第60話
「にしてもこの実硬すぎだろ、」
植物のつける実や種子でこの手の硬いものは動物の体内で消化されずにそのまま糞と一緒に排出されることで生息域を拡大するように進化してきたという。
「そもそもこんなに硬い実ならだれも食べないだろ、」
学院の図書館で読んだ植物関連のことに思いを馳せながらブツブツと薬草を背中の籠に入れているときシバは背後に魔物の気配を感じた。
「ここで魔物を倒して素材とか売れんのかな、」
シバが魔物の方を向くと頭に角を持った獣が明らかにシバに敵意を向けていた。
「エイミーが魔物従えてたけどあんまり殺すのはよくない気もするんだよな、」
魔物は魔族が従えているもので人間を襲う魔物は全て魔族の仕業である。シバが学院で教わった魔物と魔族の関係だ。
(魔物に自我はないから野生の魔物は魔族と無関係だよー)
シバが迫りくる魔物の群れに攻撃することを躊躇っているとマーニから念話が届いた。
(じゃ、遠慮なく、)
(でもいつもみたいにやったらレスペシオにばれちゃうよー)
シバは10体の魔物に向け一気に魔弾を放出して殲滅しようとしたがマーニに釘を刺され我に返った。
「おっと、いけない、いけない、」
シバはどうしたものかと考えていると学院の図書館で見つけたある本に書いてあったものを思い出した。
その本は異世界から魔族討伐のために召喚された異世界人の伝えた文化について書かれたものだった。その本を書いた著者が異世界人本人であったので詳しく書かれていた。
その中でシバが惹かれたのは”銃”だった。
筒状の銃身から弾丸を火薬や気体の圧力を利用して高速で発射させるもので高い殺傷能力がある武器と記載されていた。
その銃の構造を見て思春期真っただ中のシバは心揺さぶられたのだ。言うなれば厨二心に目覚め、がっちりと鷲掴みされてしまったのだろう。
「試しに作ってみるか、」
そう呟くとシバは頭の中で本に書かれていた銃の中でも小さいサイズのハンドガンを思い浮かべた。
シバの右手に魔法陣が展開されると光の粒子が現れ凝縮していきイメージした形に形成されていった。
やがてシバの手には一つのハンドガンが握られていた。
「おっしゃ!できた!かっこええ!」
手にしたハンドガンを見てシバは目を輝かせた。自然と頬が緩んでしまう。
「たしか、M1911って書いてあったな、」
M1911、アメリカで開発された軍用自動拳銃だ。
シバはM1911を本に書いてあったように構え銃口を一体の魔物に向け引き金を引いた。
シバは弾丸が発射され魔物に命中する様子を想像した。
しかしいくら引き金を引いても弾丸は出ないし魔物は倒れない。ここで一つの欠点が発覚した。
「弾丸ないと使えなくね?」
シバがイメージしたのはM1911の形だけで肝心の弾丸は頭になかった。弾丸の形状はなぜか本に書いてはいなかったため作成できなかったのだ。
だが迫りくる魔物は容赦なくシバに襲い掛かった。
シバもM1911を片手に魔物たちを見据え臨戦態勢をとる。反対の手を身体強化しておく。
牙をむく魔物がシバに噛み付かんと飛び付いた。だがシバは身体強化された手で軽く受け流す。
身体強化を手から膝に変え受け流した魔物の腹を蹴り上げる。
魔物はうめき声をあげるがシバの正の魔力ではいくら身体強化したとはいえ魔物に致命傷を与えるには至らなかった。
魔物たちもシバの反撃に一時警戒するも脅威ではないと分かると次々に襲い掛かってきた。
シバを囲うようにあらゆる方向から飛びつく。頭の鋭く尖った角が四方から襲い掛かる。生身で受ければ重症は免れない。
シバは自身と魔物の角の接地面に最小の範囲で身体強化をして受け流す。反撃には転じない。ただでさえ少ない魔力を消費するのを避けるためだ。
(このままじゃどうにもならないな、)
さすがにこの状況ではシバにも焦りが見える。
(せめてこの銃が使えればな、、)
シバは一度魔物から距離をとりM1911に目を落とした。視線の奥には地面の赤い実が見えた。
「この硬さなら弾に使えるかも、」
シバは赤い実をいくつか摘み銃身に流し込んだ。そして銃口を魔物に向ける。
グリップから魔力を流し込み弾丸を模した赤い実を魔力で発射させた。
魔力を受け引き金を引くと同時に赤い実は魔物めがけて一直線に向かって行った。
発射はされた。間違いなく発射はされた。だが赤い実は水平に発射された後すぐに重力に任せて落下したのだ。いわゆる水平投射されただけだった。
「、、、えー、、」
(こうなったら多少負の魔力使うか、、)
シバはM1911に負の魔力を注ぎ込み迫りくる一体の魔物に銃口を向ける。
シバが引き金を引くと一筋の光が魔物にめがけて放出され魔物の頭部を貫いた。
