第76話
「ねえ、さっきの扉を解除させたみたいに解析魔法を使ったら首輪を外すことができるんじゃないの?」
狭い階段を小走りに降りている中でエイミーが言った。
「あの首輪は超複雑なんだよね、管理者にすべての権限があるから他の者が手を出したら誤作動しちゃうんだよ。だから下手に手を出せないんだよ、」
エイミーの問いにマーニが暗い面持ちで答えた。
「誤作動、、」
エイミーは再びマーニに尋ねたがマーニは声には出さず首を横に振った。
その反応にエイミーはおそらく答えたくないこと、つまり死を意味していると悟った。
「、、、けれど逆にその管理者の権限があれば解除できるということ。」
アイはマーニを一瞥し言った。
「そうだね、、」
マーニは短く肯定した。だがシバはその時のマーニが悲しい雰囲気を纏っている様な気がした。
豪勢な部屋の隠し扉から奥に続く階段は曲がることなく真っ直ぐ伸びていった。やがて最後の段差を降り奥の部屋の前までやって来た。
部屋と外を隔てる扉には特に魔法がかけられている様子はなく小さな窓がつけられていた。
シバたちがその窓から中の様子を伺うと中には五名の黒服を着た男たちがいた。
そしてその部屋の半分以上を占めていたのが鉄格子で覆われた牢屋だった。中には亜人や魔族が入れられていた。
「当たりみたいだな、、」
シバは部屋の左右を見渡し残りの三人に伝え状況を整理した。
シバたちから見て部屋の左側から鉄格子の牢屋が部屋の三分の二を占めるように三レーン規則正しく並んでいた。さらにその牢屋の上には同じように牢屋があり二段の構造となっていた。
部屋の右奥には黒服の男一人が中で奴隷たちの様子を観察しているようだった。残りの四人の男たちは歩き回り奴隷たちを品定めするように監視している。
「ねえ、あの奥の男が管理者かしら、」
奥で座っている黒服の男を指差しエイミーは言った。
「、、、その可能性は大きいと思う。」
アイも珍しくエイミーの意見に賛同した。
「、、、けれど他の四人が管理者という可能性も無いわけではない。」
「じゃあ、さっきみたいに眠らせてちょっと調べてみようか、」
アイの付け足しに同意しマーニが提案したことを皆頷き受け入れた。
作戦は油断している黒服五人を催眠魔法で眠らせている間に管理者とアデルフィーを探す。どうにかして首輪の解除を行う。マーニの転移で帰還する、の三段階だ。
「じゃあ、行くよ、」
そう言うとマーニは魔法陣を展開させた手を部屋に向けた。すると中の黒服の男たちは全身の力が抜けたように脱力して眠りに落ちた。
シバたちは部屋に侵入した。部屋に入ると牢屋の中でうずくまっていた奴隷たちが一斉に目の色を変え必死に助けを求めた。
「みんな、大丈夫、助けに来たよ、」
マーニが代表して穏やかな声で安心させるように呼び掛けた。その間にシバたち三人は眠っている男たちを調べ上げた。
「この中で誰が首輪の権限を持っていたか分かる子はいる?」
そのままマーニは首輪の管理者を知っているかどうか奴隷たちに尋ねた。だがまだ怯えているのか誰も答える者はいなかった。
「じゃあ、ここに連れてこられて首輪をつけさせられたとき手の甲に魔法陣が浮かび上がっていた男はこの中にいるかな?」
マーニは質問を変えた。より具体的な質問だった。
「あの人、」
すぐに答える者はおらずマーニもお手上げと言った様子だったが一人奥の部屋にいる男を指差す亜人の少年がいた。
その少年の一声を境大生が次々と亜人の少年と同じ黒服の男を指差した。
「少年!」
マーニはシバたちに管理者が誰なのかを伝え奥の部屋に向かわせた。
「ん、うーん、あれ、俺は一体、?」
マーニの催眠魔法で眠らされた黒服の男の一人はゆっくりと目を覚ましていった。ゆっくりと瞼を開けぼやけた視界には自身を覗き込む者がいた。徐々にその姿は鮮明になっていく。
