第57話
目を覚ますと幼いシバは木々に囲まれた野原に寝そべっていた。穏やかな日差しが降り注いでいる。
『やっと起きた、』
隣から聞こえるその声がまだ完全に覚醒しきっていない意識を呼び覚ます。シバは横たわったまま声の聞こえる方を向く。
隣でシバに体を向け寝そべる少女は優しく笑みを浮かべている。
『何かいい夢でも見てたの?』
少女はシバに尋ねた。
『うん!魔法が使えて皆に褒められるの!学院でたくさん友達ができたの!』
シバは先ほどまで見ていたであろう夢の話を少女に目を輝かせて話した。
『、、そっか、それはいい夢だね!』
少女はニコッと笑いながら言った。だが同時にその表情は若干暗いようにも見えた。
『あなたたちー!ご飯できたわよー!』
母親が家の窓を開け大きく手を振り呼び掛けている。
『あ、お母さんが呼んでる。』
母親に手を振り返しシバは起き上がった。
『あ、待ってよー、シバ起こしてー』
少女はニヤニヤと笑みを浮かべながら手を広げシバに向ける。
『もー、しょうがないなー、』
シバは寝そべる少女の手を引き起き上がらせようとした。
だが少女が差し出されたシバの手を引いたためシバはバランスを崩し前に倒れこんだ。
『うわぁ!』
倒れるシバを少女は優しく受けとめる。
『もー!何するの!』
シバを抱きしめる少女にシバは言った。
『先に家に着いた方が負けたほうからおかずを一個貰えます、よーい、どん!』
少女はそう言うとすぐに立ち上がり足早に家の方に走っていった。。
『あー!ずるいよー!』
シバも慌てて少女を追いかけた。
目を開けるとマーニの部屋の天井が見える。窓から差し込む光でシバは目を覚ました。
「、、夢か、」
「おはよう、」
シバは隣に目を向けた。フォニアとアデルフィーはまだぐっすりと眠っている。さらに奥に視線を向ける。
先に起きていたであろうマーニと目が合った。
「よく眠れた?」
マーニが優しく微笑みながら声を抑えて言った。薄手の部屋着から少しはだけて見える白い肌に見惚れてしまう。綺麗、その一言に尽きる。
「なんかさ、間に子供たち寝かせて川の字で寝るなんて、、夫婦みたいだね、」
マーニはフォニア達に優しい笑みをこぼしてそう囁いた。
その姿にシバは顔を赤くした。その様子を見てマーニはニヤッと笑みを浮かべた。
「おはよう、あ、な、た、ご飯にする?お風呂にする?それとも、、わ、た、し、?」
「、、それは使う場面が違うでしょう、」
一瞬マーニの姿にドキッとしたものの意識ははっきりとしていたようだ。
「じゃあ、場面が合ってたら選んでくれるんだー」
マーニはニヤニヤと面白そうにシバの返答に返した。
「そういう意味で言ったんじゃないです、、それとちゃんと服着てください、」
シバはさっと視線を逸らした。今のマーニの姿はどうも目のやり場に困るようだった。
「えー、いいじゃない、自分の部屋なんだし、」
「僕がいるということ考えてもらいたいです、切実に願います。」
「だからー、前も言ったけどシバだからだよ?他の男とは違うの、分かる?」
マーニは真剣な眼差しでシバを見つめる。その様子にシバは閉口してしまう。
「だって、反応が可愛くて面白いんだもーん、」
突然ニヤッと笑いながらマーニは言った。その様子に黙ってしまったことに後悔するシバだった。
「あれれ、もしかしてエイミーちゃんみたいに何か別のこと考えたのー?」
マーニはニヤニヤしながらそう言うとベッドから抜け出しシバが寝ていた側にある窓の前に移動した。
マーニが窓を開けると朝の気持ちのいい風が吹き込んだ。風を受けてなびく髪と朝日に照らされたマーニの姿に、その美しさにシバは見惚れていた。
ちゅっ
シバの頬にマーニの唇が優しく触れた。
シバがそれを知覚した時にはすでにマーニはシバに背を向けていた。
「あ、あの、マーニ、さん、、?」
シバは自然と頬に手を当てていた。
「おはようのキスだよ、」
マーニは振り返り笑顔でそう言った。その表情は綺麗というよりも可愛らしかった。
「私先にベルカのところ行くね、」
そう言うとマーニは上着を羽織り部屋を出て行った。シバに見られないように足早に向かうマーニの頬は赤く染まっていた。
