第56話
「ベルカさん、終わりました。」
シバは仕事を終えたことをベルカに報告する。当の本人はと言うと幼女二人との時間を存分に満喫していた。
「、、、」
「あ、あのー、ベルカさん、、?」
中々応答しないベルカにもう一度シバは呼び掛けた。
「ああ、終わったんですね、そうですか。残念です。」
ベルカはニコっと微笑みながら答えた。
(言葉と表情が合ってないんだが、怖いよ、ベルカさん、、)
ベルカの様子に怯えるシバだったがそこに一人の幼女、天使ことフォニアが舞い降りた。
「あ、お兄ちゃん!もー、どこ行ってたのー?」
ベルカのもとから離れシバに飛びついてきた。まるで猫が体を擦り付けるかのようにすりすりと顔をシバの胸にうずめた。
「フォニア、くすぐったいって、、」
フォニアのふさふさした猫耳がシバの鼻を擦る。しかしながらこんなかわいい天使に甘えられるのも悪くはないという思いに浸るシバだった。
だがシバは何やら殺伐とした視線を感じた。もちろんベルカである。ベルカは視線が合わさっても終始ニコニコと微笑んでいた。
(だから怖い、怖いって、)
「ハハハ、、」
苦笑いが漏れるシバだった。
「ベルカさん、このプルンとした甘いものは何というんですか?」
アデルフィーがベルカの袖を引いてテーブルの上にある食べ物を指差した。
「あー、それはプリンですよ。まだありますからもう一個食べますか?」
ベルカは先ほどシバに向けた視線と圧力がまるで嘘であるかのように態度を急変して言った。
「食べます!フォニアちゃんも行きましょう!」
「うん、今行くのー」
そう言ってシバから降りたフォニアは厨房へ向かうベルカの後をアデルフィーと追って行った。
(ナイス!アデルフィー!)
「少年ってさ、まさか年下好き?それもかなり下の、、」
名残惜しそうにするシバを見てマーニがニヤニヤしながら言った。
「いや、なわけないでしょ、フサフサがよかったんですよ、」
「ふーん、じゃあ、年上好き、なのかな?」
マーニは頬を赤らめシバを覗き込むように顔を近づけ言った。
「今度は騙されませんからね、からかっても無駄ですから、」
急にマーニの顔が近づきドキッとしたがフイッと顔を背けシバは言った。
「あちゃー、面白くないなあー」
(別にからかったわけじゃないんだけどなー)
マーニはシバの背中を見つめながら困ったように笑みを浮かべていた。
アイが宿を出て行ったときエイミーは一人考えていた。以前聞いたシバのことについて。
シバは生まれつき魔法の才能がなかった。それでも両親はシバを愛し穏やかに暮らしていたと。けどそんな両親も自分の子供を守るため自らを犠牲にして亡くなった。それから傷を負ったにもかかわらずアイを救おうとした。それからはアイが記憶を書き換えシバの姉として二人で生活した。でもシバが学院に入学するにあたってたとえ姿を変えたとしても魔族との交友があると知られたら都合が悪いのでアイは陰ながらシバを見守ることにしたらしい。でも事情を知らないシバは一人取り残されたった一人で生活することになった。
学院では属性魔法はほとんど使えず、無属性魔法が多少できるだけの無能として有名だった。そんなシバを学院の生徒たちは日常的に蔑みいたぶった。誰一人としてシバの味方はいなかった。いつも独りぼっち、周りから誹謗中傷を受け、暴力を受け、不当な扱いを受ける。そんな毎日を送っていた。帰っても誰も家にはいない。でも厳密に言うとある教官と委員長の二人はシバに寄り添っていたみたい。だけどこの際そんなの関係ない。だってシバへのいじめは何も解消されることはなかったんだもの。
対して私はどうだろう。魔法の才能に恵まれ村の皆と仲良く暮らしていた。いつも同年代の友達と遊び家に帰ったら大好きな両親が私を迎え入れてくれる。シバとは正反対の人生、恵まれた才能、全てシバにないものを持っていた。
そんな私でもシバと一つ共通することがある。それは大切な者を失ったということ。私の村は人間に騙され蹂躙され私以外全員殺された。
人間に家族を殺されたという共通点があった。私もシバと同じく復讐に燃えた。でもダメだった。私の力不足、そして私のせいでフォニアの家族は死んでしまった。もう誰も死なせたくない、そのためにはどうしても人間といがみ合うのをやめ共存するしかないと思った。
でもそれはとても大変なこと。分かってる、どれだけ長い道のりか、どれだけの犠牲を伴うかのか。皆に言われた。甘い、夢物語だ、不可能だって。だからアイと戦った。
『、、、あなたが何を思おうが私には関係ない。けれどあなたがシバの復讐の邪魔をするようであれば今度は容赦しない。それだけの事。』
アイはシバのことを近くに居ながらも何もできなかった。それは仕方がないことだけど。だからこそシバの国や学院に復讐するということに賛同している。今は実際にシバの味方で傍にいられるから、今度は傍で一緒に戦ってあげられるから。