頭部を打ち抜かれた個体は倒れ起き上がることはなかった。
その様子に周りの魔物は何が起きたのかわからないと言った様子だ。
しかし同胞が殺されたことに変わりはなく激しく吠えた。一斉にシバに襲い掛かる。
シバは襲い掛かる魔物の角に手を置き土台として空中に飛び上がった。
空中で反転し逆さまの状態で魔物の方に向きM1911を構える。
光の筋が次々と魔物の体を貫く。シバが華麗に着地した背後には息絶える魔物がごろごろと転がっていた。
「つまらん物を撃ってしまった、、」
シバはM1911を口元に近づけふぅーと息を吐き呟いた。
魔物を倒し終えたシバはマーニ達のもとへ駆け寄った。
「倒した魔物って素材として売れるんですか?」
シバは呆然とするレスペシオに尋ねた。
「えっ、あー、はい、ギルド支部の隣にある建物で売ることができます。」
はっと我に返ったレスペシオはそう答えた。
その時レスペシオの背後でガサッと何かが動く音と共に先ほどの角を持った魔物が現れた。
シバの倒した場所にある死体は9体しかいなかった。残りの一体がマーニやレスペシオを狙って潜んでいたのだ。
レスペシオは体を反転させその魔物を倒そうと動いたがそれよりも早く何かがものすごい勢いで頬をかすめた。
目の前の魔物の頭部を光の筋が貫通し魔物は息絶えドサッと崩れ落ちた。
レスペシオがシバの方を振り向くとM1911を片手に構えるシバの姿があった。
「これで全部ですね、」
シバがそう言うとM1911は光の粒子となり消えた。
無事クエストも終え魔物も倒したシバたちはギルド支部へと向かった。
「えー、背負い籠二つ分の重さを引いて薬草の重さの合計は5㎏ですので報酬としては中銀貨1枚と銀貨5枚です。」
レスペシオはそう言うとシバに報酬の硬貨を差し出した。
ギルド支部に戻ると薬草いっぱいの背負い籠の重さを測り換金した。二つある背負い籠はシバが前と後ろで担いで運んできた。道中で報酬欲しさに欲張った自分を恨むシバであったがそれなりに薬草は高く値が付くので内心悪くはないとも思ってはいた。
倒した魔物の角は一本で銀貨1枚の価値があり10本で中銀貨1枚、元々のクエストの報酬と合わせて中銀貨2枚と銀貨5枚がシバの手元にあることになる。
「ユウさん初めてのクエストお疲れ様でした。いかがでしたか?」
レスペシオは何やら興味深くシバに尋ねた。
「それなりに楽しめました、」
(銃も使えたし、あとでフォニア達に見せてやろう、)
「楽しめた、ですか、、」
レスペシオは苦笑した。
「この後もクエストをやるのであればあちらの掲示板からお選び下さい、」
レスペシオに言われシバは掲示板でよさそうなクエストを探す。クエストレベル2までのもので報酬が高いもしくは面白そうなものを探す。
シバが受付を離れるとレスペシオはマーニと向き合った。
「彼は一体?」
レスペシオはマーニに言った。
「だから言ったでしょ?あの子は強いって、あの子の実力はあんなもんじゃないよー」
マーニは得意げに言った。掲示板でクエストを探すシバを愛おしそうに見つめて言った。
「マーニさんもそういう顔するんですね。」
「えっ?」
そんなマーニにレスペシオは笑みを浮かべて言った。
「普段は他人なんて見向きもしないのに、」
「だって興味ないんだもん、あなただってそうでしょ?結構言い寄られてるのに相手にしないじゃん、」
ニヤニヤしながら意地悪そうにマーニは言った。
「私は受付嬢ですから。まあもともと男性に興味がないって言うのもありますけど。」
レスペシオは笑顔で答えた。
「でも、、」
「ん?」
レスペシオは掲示板のところにいるシバに視線を向けた。
「ユウさんは先ほどのこともそうですが色々気にはなりますね、年下ですし、顔は好みのタイプです。」
レスペシオはやや困ったように笑みを浮かべていた。
【クエストレベル2】下水道の掃除(魔物の駆除)
・報酬 1時間/銀貨5枚
シバは下水道のクエストをレスペシオのもとに持って行った。その際マーニがシバを抱き寄せレスペシオから遠ざけた。
「ちょっ、何してんですか!」
「少年、これからはこの人と関わってはいけませんよ、」
マーニは母親が自分の子供を天敵から守るようにしてレスペシオを威嚇した。
「はぁ?僕の担当の受付嬢ですから関わらないとか無理でしょうが、」
「下水道には魔物もいる可能性があるのでくれぐれも気を付けてくださいね、」
心配そうな表情でレスペシオに見送られてシバは下水道へ向かった。ちなみにマーニはギルド支部で待っているとのことだ。シバは日が暮れるまでのおよそ二時間弱清掃に励むのだった。
だがシバはまだこれから待ち受ける恐怖に、奴らに出会うことなど当然知る由もなかった。




