第61話
「うわー、ないわ、分かってはいたけど、臭い、、」
直径3メートルほどの下水道は長年放置されていたようで鼻がもげるほど臭かった。マーニが同行しなかったのも分かる。
「とりあえず掃除はしておく、、か、、」
人一人が通れるような通路に立ちデッキブラシで汚れを落としていく。
だが下水道に入ってからすぐに不穏な気配を感じた。
カサカサと何かがうごめいている。徐々にシバに近づいている。
それは単体ではない、複数だ。
シバの視線の奥は暗くてよく見えない。しかし何かがうごめいているのは分かる。
すると奥で赤い光点が二つ現れた。それを境に次々と赤い光点が増加していく。
「お、おいおい、ちょっと、、」
シバは急に現れた赤い光点に恐怖を感じながら後ろに後退していった。
後退しているとかかとに何かが当たる感触があった。
「えっ、、」
シバは振り向き魔法で後ろを照らした。
光に照らされていたものは、奴だった。カサカサ動き光沢を放つ黒い奴。
だが目の前に照らされているのは通常の奴ではなかった。
恐ろしいほどに”巨大”なのだ。
身体から生えた6本の脚は人間の腕ほどの長さがある。頭部から生えたこれまた長い触角は気色悪く動いている。
「ギャお亜jGjkjk#&vjcr$#!!!―――――!!!」
シバの言葉にもならない叫びが下水道内に木霊する。加えて言えばその叫びは下水道内でよく響いた。
驚きと恐怖のあまりシバは加減もせず思いっきり光に照らされた超巨大黒い奴に向け魔弾をぶっ放した。
この際正の魔力だの負の魔力だの関係ない。跡形もなく奴は消し炭となった。
シバの叫び声と魔弾の爆発で奥から聞こえるカサカサという音はシバの前後から徐々に大きく不気味に聞こえてくる。
やがてそれは地震のような振動に変換された。赤い光点が、超巨大黒い奴が大量に我先にとシバに押し寄せてきた。
シバは雪崩のような勢いでやって来る超巨大黒い奴に挟み撃ちにされてしまった。
「あ“あ”のg田dhsklhjdxzんm#%$Nhgdk――――――!!!」
再びシバは迫りくる超巨大黒い奴らに手を抜け魔法陣を展開した。
両手で下水道の直径ほどの魔法陣を展開させ両手をそれぞれ反対方向に向ける。
魔法陣からは赤黒く燃え盛る炎がものすごい勢いで放射され下水道内の奥まで伸び一気に燃やし尽くした。
「ハァ、ハァ、ハァ、殲滅、、」
気色の悪い奴らを完全に屠った。もう奴らの気配は感じられなくなっていた。
カタンッ
肩で息をしながら安堵するシバの足元に上から何かが落ちる音がした。
「ひhぼじょもk;k、;jん#&Ghfd―――――!!!」
その音に驚きシバは頭上に向けて先程と同じく赤黒い業火を放出した。
「これで、完全に殲滅したろ、、」
シバの放った魔法は下水道の天井を貫き地上に噴き出した。
日の光が天井の穴から差し込み薄暗い下水道にたたずむシバを照らした。
「この薄暗い世界にもようやく光が差し込むようになったのか、、」
と感慨深く一人でふけっているとシバは足元にある物に気が付いた。
「あ、ブラシ、、」
足元に落ちていたのは先ほどまで使っていたデッキブラシだった。
シバは腕を組み炎を頭上に放出する前の記憶をさかのぼった。
カツンッという音、そして足元に落ちているデッキブラシ。
「、、やっべ、」
全てが繋がった。
シバは奴らの残党が頭上から反撃してきたと思ったがそうではなく落ちてきたのは壁に立てかけたデッキブラシだったというのだ
恐怖と焦りから勘違いをして奴らを屠る勢いで魔法を放ってしまった。
「もうヤダ、、帰る、、」
奴らとの遭遇、そして下水道の破壊、すべて夢であってくれと切実に願うシバは目に涙を浮かべて撤収した。
その日地下から禍々しく燃え盛る炎の柱が地面からいきなり出現したのを多くの人が目撃したという。
シバは下水道を後にしてからギルド支部の二階の一角にあるシャワー室で体を隅々まで洗った。
ギルド支部は一階がクエストの案内、冒険者の待合スペース兼休憩場所として使われており二階三階は魔法兵たちの宿泊施設となっていた。
シバが涙目でギルド支部に帰ってからまず言われたのは匂いをどうにかすることだった。服に関してはレスペシオの厚意で替えの服を用意してもらうことができた。
それからシバたちは他の冒険者も担当しているレスペシオの順番を待つため待合スペースで座って待つことになった。
そして今シバはマーニにぴたりと引っ付き辺りをキョロキョロと見渡している。それはもう何かに怯えるようにオドオドとしている。
マーニはそんなシバの様子に困ったような微妙な表情でシバの頭を撫でる。
(なんか、こう言うのも悪くないね、懐かしい、、)
しかし、同時に昔を懐かしむように嬉しそうにシバに微笑む。
「シバ、大丈夫だよ、お姉さんがいるからねー、」
マーニが慣れた手つき、優しい口調でシバを安心させるように言った。
マーニの介抱もあって徐々に徐々にシバは落ち着きを取り戻していった。
「すみません、面目ないです、、」
自分の情けない姿を見られてしまった上に幼い子供のようになだめられシバは穴があれば入りたいという気持ちでいっぱいだった。
「大丈夫だよ、あ、それとこれ、ずっとこのままで大丈夫?」
マーニは自分の手元に視線を落とし微笑を浮かべながら言った。
シバがマーニの視線を追うとその先にはマーニの手に自身の手が置かれていた。
「私は問題ないって言うか、むしろ嬉しいけど、他の人たちがさ、、」
シバは顔を赤くしてマーニから即座に離れた。そして周りを見渡した。周りにいる男の冒険者たちが物凄い形相でシバを睨んでいる。中には魔法陣を展開させている者もいる。
(なんだよあのガキ、、)
(俺たちのマーニさんを、、)
(俺なんか声かけたこともないのに、、)
(ましてやあんなにくっつくなんて、、)
((((羨ましいぃぃ!))))
「ハハハ、、」
声に出さずともその視線と圧から周りの冒険者の内心をなんとなく察してしまうシバだった。
「そ、れ、で、、」
シバが離れた分マーニは距離を詰めて両手でシバの顔を挟み自分に向かせた。
「それで、何があったの?」
急に目の前にマーニの顔が近づき焦りながらも頬を染めるシバにマーニは尋ねた。
(なんだよあれ、)
(照れてんじゃねーぞコラッ、)
(あんなに顔が近くに、)
((((死ねばいいのに!!))))
だがマーニに何があったのかと問われつい先ほどの出来事を思い出してしまった。脳裏に超巨大黒い奴らが再び現れてしまった。
次第に赤く染まった頬は青ざめていく。胃の中の物がこみあげてくる感覚に襲われた。
「うbぃいkjlもーーー!!!」
シバはギルド支部を飛び出した。
「な、なんだったのよ、、」
涙目でギルド支部を飛び出したシバに唖然とするマーニだった。




