第74話
あれから何度もシバが話しかけてもフイッとそっぽを向いてシバを無視するエイミーとなぜエイミーは自分を無視しているのか理解できないシバは何とも言えない空気の中通路を進んでいた。
そんな中でシバはエイミーの機嫌を取るのもやめようと思い始めていたその時だった。
「あそこ!扉よ!」
エイミーは数メートル先にある重々しい扉のような壁を指差した。何の変哲もないただの通路には似つかわしいほど豪華な装飾が施されていた。
二人は周辺の様子を伺い誰もいないことを確認しそこに近づいた。
「いかにも怪しいって感じだな、」
怪しげな雰囲気を醸し出す奥に通じるであろう扉のような壁を前にしたシバとエイミーはある点に気が付いた。
「ねえ、これどうやって入るのよ、、」
エイミーはシバに尋ねた。
彼らが見つけたおかしな点、それはもしこの豪華で重苦しい壁が中へと通じる扉なのであればあるはずの取っ手が見当たらないということだった。
エイミーは試しにその壁を押してみた。
「うー、だめ、全然動かない、、」
思いきり押してもその扉、もとい豪華な壁はびくともしなかった。一人でダメなら二人でということでシバも一緒に押してみたが結果が変わることはなかった。
それからこの扉と思しき壁と睨みあうこと数分、シバは口を開いた。
「もしかしたら、魔法が施されているのかもな、、」
シバは組んでいた腕を下ろすと右目に魔力を集中させ魔眼を発動した。赤い魔法陣が浮かび瞳孔の周りをゆっくりと回転している。
(やっぱり隠蔽魔法プラス鍵魔法がかかってるな、)
シバはこの壁に付与されている鍵魔法を解除するべく解析魔法で壁、すなわち奥に繋がる扉の解析を試みた。
解析魔法により鍵魔法に使用されている魔力量、魔法式を読み解いていく。今魔眼発動中のシバの頭には複雑で膨大な魔法式が入り込んでいるのだ。
(おし、解析終了、次はこの扉を開ける鍵の作成だ、)
解析魔法により目の前の扉を壁たらしめている鍵魔法の魔法式の分析が終わった。次の段階は模倣魔法による鍵魔法の解除だ。
解析魔法はその解析対象の魔法の構造がどのようなものか分かるがそれだけの魔法だ。どんな構造の魔法かが分かればいろいろと対策のやりようはあるが実際の行動に移るには解析魔法だけではまだ不十分なのだ。
そこで用いられるのが模倣魔法だ。この模倣魔法はイメージすると鍵魔法を解除するための鍵の役割で解析魔法のデータをもとに鍵魔法を解除する魔法、すなわち鍵を作るのだ。
解析魔法により鍵魔法を解析し模倣魔法により鍵魔法の解除を行うこの一連の流れはとても複雑なものだが自然と頭の中で処理されているので外から見ている者にはただ単に魔眼を発動しているようにしか見えない。故にエイミーもシバが壁と睨みあっているようにしか見えていない。
「よし!できたぞ、これで開くはずだ、」
解析魔法をもとに模倣魔法を組み上げたシバはそう言うと魔眼を解除し豪華で重々しい壁に魔法陣を展開させた手を向けた。
すると壁の中央を一筋の光の線が上から下へサッと走り両開き扉となった。シバは二枚の扉を押して中に入った。
「これまたすごいわねー、」
扉の先には奥へとつながる通路が伸びていた。しかし先ほどまでの通路ではなく床には赤い絨毯が敷かれていた。照明も豪華に飾られており光沢のある白い大理石のような壁がさらに高級感を演出している。
「とりあえずアイたちに報告しておくか、」
先程までの通路との差に驚いているエイミーとは別にシバは冷静に対応していた。
(明らかに他とは違う扉を見つけた、鍵魔法を解除して入った。アイとマーニさんは俺を魔力探知してください、)
シバは残りの二人に向け念話を送った。
(じゃあ、私がアイちゃんとエイミーちゃんを転移で拾ってそっちに行くよ、)
シバの念話を受けマーニがいち早く返答した。
(、、、待って拾うのは私だけでいいみたい。シバとエイミーは一緒にいるみたいだから、)
どうやら他の三人の魔力を探知したアイが返答した。
(じゃあ、とりあえずアイちゃんのところまで転移して少年たちのところまで転移するねー、二人は先に進んでていいよ、)
(了解しました、)
マーニの転移は視覚で捉えた位置、もしくは人物の魔力が探知できた場所にのみ可能だ。そのため視覚で捉えられないこの地下に来るのに転移は使えなかったのである。
念話を終えた一行は各々行動に移った。シバはエイミーと共に赤い絨毯の敷かれた奥へと急ぎ脚で進んでいった。
この豪華な通路はこれまでの地下迷宮のごとく複雑に入り組んではおらず真っ直ぐに伸びていた。
マーニ達と念話をしてから早々に扉を発見した。
「あった!扉よ!」
エイミーはついに見つけたと言わんばかりにやや興奮した様子で言った。
人の気配もなければ特に魔法が付与されているということもなくシバたちはゆっくりと扉を開いた。
奥に広がっていた部屋はこれまで通って来た通路に匹敵するほど煌びやかで豪華なものだった。
部屋には円形模様や幾何学模様が合わさった複雑なデザインの絨毯が敷かれており壁に敷き詰められた戸棚には宝石がちりばめられた時計や壺など、どれも豪勢に装飾されたものばかりが置かれていた。
さらに部屋の中央にも透明なケースがあり人が通れるほどの通路を挟み何列も置かれていた。ケースの中にはさまざまな大きさの装飾品の数々が収められていた。
「なによ、ここ、、」
この部屋に圧倒されたエイミーは辺りを見渡して言った。
「とにかく何かアデルフィーの手がかりがないか探そう、」
部屋に圧倒されたエイミーの肩を叩きそう言うシバは壁の戸棚に駆け寄った。
シバに言われエイミーも何か手がかりがないか部屋の中を隅々まで捜索した。
「何か変な香りがするわね、、」
部屋を探しているとエイミーはふと何か気になる香りを感じた。
「どうやらこの壺の中の香りのようね、」
その香りに誘われるように香りの元を嗅ぎ当てたエイミーは胸の高さの棚に置かれた小さな壺を発見した。
エイミーはその壺の蓋を外した。
「ん?なんだ、この匂い、」
シバがしばらく部屋内を捜索していると急に甘く粘りつくような香りを感じた。香りと共にピンク色の煙の様なものもエイミーのいる方向から漂ってきた。
「うわぁ!なんだこれ!?」
急に辺りに充満する匂いとピンク色の煙にシバは驚いた。
「エイミー、大丈夫k」
シバはエイミーの安否を確認しようと彼女の名を呼び掛けたが突然何者かに勢いよく地面に押さえ付けられた。
ピンク色の煙のせいでよく見えないが自身に覆いかぶさっている者がうっすらと見える。
「ハァ、ハァ、ち、違うの、これは体が、か、勝手に、」
床に横たわるシバの上にまたがるのは紛れもなくエイミーだった。
だが荒い息遣い、虚ろな眼、汗ばみ紅潮した頬、明らかにいつものエイミーではなかった。