「じゃあ、後片付けはお願いしますね。それが終わり次第ギルド支部に向かってくださいね。」
朝食後ベルカはそう言うとそそくさとフォニアとアデルフィーに駆け寄った。シバは肩を落としながら厨房へ重い足取りで向かった。
「、、、シバ、私も手伝う。」
今日はアイやエイミー、そしてマーニもシバと一緒に厨房で片付けをした。アイやエイミーも泊まらせてもらっている身でありながらシバだけが仕事をすることに思うところがあったのだろう。
四人での作業で昨晩よりも確実に早く皿が減っていくことにシバは感動した。昨晩よりも格段に速く朝食後の仕事は終わった。
「それで、き、昨日は何もなかったのよね?」
エイミーがたどたどしくシバとマーニに尋ねた。
「昨日か?ああ、特に何もなく普通に寝たぞ、」
「うんうん、昨日は何もなかったよー、昨日は、それにフォニアちゃんたち可愛く寝てたよー」
シバは普通に答えたがマーニはややニヤニヤしながら言った。やけに”昨日は”と強調している。
「そう、ん?待って、昨日はって何?今日はなんかあったみたいな感じに聞こえるんだけど!?」
エイミーはマーニの”昨日は”という言い方が気になるようだった。
「あ、いや、それは、、」
シバはキスのこともありやや動揺しながらなんと説明しようか考えあぐねていた。
「あー、だから、少年が私の部屋着を見て、そのー、ちょっと目のやり場に困ったって言うか、少年の熱い視線を感じた、、かな、」
マーニはわざとらしく恥じらいを見せながら言った。
(おい、)
「、、、シバ、男の子だからしょうがないところはあると思うのだけれどほどほどにね。」
「、、、」
シバはアイに諭されるように言われてしまい何も言えなくなってしまった。マーニの言う通り確かに目のやり場に困ってはいたし見てないとは言い切れないのもまた事実であるから。
「シバのバカッ!変態っ!」
エイミーに変態呼ばわりされても言い返す気力もないシバだった。
「マーニさんせめてもっと違う言い方もあったでしょうに、僕は変態という男として最悪の名誉でなかなか拭いきれないレッテルを貼られてしまっているんですよ、」
シバはマーニに小声で言った。
「えー、じゃあ私がシバのほっぺにおはようのキスしたって言えばよかったー?」
マーニはなぜか二人に聞こえるように言った。
「、、、は?」
「ちょっとそれどういうことよ!」
(うん、知ってた。)
マーニの投下した爆弾によりシバにアイとエイミーが詰め寄る。二人の勢いで後ろに下がるシバに厨房の入り口で何かがぶつかった。
「あ、ごめんなs、、」
シバの表情はさらに絶望に変わった。
「シバさん、終わったらギルド支部に向かうように言いましたよね。あなたに女の子と遊ぶ余裕があるんですか?ないですよね。」
ぶつかったのは紛れもなく鬼だ、ニコッと微笑む鬼、ベルカだ。しかもシバとぶつかった勢いでベルカの運んできた飲み物のピッチャーをこぼしてしまった。
ただぶつかっただけならベルカもそれほど怒らないだろう。しかしシバとぶつかったことでピッチャーの中身を頭からかぶってしまったのだ。
「ベルカさん、ごめんなさい!」
シバは慌ててベルカの体と服を拭いた。
「大丈夫ですよ、新しく下ろしたメイド服が初日の朝に盛大に汚れてしまっても怒りませんから。」
ベルカは微笑みながらそう言った。
「ハハハ、、」
(だから怖い、怖いって、まあ、でも俺のせいではあるんだけど、、)
一通り拭き終えシバはベルカにもう一度謝った。
「まあ、他にも何着か着まわしているので問題はないです。それより早くギルド支部へ向かってください。マーニさんよろしくお願いします。」
そう言うとベルカはアイとエイミーを連れて二階へ行った。
「アイさんとエイミーさんはここに残って働いてくださいね。責任はシバさんだけではないみたいですし。」
どうやらベルカはシバだけの責任にはしていないようだ。これにはさすがのアイとエイミーも何も言えない。さらにシバ同様優しく微笑むその裏を垣間見た気がして二人はゾッとした。
こうしてシバはマーニと共にクエストをしに、アイとエイミーはベルカの手伝いを行うという一日が始まった。
(て言うか元凶ってマーニさんだよな、、)




