第75話
「ハァ、ハァ、も、もうダメ、、、シバ、、」
どこか切なくそれでいて艶めかしい様子のエイミーはシバに体を預けシバの体に自身の体を重ねた。
「お、おい、エイミー、、?」
シバの鼻先とエイミーの鼻先が触れる距離、エイミーの熱のこもった吐息を頬で直に感じられる距離でエイミーはシバの唇に自身のそれを重ね合わせようと目を閉じた。
がエイミーの唇がシバの唇に重なることはなかった。
急にエイミーの重さを感じなくなったシバは飛び起きた。
「危なかったね、少年、」
聞き覚えのある声がピンク色の煙と甘い香りの源と思われる場所から聞こえてきた。
「マーニさん、」
シバは頼れるその声の主の名を呼んだ。
マーニがエイミーの開けた壺の蓋を閉じると徐々に霧とに香りは薄れていった。壁の隅にはエイミーがもたれ掛かるように座っており意識はなく眠っているようだった。
「いやー、部屋に入るや否やこれだもん、驚いたよー、」
笑みを浮かべながらマーニはシバのもとに歩み寄った。
マーニ曰くアイを拾って転移した先はシバが解除した扉の前だったという。
アイとマーニの見解では当然だがこの扉のキーがないと、若しくは鍵魔法を解除しない限り扉として機能しないというものらしい。
そこでアイが鍵魔法の解除に取り掛かったのだが試しにマーニだけ転移したら今いる部屋の前まで転移できたというのだ。
「それって、アイはいいんですか?」
「大丈夫―、念話で話したからね、それより、、」
マーニはシバから意識もなく力なく座り込むエイミーに視線を移した。
「多分あのピンクの煙と香りは女性の性的興奮を高める効果があるものだと思う、」
マーニはエイミーの様子から冷静に分析した。その頼れる背中に感心しているシバにさらにマーニは続けた。
「部屋の前でちょっとよろしくない感じの声が聞こえたから入ってみるとあのピンクの煙と甘い香りだもん。それにエイミーちゃんが少年のこと押し倒してたし、、」
ツンツンとへたり込むエイミーを突っつきながらマーニは苦笑した。それにつられシバも困ったもんだと苦笑した。
「それに女性向けだったから少年には効果がなかった、、みたいだね、」
マーニはそう言うとシバに向き直りじりじりとシバとの距離を詰めていった。
「マ、マーニさん?」
シバもマーニの様子が変だと思いながら後ろへ下がったが壁に阻まれてしまった。
「だから、わ、私も、その作用、受けちゃった、みたい、、」
シバの後ろの壁に手を突き残った指先がシバの体を沿うように触れる。
エイミーと同じく頬は紅潮し熱っぽい吐息が首元を撫でる。
さらに体を密着させマーニの舌がシバの耳を艶めかしくなぞる。そのまま首筋を這うように彼女の熱を帯びた舌が妖艶に動く。
「ちょ、あの、、」
マーニの手が愛おしそうにシバの頬を包む。新鮮な果実のように艶のある唇が引き寄せられるように自然にシバの口を塞ごうとする。
「、、、何してるのかしら。」
その声が聞こえた瞬間マーニは意識を失いシバの胸にもたれ掛かった。
「アイ、、」
シバの目の前にはただならぬ雰囲気を醸し出しているアイの姿があった。
シバは気を失っているマーニを静かに壁に寄せると警戒するように後ろの壁伝いにアイから距離をとった。
「ま、待て、お前は大丈夫だよな、安心していいんだよな、、?」
感情がなかなか表情に出ないアイを訝しげにシバは見つめて言った。
「、、、何が安心かどうかは分からなのだけれど。それよりも早く彼女たちを起こしましょう。」
そう言うとアイはエイミーの方に向かって行った。
「、、大丈夫、なのか、」
普段と変わらず無表情のアイの反応にひとまず安堵するシバだったが先ほどのマーニのことを思い返すと如何せん内心油断できないと言った表情でアイを見つめた。
「、、、早くマーニを起こして。」
エイミーの頬を叩くアイはシバに一瞥することもなく懐疑的な視線を送るシバにそう言った。
「あ、はい、」
アイの突き刺さるような言葉に気後れしたシバは言われた通りマーニを起こすことにしたのだった。