それが十代後半くらいの少年だと認識した時にその少年は微笑を浮かべこう言った。
「おはよう、」
「何を言って、、る、んだ、、」
目の前の謎の少年の言葉に反論しようとした時腹部に熱いものを感じた。徐々に痛みを伴っていくその箇所に手を当てると生暖かい感触が手に張り付いた。
自分の手に目を向けると真っ赤な鮮血がべったりと付着していた。
それが自身の血で目の前の少年によるものだと理解した時にはすでに遅かった。
「そして、さようなら、」
ハッと目の前の少年に目を向けるとその少年の顔からは笑顔が消えていた。自分の額に黒い何かを突きつける少年の表情は感情が読み取れない、無だった。
途端に意識が急に遠のいていく。何らかの衝撃で自分の体が後ろに倒れるのをかすかに感じた。その際に自身の視界の端に赤く染まった黒い物体が転がっていたがそれについて考えることもなく彼は伏した。
「起きなって、」
マーニは亜人や魔族たちに教わった奴隷の管理者を叩き起こした。
寝ぼけまなこの管理者の男は自身の体の自由が奪われていることに気が付くと完全に意識を取り戻した。
「なんだ貴様ら!」
手足を鎖で縛られ地べたに座る管理者の男は目の前に立つアイ、エイミー、マーニを睨み不格好な姿で吠えた。
「、、、うるさい、要求は一つ。彼らの首輪を外しなさい。」
アイは魔法陣を展開させた手をその男に向けたまま言った。
「まずはこの鎖をほどいてだな、」
「少年、」
管理者の男の言葉を遮りマーニはシバに促した。
マーニの合図を受けるとシバの手元には光の粒子が集まり自動拳銃M1911が生成された。異世界人の残した本に書いてあったものだ。
シバはM1911を手に目の前で眠っている黒服の男を起こした。そして腹と額をM1911から放たれた光の筋が貫通した。
管理者の目の前で残る四人の黒服のうち最後の男を殺したのだ。
「、、、立場を理解したかしら。」
冷徹に言い放つアイの言葉を受け目の前に転がる四人の死体を見た管理者の男は目の前のシバたちが自分たちを眠らせ彼らを殺したのだと理解した。
「もし首輪を全員解除したらあなたの命は助けてあげる。あなたは彼らの首輪を外すだけで他の四人みたいに理不尽に殺されないで済むのよ。」
マーニは管理者の男の耳元でささやいた。
「分かった!首輪を外す!だから殺さないでくれ!」
管理者の男は必死に言った。
「そうだね、でもまだ信用したわけじゃないの、おかしな行動をとったら、ううん、私たちがおかしな行動と判断したら、、分かってるわよね、」
マーニの残忍性を感じ取り生唾を飲み込む管理者の男は慎重な面持ちで頷いた。
アイは管理者の男を鎖につないだまま立ち上がらせると牢屋に閉じ込められている亜人や魔族たちの方に連れて行った。
牢屋の前まで来ると鎖をほどき目線で首輪の解除を行うように促した。
それを受け管理者の男は中の亜人の娘に手を向けた。その際慎重に左右のアイ、マーニを一回チラリと見た。汗が頬を伝って流れ落ちる。
亜人の娘に向けられた手に魔法陣が展開された。
その瞬間マーニが魔法で具現化させた手刀で彼の腕を断ち切った。
「がぁぁぁーー!!」
腕を断ち切られた男は腕を押さえうずくまった。
「違うよね、首輪を外すのはそうじゃないよね、」
うずくまり苦痛に悶える男にマーニは言い放った。
「、、、私たち魔族は治癒魔法が使えない。けれどここには治癒魔法の使える人間が一人いる。このままだとあなたは出血多量で死ぬけれど、どうする?」
アイはシバを見て管理者の男に言った。
「分かった!分かったから早く助けてくれ!」
管理者の男は必死に懇願した。
