第58話
ベルカ達と別れてシバはマーニと共にギルド支部へと向かっていた。
「何さっきからむすっとしてるの?」
マーニがシバに話しかけた。
「自分の胸に手を当ててみてください。それで分からなかったらあなたは相当なろくでなしですよ。」
正直今朝の一件もありシバのマーニに対する当たりは厳しかった。だがマーニはそれでも気にすることはなくいつもの調子だ。
マーニはシバに言われた通り自身の胸に手を当て何か考えるような素振りを見せた。
「うーん、分かんなーい、少年なら何かわかるかなー?」
そう言うとマーニは胸を強調するようにしてシバに胸を近づけた。
「、、何ですかそれは?」
「少年が手を当ててみたら分かるかなって、」
マーニはきょとんとそれがごく自然であるかのように言った。
「そんなことは、ない、、と思います、」
シバは歯切れ悪く言った。
「まっ、それで本当に少年が触ったらちょっと引いてたから安心したよー」
(あっぶなー、この人は全く反省しないな、)
「よかったね、変態のレッテルが増えなくて、」
どこか残念そうにニヤニヤしながらマーニは言った。
「僕は無実だっ!」
それからたわいもない会話をしていると前方に他の家々とは明らかに雰囲気の異なる大きな建物が見えてきた。
外観は三階建ての宿泊施設のような造りになっており正面の入り口から筋肉質の大男や身長よりも頭一つ抜けるほど長い杖を持った人など冒険者と思われる人々が出入りしていた。
「あれが中規模都市ポリスのギルド支部だよー」
マーニが前方を指差し言った。
シバがギルド支部の入り口を通ると正面に受付が、左の奥には上へと続く階段、右側の壁にはクエスト依頼の掲示板があった。
受付には複数の受付嬢がおりその中の一人がマーニを見つけると声をかけた。
「あれ、マーニさんが人を連れているなんて珍しいですね。それに男性のうえ年下なんて。」
親しげな口ぶりからマーニとは仲がいいようだ。
「まあねー、かわいいでしょ?今日はこの子の冒険者登録に来たんだー、時間大丈夫?」
マーニはいつもそうしているように親しく話した。
「ギルド支部局長からお話は伺っています。そうですね、少し待っていてください、」
受付嬢はそう言うと奥へ行き新規冒険者登録の準備を行った。
待っている間にシバは一通りギルド支部を見渡した。そこへかなりイケメンの冒険者がシバたちの方に近づいてきた。装備はかなり性能がよさそうで中々の強者のように見えた。
「やあ、マーニさん、お久しぶり、そうだ今晩食事でもどうかな?」
イケメン冒険者はシバに目もくれずマーニを食事に誘った。だがマーニは彼に目を合わせず何も答えることなく無視した。
「マーニさん、前にもお誘いしましたよ、冒険者レベル6のブースですよ、」
マーニの態度に若干笑顔が引きつるイケメン冒険者ブースだったが笑顔をキープしながらもう一度言った。
「ごめん、覚えてない。前にも誘っているなら同じことを二度も言わせないで、」
マーニはブースを見ることなく冷たく言った。
「断るわ、他をあたって頂戴。」
冷たく言い放つマーニにブースの表情から笑みが消えた。丁度そこへ準備を終えた先ほどの受付嬢がシバたちを呼んでいる。
マーニはシバの手を引きブースに目もくれず受付へと向かった。
「あ、それと変な気を起こしてこの子に手を出したら、、あなた死ぬわよ、」
背中ごしにマーニは言った。最後だけ初めてブースの方を向いた。その目は冷徹で心臓を掴まれたように恐ろしかった。
「初めまして、私はギルド支部の受付嬢をしております、レスペシオです。」
レスペシオと名乗る肩まで切りそろえた茶髪の受付嬢は言った。
「初めまして、シb、じゃなくて、ユウ・ディクイシです。今日はよろしくお願いします。」
ユウ・ディクイシはここでの偽名だ。この都市に来た当初は自身の顔と名前が学院から他の地域まで及んでいると警戒し変装までしていたがここ何日かこの都市で生活していて手配書のようなものはなかったので変装は解いたのだ。
王都の学院から反逆者が出たと知れ渡ったら色々と都合が悪いので学院側も詳細は口外しなかったのだろうとシバは推測した。
レスペシオは辞書のような分厚い本を取り出すとパラパラとページをめくっていった。ページをいくらめくってもどこも白紙にしか見えないがある程度のところで止めページを見開き机に置いた。
「ここには冒険書として登録された方々のステータスが記録されています。担当した受付嬢のみが閲覧できるようになっているので白紙に見えていると思います。」
そう言うとレスペシオは何ページかめくって白紙であることを見せた。どうやら各受付嬢がそれぞれ隠蔽魔法そして鍵魔法で厳重に管理されているようだ。シバも魔眼でこっそり確認しようとしたがえらく時間がかかりそうだったので途中でやめた。
「ではこの見開きのページにユウさんの血を一滴垂らしてください。」
そう言うとレスペシオは細い針を差し出した。
シバは針を刺す前にマーニに念話を送った。
(大丈夫なんですか?負の魔力が検出されたりしたら、、)
(大丈夫だよ、人間専用、正の魔力しか検出されないから、)
マーニにはそう言われたもののシバは内心ドキドキしながら指先に針で刺し血を一滴垂らした。白紙の見開きのページは血が垂れると魔法陣が現れた。
「一分ほどでステータスが浮かび上がりますので左側のページに項目に従って諸々記入してください。お名前は本名でも冒険者ネームでもどちらでも構いませんよ。右側には後の功績などが追加されていきます。」
(さすがに本名はまずいよな、)
シバは名前の欄に“ユウ・ディクイシ”と記入した。
(ま、最初に偽名名乗ったし、)
「えー、ユウさんのステータスが出ました。えっ、、これ、本当ですか?」
浮かび上がったシバのステータスを見たレスペシオは動揺を隠しきれなかった。
【名前】ユウ・ディクイシ
【冒険者レベル】1
【性別】男
【年齢】16
【魔力】1000/1000
【属性適正】
・炎 10/100
・水 10/100
・風 10/100
・雷 10/100
・土 10/100
(ま、そうなるわな、)
「えっと、登録も済んだのでクエストの受注を、、」
シバは面倒になる前に早々と終わらせたかったようだが当然レスペシオはシバを引き留める。
「えっ?このステータス見て何も思わないと思いますか?思いませんよ!全属性適正10%って何ですか!誰でも適正がなくても平均して40%はありますよ!それに魔力量1000って異常ですよ、異常!」
「そ、そんなに異常なんですかね、」
「当たり前です!あなたの年齢の魔力量平均は10000以上ですよ!」
(えー、そんなに、まあ、そうだよな、、改めて数値で目に見えるとショックだわ、、あれ?目から汗が、、)
シバは自分が正の魔力がどれだけ低いかは知ってはいたものの改めて思い知らされかなりへこんでいた。
「もうその辺にしてあげてー、」
マーニはレスペシオに言った。
「この子もそれは十分知っての上で冒険者登録に来てるんだよ、」
「ユウさん、悪いことは言いません、考え直してください、例えクエストのレベルが低くても思わぬ事態というものがよくあります。魔物が突然現れることなんて日常茶飯事です。」
(もしかしてこのままだと冒険者になれない?そしたらベルカさんになんて言われるか、、もうあの笑顔は見たくない、さて、どうしたもんか、、)