「違うのよ!あれは体が勝手にああなったのよ!」
エイミーとマーニが目を覚ましてから二人は、そしてなぜかシバも腕を組み仁王立ちするアイの前で正座をさせられていた。
「もとはと言えばエイミーちゃんが変な壺開けなければいい話じゃない、いい迷惑だよー、」
「いやそれこそ僕の方がいい迷惑ですからね、同罪みたいな感じで正座させられてるし、」
「、、、うるさい。」
口々に自分の主張を言い合う三人をアイが一喝した。
「、、、アデルフィーを助けに来たのに何をしているのかしらと言いたいことは山ほどあるのだけれどそれは後にして、そこに地下への隠し扉がある。」
積もり積もって言いたいこと、憤りに感じていることを押し殺してアイはある方向を指差した。
そこは部屋に入って壁一面に戸棚がある左側の壁と異なり二つの戸棚が真ん中で距離を開けて置かれていた右側の壁だった。
「どうしてそんなことが分かるのよ、」
正座しながらエイミーはアイに尋ねた。
「、、、私がここに来た頃にはほとんど煙は扉から抜けていていっていた。けれどわずかに残った煙があの二つの戸棚の間の壁と床の隙間か抜けていっていた。」
アイはエイミーを一瞥し答えた。
「地下に何かしらの空間があるってことだね、」
マーニの言葉にアイはうなずいた。
アイがその壁に近寄り注意深く除くと確かに分かりにくいが隙間があった。
アイは魔眼を発動し隠し通路の解析に取り掛かりものの数分で鍵魔法の解除に成功した。
隠し扉が横にスライドされてさらに地下へとつながる階段が露になった。
「ちょろいよなー、あいつら偽物にあんな大金払うんだもんな、」
「ああ、楽な仕事だぜ、」
隠し扉の解除、そして新たに地下へ通じる階段の発見に正座組の三人が歓喜に沸く中で外から二人の男の話し声が通路を反響して聞こえてきた。
「、、、早く、中に。」
小さな声で言うアイに三人は立ち上がり階段へ駆け込んだ。
アイに続きシバ、エイミー、マーニの順で階段を目指したがエイミーがよろけてしまった。
普段することのない慣れない正座で足が痺れてしまったのだ。
すでに階段の中にいるアイとシバ、は焦りの色を示したがエイミーの後ろにいたマーニが思いきりエイミーを押して隠し扉に飛び込んだ。
「おい、この薬知ってるか?」
「ああ、女を興奮させるヤツだろ、一回使ってみようぜ、」
塞がれた隠し扉を挟み部屋に入って来た男たちの下賤な会話が聞こえてきた。
「何とか間に合ったみたいだねー、」
薄暗い階段内で隠し通路を挟んで耳を済ませたマーニが安堵した。
「ちょっと!どこ触ってんのよ!」
外に声が漏れないように声を潜めながらも語気を強くエイミーは言った。彼女の顔は赤く染まっている。
エイミーの胸が彼女にの下敷きになっているシバの手によって鷲掴みにされていたのである。
エイミーはシバを引きはがすように離れると胸を押さえて怒りか恥じらいかその両方か定かではないが赤く染まった顔でシバを睨んだ。
「いや、確かに俺が悪かったが飛んできたお前もお前だろ、、」
一応自分に非があると認め申し訳なく謝るシバだったがここでアイが一喝した。
「、、、そういうの後でいいから。先を急ぎましょう。」
アイの言葉に不貞腐れたようにシバは閉口しアイに続いた。
「ちょっとはいい思い出来たね、」
ニヤッと笑みを浮かべながらエイミーの肩を叩くマーニがさらに後に続いた。
「なんか私の女としての価値がどんどん下落している様な気がするんですけど、、」
先を進むマーニに並びエイミーも階段を進んだ。
(命の恩人だから色々思うことはあるけど、別にシバのことなんて、何とも思ってないんだから、、)
周りには自分と同じで番号で管理された亜人や魔族が牢屋に閉じ込められていた。
(シバさん、皆さん、そしてお姉さま、どうか、助けてください。私は、私はここにいます。)
鉄格子で囲まれた牢屋の中で目に涙を浮かべながら捕らわれの少女は助けが来るのを願っていた。




