第62話
シバがギルド支部を飛び出してからほどなくしてシバの順番が回った来た。しかしシバは出て行ってしまったので代わりにマーニがレスペシオのもとへ向かった。
「あれ、ユウさんはどちらに?」
マーニだけでユウの姿が見えないのでレスペシオは首を傾げた。
「あーなんか、泣きながら外出ちゃった、、」
「そうでしたか、そういえば涙目で帰ってきましたもんね、、」
レスペシオは下水道の清掃から涙目で慌てるようにして帰ってきたシバを思い浮かべた。
「シバ顔色凄く悪かったから報酬とか私が代理で受け取ってもいい?」
「分かりました、えーっと、ユウさんは1時間で帰って来たので銀貨1枚です。それと冒険者登録後のクエスト初日も無事終わりましたのでご存じかと思いますがこれもお渡しします。」
そう言うとレスペシオは銀貨1枚の他に細長い紙のような物が受付のテーブルに出された。
「ユウさんは冒険者レベル1ですので白のバンドになります。」
レスペシオがクエストの報酬と一緒に渡したのは冒険者がレベルに合わせて身に着けるバンドだ。素材は紙のように軽くゴムのように伸縮自在でかつ強靭な素材でできたもので腕に巻き付ける。冒険者レベルごとに色が異なっている。
冒険者レベル1 白色
冒険者レベル2 黄色
冒険者レベル3 橙色
冒険者レベル4 黄緑色
冒険者レベル5 緑色
冒険者レベル6 水色
冒険者レベル7 青色
冒険者レベル8 紫色
冒険者レベル9 茶色
冒険者レベル10 黒色
このバンドには特殊な魔法が施されていて一度付けたらそう簡単には外れなくなっている。冒険者レベルが上がるごとにギルド支部長によって外され次の色のものが渡される。さらに着用した冒険者が命を落とすとバンドは消滅しそれがギルド支部に伝わるのだ。
「ユウさんにちゃんと説明して必ずつけるように言って下さい。」
クエスト報酬と白のバンドをマーニが受けっとったときギルド支部にやって来た四人組の冒険者たちの会話が聞こえてきた。
「おい見たかよ、さっきここから飛び出してきたやつ、」
「ああ、泣きながら飛び出してったな、」
「しかも腕につけてなかったから新参者だぜ、」
「クエスト怖さに逃げ帰って来たんじゃね?」
四人組の冒険者はおそらくシバと入れ違いにギルド支部にやって来たのだろう。皆口々にシバのことをネタに笑い合っていた。
「しかも排水溝のとこでゲロってたぜ、」
そう言いながら腰をかがめ嘔吐する様子を真似した。
「マジかよ、よっぽどの目に合ったんだな、冒険者レベル1クエストのくせに、」
「それは雑魚すぎ、まあ新人だからなしょうがねーよ、」
「泣き虫雑魚はマジで笑う、」
「「「「ギャハハハハハッ――!!」」」」
その冒険者を筆頭に今この場にいないシバのことを周りの冒険者たちもあることないこと言い合った。
先程マーニの側にいた少年が話題となっている泣き虫雑魚の冒険者とは知らずマーニの側にいたシバを睨みつけていた冒険者たちも悪乗りした。
クスクスと笑い声も混ざり一時ギルド支部内は新人の泣き虫冒険者の話題で盛り上がてしまった。
ゲラゲラと大声で笑う彼らをマーニはただじっと睨んでいた。だが当の本人たちは全く気付く様子もない
「マーニさん、いくら何でも手は出さないでくださいね。」
レスペシオがマーニの耳元でささやいた。だがレスペシオの表情から彼女も内心いい気分ではない。
「さすがにまずいな、下水道の天井のことも修理してもらうように言わないと、」
そこへタイミング悪くげっそりと顔色の悪いシバがギルド支部に戻ってきた。
「おい、あいつ、」
ゲラゲラと笑っていた冒険者の一人が目を付け他の冒険者に耳打ちした。
シバは受付にレスペシオとマーニがいるのを見て彼女たちのもとへ向かった。
だが先ほど入ってきた四人組の冒険者がシバの行く手を阻むようにシバの前に立った。
「あの、そこどいてもらえます?」
いきなり前に立ちふさがる男たちにシバは特に興味を示すこともなく言った。
「おいおい、バンドももらってない新人君が俺たちにそんな態度でいいのかよ、」
顔色の良くないシバを見ながらニヤニヤ下卑た笑みを浮かべながら一人が言った。
「何?バンド?」
彼が何を言っているのか分からずシバは聞き返した。
「こいつバンドのこともしらなーのかよ、これのこったよ、」
一人がそう言うと四人は自身の付けているバンドをシバに見せた。全員緑色のバンド、つまり冒険者レベルは5だ。だがシバはまだバンドのことは知らないためその色の示す意味が分からない。
「そのバンドがどうした?みんな一緒でいいだろ的なやつか?」
