルフィーを押し込んだ。
アデルフィーがゲートを通ったことを確認するとシバは防壁を解除した。
シバも魔弾で迫りくる魔弾を相殺していった。
やがてシバに向かって放たれたやってくる魔弾はなくなった。
シバは魔弾の放たれたやや上空の空を向き不敵に笑みを浮かべた。
視線の先には何者かがシバを見下ろしていた。
「さて、いきなり攻撃してくるなんて、どんなやつか拝ませてもらうぜ、」




