第64話
マーニがギルド支部を出てからしばらくして金縛りが解けたようにその場にいる者たちはゾロゾロと今までの活気を取り戻した。無論レスペシオもその一人だ。
それまで他人に全く無関心だったマーニがユウのためにあそこまで怒りをあらわにしたことにレスペシオは驚きを隠せなかった。
ユウのステータスを見てあまりにも魔力が低いためマーニは側にいるものだと思っていた。彼女のユウを見つめる眼差しは単に弱いからではなくもっと別の感情からくるもののように感じた。それこそ親愛のようなものだ。それなら先ほどのようにマーニが腹を立てるのにも納得がいく。
だがレスペシオには気がかりなことが一つ残っていた。それはもちろんマーニをあそこまでさせる要因となるユウについてだった。
受付嬢の仕事を終えレスペシオはギルド支部に隣接する宿泊施設の自室に帰宅した。
受付嬢一人でも対処できるように能力の高い者が受付嬢に採用されるが万一に備えて女性魔法兵と同じ建物で暮らしている。受付嬢は仕事柄男性冒険者に言い寄られることも少なくないためこのようになっているのだ。
そして今レスペシオはこの建物の共同スペースでユウについて頭を悩ませていた。
ユウさんは魔力量が少ないからこそのあの戦い方、魔力を体術で補っていた。それにあの武器、あれには私も見覚えがある、、
私がまだ王都の魔法学院の学生の頃ある講義で教官が言っていたことだ。魔王が台頭するたびに私たち人間は異世界から勇者となり得る者を召喚し魔族に対抗してきた。けれど魔王を倒してもその力を受け継いだ魔王の後継者が再び魔王として台頭する。一度魔王が倒されたら勇者として召喚された勇者は元の世界に戻されるため再び異世界から別の勇者となり得る者を召喚してきたのだと。
その講義の中で召喚された異世界人たちが彼らの文化を伝えた書物があることを知った私は異世界の文化に興味を持った。
ユウさんの手にしていたあの黒い武器は学院で学んだ異世界の武器、“銃”に間違いない。
様々な銃が紹介されたけれど私たち魔法が使える者にとって彼らの武器はあまり役には立たない。なぜなら銃の威力や殺傷能力は評価できるものの弾には制限があり別の弾を装填しなくてはならないから。
私たち人間はもちろん魔族にも防壁の魔法がある。これならばいくら殺傷能力があると言っても貫通はしない。当たらなければ意味はない。それに比べて魔法での攻撃の方が威力はあるし魔力が尽きない限り永遠に撃ち続けることができる。
だから魔法の存在しない異世界人の世界では主流となっている武器でも私たちの世界では異世界の文化として紹介されるにすぎなかった。
けれど彼はいや彼だからこそ異世界人の武器“銃”を作り出し利用したのだ。魔力の少ない彼だからこその発想で。属性適正の低い彼だから単に魔力そのものを弾に見立てて新しい武器として応用した。
思い返せば思い返すほど彼に興味が湧いてくる。今まで受付嬢として上から下までたくさんの冒険者のステータスを見てきた。魔力量や属性適正の高さに驚かされたことは何度もあったけれど低すぎて驚いたのは彼が初めてだった。
それなのに魔族が出現した時のマーニさんのあの余裕、あー、だめだ、いくら考えても考えても分からないことだらけだ。
レスペシオが共同スペースで頭を抱えていると受付嬢のオルカとカリンがやって来た。
「レスペシオ、何考えてるの?」
黒に近い青髪のボブカットのオルカがレスペシオの隣に座った。遅れて黒髪ロングのカリンが二人に対面して座った。
「いや、今日冒険者登録に来た子のことなんだけど、、」
「ああー、他の冒険者に色々言われてたあの子ね、」
カリンが今日の出来事を思い浮かべるように言った。
「確かに、あのマーニさんがあんなに怒るなんてね、マジで心臓止まるかと思った、」
オルカとカリンが青ざめた表情で体を震わせた。
「確かに彼は気になるわね、でも私たち受付嬢は冒険者には干渉しない、そうでしょ?」