そんな彼女に対して魔族と人間の共存なんて言ったらそりゃ衝突するわよね。全く歯が立たなく殺されそうになった。諦めかけたその時、真っ白な砂浜で彼女に出会った。
彼女は私に勇気をくれた、自信をくれた、そして背中を押してくれた。どれだけ傷つけれられても私は大丈夫だって思えた、勇気をもってアイに挑むことができた。全部彼女のおかげ。私が諦めない限り可能性が低くてもゼロじゃない。魔族と人間の争いのない誰もが笑って暮らせる世界はできる。私が折れない限り同じ志を持った者が少なくてもいい、きっと出会える。未来を変えるんだ、諦めない限り世界は変えることができる。すごく長くて険しい道のりだけど一歩ずつ前に進もう。未来のために。
「シバ、マーニさん、私は諦めないわ、魔族と人間の共存、争いのない世界。」
エイミーは自信と揺るぎない意志を胸にシバとマーニに言った。
「そっか、、」
シバもエイミーの力強く消えることのない炎のような目を見つめただ一言、言った。
「、、、どうしてあなたと二人なのかしら。」
シバたちの借りた部屋にはアイとエイミーの二人しかいなかった。
「しょうがないでしょ、フォニアちゃんたちが言うんだもの、」
部屋にある二つのダブルベッドの内の片方に腰掛けたエイミーが言った。
「、、、でも今晩は私のはずなのだけれど。」
アイは不満そうに言う。それもそのはずである。アイが外から帰ってきたらシバはフォニアとアデルフィーと一緒に寝ることになっていたからである。
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『お兄ちゃん、一緒に寝るの!』
『私もお腹いっぱいで眠たいです~』
ベルカからプリンを食べさせてもらったフォニアとアデルフィーはシバに言った。
『おー、いいぞ、夜も遅いし寝るかー、』
シバはアイたちが争奪戦をしていたことは知らないので断ることなく了承した。
『ねー、フォニアちゃん、お姉ちゃんも一緒に寝てもいいかなー?』
マーニは腰を落としフォニアの目線に合わせて言った。
『うん!いいよ!』
フォニアは快くうなずいた。
『やったぁ、さっ、お姉ちゃんのお部屋に行きましょうねー、』
マーニはそのままフォニアを抱き上げた。フォニアを片腕で支え反対の手で眠そうに目を擦っているアデルフィーの手を取った。
『じゃ、私たち先に行って寝る準備してくるからー、あ、少年覗いちゃだめだよ~』
マーニはアデルフィーの手を引き二人を連れて先に二階に上がった。もちろんニヤニヤしながらシバに忠告するが例のごとくからかっている。
『いや覗きませんからっ!、、あと、ベルカさんさっきから何ですか?』
シバは先ほどから感じる視線と圧力の発生源であるベルカに尋ねた。
『いえ、別にシバさんがフォニアちゃんたちと一緒に眠るからって機嫌悪くなったりしませんよ。あ、そうだ明日の朝食後の片付けもお願いしますね。』
ニコニコと愛想よく笑みを浮かべながらベルカは言った。
『えっ、そんな、さっきは今日だけっt、、』
『お願いしますね。』
『でm、、』
『お願いしますね。』
『、、はい、、、』
(そんなにフォニアとアデルフィーと一緒に居たいのかよ、だから怖いって、あと、怖い、)
終始ベルカに頭の上がらないシバであった。
そこへ二階からマーニが戻ってきた。
『二人ともベッドに入るなりすぐ寝ちゃった、』
『じゃ、僕もそろそろ寝ます、明日も朝から忙しくなりますから、残念なことに、』
シバは最後までベルカの圧力を背中に感じながらマーニの泊まっている部屋に向かった。
その後アイが宿屋に帰ってきたときにはベルカ以外皆部屋に戻っていた。
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「ということなのよ、」
エイミーが事の次第をアイに話した。
「、、、まさか、マーニは最初からこれを狙っていたとでも言うの?」
アイはあのマーニが足早に手を引いたことに合点がいった。
「いや、あんたのブラコンに引いて色々失せたのよ、」
「、、、ブラコンじゃないもん。」
(重度のブラコンよ、、)
あきれて言葉も出ないエイミーは部屋の明かりを消した。二人は一人で一つのダブルベッドを使い眠りについた。
一方その頃マーニの部屋では、すでにダブルベッドでスヤスヤ眠る二人の幼女を挟むように両端にシバとマーニが並んでいた。いわゆる川の字で寝るというものだ。
「少年、この子たちもいるから変な気を起こしちゃだめだぞー」
マーニがシバをからかうように言った。
「全く起きないと思うのでもう寝てください。」
シバは睡魔と戦い始めていたので投げやりにマーニに言葉を返した。
「もー、つまんないなぁー、でもまぁいっか、朝もあるしねー、、」
マーニはニヤニヤしながらそう言うとベッド近くの明かりを消した。
(明日の朝が楽しみだなぁー)




