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無能魔法士の復讐   作者: 宮田悠保
第二部
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65/93

第65話

 シバがギルド支部に来る少し前までさかのぼる。

 レスペシオを含めこのギルド支部で働く受付嬢が業務に就きチラホラと冒険者たちの顔が見え始めた。

 するとそこへギルド支部局長ディエフとその付き人のフォンが血相を変えてやって来た。

「緊急クエストだ!昨日の炎の柱についてだ!」

 フォンによると昨日多くの人が地面から巨大な炎の柱が現れたのを目撃したという問い合わせが相次いだという。昨夜下水道を調査したところ魔族の魔法らしき痕跡があったらしくこの炎は魔族によるものだと結論付けられた。

 そしてまだ近くに潜んでいるという見解が出されその魔族の討伐クエストが今日ディエフによって出されたのだ。



【緊急クエスト】魔族討伐

 ・昨日下水道内から地上に向け魔法を放ち人間に攻撃してきた魔族の討伐。



「幸い死者や負傷者は出なかったものの都市に住む住民の不安を払拭するべく魔族討伐を依頼する。」

 ディエフがギルド支部にいる冒険者たちを叱咤激励するように言った。

「魔族の目撃者または昨日下水道に行ったという者はいないのですか?」

 その中で一人の冒険者が言った。昨日マーニに声をかけことごとく惨敗したイケメン冒険者ブースである。

「うむ、昨日下水道関連でクエストに行った者はいたか?」

 ブースの指摘を受けディエフが受付嬢たちに尋ねた。受付嬢たちは顔を見合わせ皆首を横に振った。だが一人申し訳なさそうに恐る恐る手を挙げる者がいた。

「あのー、私の担当する冒険者さんで一名下水道の清掃のクエストを受注した方がいます。」

 レスペシオだった。ギルド支部内はその発言にどよめいた。

「その冒険者が行った時刻は炎の柱が目撃された時刻と同じか?」

 レスペシオにディエフが尋ねる。

「全く同じではありませんがその炎の柱が目撃された時刻よりも早くに出発され約一時間後に戻ってこられました。」

 その発言にギルド支部内は再びざわつきだした。

「なあ、その冒険者って昨日泣きながらクエストから戻ってきたってや奴じゃないか?」

「ああ、冒険者レベル1のあいつか?」

「吐いてたやつか、」

 所々で昨日下水道の清掃クエストを行った冒険者についての話が飛び交った。

「その冒険者は逃げ帰って来たというのか?」

 ブースの近くでその冒険者の話をしていた二人にブースが尋ねた。

「詳しくは知らないが泣きながらここにやって来たんだよ、」

「そうそう、慌ててるっていうか、何かに怯えてるっていうか、」

 ブースに尋ねられた冒険者たちは自分たちの見たまんまを伝えた。それを聞いたブースは目をぎらつかせ言葉は発せずとも怒りに打ち震えた。

「それでその冒険者の彼はまだここにはいないのか?」

 ざわついたギルド支部内でディエフがレスペシオに尋ねた。

「はい、まだいらしていないみたいです、、」

 レスペシオがそう言ったときギルド支部の入り口に人影か見えた。


「あっ、」


 入り口から入った来る人物を見てレスペシオは短く声を上げた。その声に反応してディエフが入り口の方に振り向いた。他の冒険者も入り口の方に目を向け今頃やって来た冒険者に全員の視線が集まった。


「彼です、昨日新規冒険者登録をしたユウさんです、」



 レスペシオは内心震えながらそう言った。ユウには申し訳ないと思いつつも受付嬢として正直に言う義務があったのだ。

(あいつは、あの宿屋にいた少年じゃないか、、)

 ディエフは話題となっていた冒険者がまさかつい先日ベルカの宿屋で対面した少年だと微塵も思っていなかったため面食らってしまった。

 だが彼もこのギルド支部の局長だ、素早く状況を飲み込みシバから事情を聞こうと呼び掛けた。

「君、聞きたいことが、、」

 だがディエフの言葉がシバに届くことはなかった。


「貴様!冒険者でありながらみすみす逃げ帰って来たとは何たることだっ!」


 ディエフも言葉をかき消すほどその男は声を荒くして怒鳴りつけた。その男とは冒険者レベル6のイケメン冒険者ブースであった。



(おいおい、いきなりなんだよ、)