オルカは考えても仕方がないという様子で言った。
「それよりも、王都の学院の戦闘大会のこと聞いた?」
オルカはシバが学院を去った学院基礎戦闘大会の話題を振った。
「聞いた聞いた!無能で有名な学生でしょ?その子が勝ち進んだって話よね、」
「そうそう!無能って言われてた学生がいきなり強くなったらしいよ!でも対戦相手の女子を殺しちゃったとか、」
オルカとカリンが戦闘大会の話で盛り上がった。
「ちょっと待って!その話詳しく聞かせて!」
レスペシオが食い気味に二人の会話に割って入った。
「レスペシオも気になるの?」
「なんでも魔力量が異常に少なくて属性適正もほとんどない無能魔法士って言われていじめられてた学生が今年学院の魔法科の1年にいたらしいよ。」
「魔力が異常に少なくて、属性適正も低いって、、」
レスペシオはその学生の特徴がぴったりと当てはまる人物に心当たりがあった。
「でも当日魔族の襲撃が合ってそれ以来学院から姿を消したそうよ。」
「気になるわよね、その学生、」
オルカとカリンが二人でその学生について話している間にレスペシオは引きつった笑みを浮かべていた。
(その学生って確実にユウさんじゃない!)
全てがはっきりした気がした。彼の年齢は16歳、話に出ている無能魔法士も今年魔法科の1年ってことは16歳。彼のステータスとその学生の特徴も一致。間違いなくその学生はユウさんだ。彼が学院にいたのなら異世界の武器の銃を知っているのもうなずける。マーニさんとの関係は分からないけど彼の素性は分かった。
でもなんで学院に戻らないの?周りからのいじめに耐えられないから?でもさっきの冒険者たちから同じようなことをされても特に気にした様子はなかった。もっとほかの理由が?その理由にマーニさんも絡んでいるとか?
「ちょっとレスペシオ!レスペシオってば!」
オルカが隣でレスペシオの体を揺する。
「引きつった顔したと思ったら怖いか顔して、」
カリンもレスペシオの顔を覗き込んで言った。
「えっ?ああ、いや、なんでもないわ、努力して強くなったならすごいじゃない、」
二人に言われ我に返ったレスペシオは適当にごまかした。
「はぁ?話聞いてた?その学生理由は分からないけど学院と決別したって噂だよ、魔族に洗脳されたとかなんとか、」
「学院と対立して決別するってことは国に逆らってるようなもんだよ?それに魔族ってやばいよ、」
二人は適当に誤魔化して言ったレスペシオを非難するように言った。
「え、そうだったの?」
ユウの悪い噂を聞いてレスペシオは聞き返した。
「やっぱり話聞いてなかったのね、」
呆れるようにオルカが言った。
「ごめん、、」
「まあ、学院も公にはしたくないみたいだから他の冒険者さんたちには話しちゃだめよ、レスペシオは意外とお人よしだからねー」
オルカは釘をさすようにレスペシオに言った。
「しないわよ、私はただの受付嬢なんだから、、」
レスペシオは後ろ髪を引かれるような思いでそう言った。
翌日、シバは一人でギルド支部に向かった。マーニは地下の亜人たちの様子を見に行ったため今日はいない。
この国には亜人や魔族を奴隷として強制的に労働を強いらせている。王都では財力や権力の象徴として街中でもよく見かける。
一方でこの都市ポリスではかつて奴隷たちの反乱の影響で奴隷は地下に送られた。本来奴隷につけられる首輪には特殊な魔法が施されているがその当時はそれほど強力なものではなかったため反乱が起きてしまったと言われている。
先日シバもマーニにポリスでの地下の奴隷の存在を知らされたのだ。
そして今シバは窮地に立たされていた。
「貴様!冒険者でありながらみすみす逃げ帰って来たとは何たることだっ!」
シバがギルド支部に入った直後見覚えのある男から怒声を浴びせられた。
「は?」
ギルド支部に入るや否や怒声を浴びせられ中にいた冒険者や受付嬢の視線が自分に集まり何が何だか分からないシバだった。