「そうやって奴隷が言うことを聞くから止めてと懇願してもきっとあなたたちは止めなかったのよね、」
マーニはそう言うとうずくまる男の片足に手刀を突き刺した。
「ぎゃあぁぁ―――!!」
「あなたに死なれたら元も子もないからね助けてあげる、少年、」
マーニはシバに治癒魔法を促した。シバは治癒魔法で傷口を塞いだ。
「ハァ、ハァ、ハァ、悪魔め、、」
脚の傷がなくなり立ち上がりながら管理者の男は悪態づいた。
観念したように管理者の男は再び亜人の娘に手を向けた。今度は手の甲に魔法陣が浮かび上がった。
「ほら、これで解除した、、」
管理者の男がそう言うとエイミーは牢屋を破り亜人の娘に駆け寄った。恐る恐るエイミーは首輪に触れ首輪を外した。
首輪の取れた亜人の娘は泣きながらエイミーに飛びついた。
「、、、時間がない、早く。」
アイは隣の亜人の少年の元へ促した。
治癒魔法で管理者の男の腕を完全に元の状態に戻すのには時間がかかったがこの場にいるすべての亜人や魔族の首輪を解除させるのには十分なくらいだった。
それでも捕らわれていたのは100名以上だったのでそれなりに時間はかかった。
「それで銀髪の魔族の女の子はどこだ?」
マーニに断たれた腕が完治し再びアイに鎖で拘束されている管理者の男にシバは尋ねた。
「ここに連れてくる前の仮保管場所から脱走した奴か、あいつにはなぜか首輪がつけられなかったから奥で厳重に保管してるよ、」
管理者の男は素直にアデルフィーのことを話し出した。
「案内しろ、」
シバに言われ鎖をほどかれた男は奥へとシバを案内した。もう首輪はすべて解除したので下手に抵抗するのは止めたようだ。素直に従えば命は助けるとマーニに言われたことが効いているようだ。
「ほら、ここだ、」
奥にはひときわ頑丈に作られた牢屋にはうずくまる銀髪の少女、アデルフィーの姿があった。
シバは牢屋を壊しアデルフィーを抱き上げた。
「シバさん、、怖かったぁ、、」
シバに抱きしめられた途端アデルフィーの中でこらえていたものがあふれ出た。
「もう大丈夫だ、ごめんな、」
シバは自身の胸に顔をうずめる少女の頭を優しくなでた。
「これでいいだろ、早く帰れ、」
全て終わったと管理者の男は言ったが彼の前にマーニが歩み寄った。
「な、何だよ、、」
表情の見えないマーニに管理者の男は若干恐怖を感じながらも強気で言った。
「あなたみたいな人間を生かすと思ってるの?」
マーニは魔法で具現化させた手刀を男の胸に突き刺した。心臓を一突き、即死だった。
それから亜人や魔族たちを一か所に集め転移の準備を始めた。シバとアデルフィーもそちらに向かった。
その時部屋の扉から黒服の男たちが大勢やって来た。
「貴様ら!緊急事態との知らせの者たちか!」
だがそれとほぼ同時に地面が何かの衝撃で大きく揺れた。
「シバ!早く!」
マーニがシバに呼びかけるがシバが転移のために展開された結界内に入るよりも黒服の男たちの方がおそらく早い距離にいた。
「僕らは二人で何とか抜け出します!マーニさんたちは先に!」
シバは手を伸ばすマーニに言った。マーニも黒服の男たちを見て決心した。
「必ず二人で帰ってくること!」
マーニがそう言うと結界は白い光を放った。マーニの視界が眩い光に包まれる瞬間力強く頷くシバを残して転移した。
(シバ、、)
「シバさん、大丈夫ですか?」
アデルフィーは心配そうにシバを見上げて言った。
「ああ、大丈夫だ、安心しろ、」
不安そうに見つめるアデルフィーの髪をクシャっと撫で笑顔でシバは答えた。
地上から何らかの衝撃が次々と降り注ぎ大きく揺れる中でシバはこの揺れに戸惑っている黒服の男たちめがけて、地上へつながる階段を目指してアデルフィーを守りながら脱出を試みるのだった。