シバの反応に目の前の男たちだけでなく周りの冒険者たちもクスクスと笑い出した。周りの冒険者たちの様子も見ながらさらにシバの目の前の冒険者たちはシバに絡んでいく。
「やっぱ何も知らねえ雑魚だな、泣き虫冒険者クン、」
「クエストであった魔物が怖くてゲロ吐いたんだよなぁ、」
「「「「ギャハハハハハーーー!!」」」」
周りの冒険者もクスクスと笑いながら口々にシバのことを話し出した。皆シバに向ける視線は哀れみや蔑みだ。
(確かに奴らがきしょくてゲロったからな、あんなの二度とごめんだ。それよりも、、)
シバは自分を見る人を見下したような目、嘲笑、彼らと学園の連中で同じものを感じていた。
(どこにいても人間は変わらねーんだな、)
素性なんか関係ない、人よりも劣っていれば、いやそれだけが標的となり得る要素だ。
誰だって他人より優位になりたい、そういう思いを持っているものだ。それは生きている上でごく自然なことだ。
だが人間社会には他人よりも劣っているものを蔑み嘲笑う者たちを外から見て同じように陰で蔑み嘲笑う傍観者の方が仲裁者よりも多く存在している。
無関係無関心を装っても矛先が自分に向かないようにする者さえもいる。皆誰しも自分が優先で人のために自分を犠牲にする者など数少ない。
それが人間であるとシバは痛いほどよく分かっている。故にシバは目の前にいる冒険者、そして周りの多くの冒険者の態度を受けても動じることはなかった。
(うー、気持ち悪い、さっさといなくなんないかな、うp、また吐き気が、、)
だがこの場合動じないということよりも気分が悪いことが勝っていたとは冒険者たちには分かるまい。
故に彼らは蔑む対象が大した反応を見せないことに苛立ちを感じていた。
「おいっ!なんか言えy、、」
「うp、、」
シバは再び吐き気を催し外に飛び出していった。
その様子に四人組の冒険者や周りの冒険者たちは蔑んだ視線を送ったりクスクスと笑い合ったりとにかくシバを馬鹿にした。
「おいあいつ何も言い返せず逃げだしたぞ!」
「ビビッてまたゲロってんじゃねーの、」
「マジ雑魚だな、」
ダンッ!
マーニが受付のテーブルを強く叩いた。
「うっさい、」
その音に、その声に、下賤な笑いで包まれたギルド支部内が一瞬で静まり返った。ギルド支部内の冒険者の視線がマーニに集まる。
「マ、マーニさん、、」
レスペシオが慌てたようにマーニの耳元でささやいた。
だがいくらシバが気にしないと言ってもマーニにとっては到底我慢できるものではない。
マーニはシバのクエスト報酬の銀貨一枚と白いバンドを手に取るとギルド支部の入り口へ向かった。その際四人の冒険者はマーニに怯えるようにその道を開けた。
「こんなごみの掃き溜めみたいな場所にいたら気分も悪くなるわよ、、」
他の冒険者にもマーニから発せられる冷たくそして禍々しい殺気と共に彼女の言葉が突き刺さるように響く。
「彼に感謝することね、、」
マーニは入り口付近まで来ると歩みを止めた。肩越しに振り返る。
「でないと私が全員、、殺してたから、」
その瞬間その場にいた全ての者、冒険者だけでなく受付嬢でさえもマーニの殺気に戦慄した。
殺してたから、彼女の言葉そしてひしひしとにじみ出る心臓を抉られるかのような絶対的強者としての敵意がその場を恐怖で支配した。
ギルド支部を出たマーニはシバのもとへ駆け寄った。
「大丈夫?」
マーニはげっそりとした表情のシバの背中を優しく擦った。
「あ、マーニさん、なんとか、、」
シバは精一杯の笑顔で受け答える。
「さあ、帰りましょうか、」
シバは意外にしっかりとした足取りでベルカの宿屋へと向かって歩き出した。その背中を無言で見つめるマーニ。だがニッと笑みを浮かべると先を歩くシバに駆け寄った。
「ちょっ、なんでくっついてんですかっ、」
突然腕を絡めてきたマーニにやや照れた様子でシバは言った。
「えー、さっきもくっついてたしいいじゃん、」
「あれは無意識だったのでノーカウントです、」
「私がこうしたいの気分なのっ!」
笑顔でそう言うマーニにシバも観念したようにそのまま進んだ。
「そういえばレスペシオから少年の代わりに報酬とこのバンドもらったよ、」
「ありがとうございます。てかそのバンドって何ですか?」
「このバンドはね、、、」
二人は並んで寄り添うように帰路についた。
(私はシバの傍にいるからね、)
マーニは優しく包み込むようにシバに笑みをこぼした。
「あー!、下水道の天井のことレスペシオさんに言うの忘れてた、、」