 ベルカへの借金を返すべく奮闘しようとやって来たのにいきなり怒鳴られ困惑するシバに対してブースは敵意を向けていた。

「あのさ、いきなり怒鳴られてもこっちは何が何だか分からないんだ、、」

 シバは明らかに自分に敵意を向けている目の前の男の怒りを鎮めようとやんわりと言った。

「知らないで済むことではないんだぞっ!」

 相手の怒りを鎮めようとしたつもりが逆にシバの言葉がブースの怒りに油を注いでしまった。

「昨日下水道の清掃クエストをしていたそうだが何か変わったことはなかったかな?」

 シバとブースの間に割って入るようにディエフがシバに尋ねた。フォンもやってきて今にもシバに飛び掛かりそうなブースを抑えている。

「何か変わった事、、うp、、」

 昨日のことと言われシバは反射的に吐き気を催してしまい口元を手で押さえた。だが毎回こうなってしまったらいつまで経っても話が進まないのでシバは一応対策を考えていた。

 それはあの気色悪い奴らをファンシーなイメージに変換することで耐えきることだった。

(ファンシー、ファンシー、ファンシー、)

 脳内でファンシーなイラスト調の奴らがこんにちはをしてもなんとか気を取り戻したシバはディエフの質問に答えた。

「魔物が現れた、」

 シバの発言にギルド支部内はざわめいた。


「魔族じゃなくて魔物だったのか、」

「でもあの規模の攻撃ができる魔物って言うだけでヤバいんじゃないか?」

「結局魔物から逃げかえってきたことには変わりねーよ、」


 シバをチラ見しながら周りの冒険者がひそひそと言い合った。


「それでお前は魔物を見て逃げるようにここに帰ったというのは本当なのか!?」


 ブースは怒りのこもった口調でシバに尋ねた。


「まあ、確かに否定はできないな、正直怖かったし、」

 

 シバもこのまま怒らせるのも面倒だと思いありのまま話した。


「自分よりも圧倒的に強いと判断した際に撤退することも必要だ。だがお前も一端の冒険者だろう、住民の避難、ギルドへの魔物討伐の要請をなぜしなかった!」


 シバが正直にありのままに話したのに対しブースはさらに激昂した。


「はあ?なんでそんなことしなきゃいけないんだよ、やることやった後だったし早くあの場から離れたい一心だったんだよ、別によくないか?」


「お前!冒険者を何だと思っている!クエストの清掃が終わればそれで自分の仕事は終わり、あとは働いた分の報酬を受けとるだけか!」


「それが冒険者なんだろ?俺何か間違えてるか?」


 増々腹を立てるブースとは対照的にシバはなぜ目の前の男がこれほど怒っているのか理解できなかった。


「貴様!何のために冒険者になったんだ!」


「金稼ぐために決まってんだろ。」


 シバは即答した。だがそれがさらにブースの怒りを加速させた。


「冒険者として住民の安全を守り、自分が敵わなくともギルドへ報告することは冒険者として当たり前のことだ!なのに貴様は自分の身を一番に考え怖いという理由で逃げてきたと?いい加減にしろっ!!」


「いや、確かに俺の手違いで魔法をぶっ放して下水道の天井を突き抜けて住民を危険にしたことは悪いと思っている、それに関しては今日報告しようと思ってたし。けど魔物は怖かったが全滅させたから報告するまでもないだろ?」


 シバの発言後一時ギルド支部内は静寂に包まれた。


「あいつホラ吹いてんじゃねーか?」


 誰かがそう呟いたことで堰を切ったように冒険者たちは口を開いた。


「魔物を倒したのはあいつ?あの炎の柱ほどの攻撃を仕掛けてくるっもの相手に?」

「この状況で頭おかしくなったんじゃないか?」

「保身のために自分で倒したって嘘ついてんだろ、」

「第一、倒したってんなら魔物の一部を素材として持ち帰ってるだろ、」

「嘘ついてんな、あいつ、」


「おい、、貴様、いい加減にしろよ、冒険者たるもの正直にそして勇敢に、お前に冒険者の資格はない!」


 ブースが言った。頭に血が逆上して今にも燃えだしそうになるほどの怒りをのせて。


「そうだ、お前なんかいらねーんだよ、」

「お前みたいな雑魚冒険者って名乗ってんじゃねーよ、」


 ブースの言葉が周りの冒険者を取り込みその場の冒険者の罵声がシバに向けられた。


「ごちゃごちゃうるせーよ、」


 シバがそう呟くとシバの体から迸るように黒いオーラが現れた。そのただならぬ圧力、そしてシバの雰囲気に冒険者たちは生唾を飲み込むように怯んだ。


「やべっ、つい、」

 シバはハッとすると黒いオーラを消し元に戻った。だが周りの冒険者たちはシバの様子に戸惑いを隠せない。


(おいどーすんだよこれ、なんかいろいろ噛みあってない気がすんだよな、全部俺ですって言ったら絶対いろいろ疑われる。でもこのまま話が進んでも冒険者としての立場なくなりそうな勢いだし、、それはそれでお金稼げなくてベルカさん怖いし、てか冒険者やってんのもベルカさんが怖いからなんだよな、、)


 この状況に頭を抱えるシバだった。そして脳裏によぎるのは紛れもなくベルカの微笑みだった。




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