第55話
エイミーも夕食の席に遅れて加わり賑やかな時間が過ぎた。
アイとマーニはひたすらエイミーをからかい続けた。
フォニアとアデルフィーはベルカと仲睦まじく談笑している。一方シバはと言うと、、一人厨房にて雑用に励んでいた。
もちろんこれはベルカに言いつけられた仕事なのである。シバはベルカに宿に泊まらせてもらっている身でありながら先日借りた硬貨をほとんど使い切ってしまった。使ったと言っても全てフォニア、アデルフィーの食費でシバ自身は自分のために使ったわけではない。しかしベルカはそんなことは関係なくむしろ保護者役であったシバの責任に変わりはないということなので借金を返すべく働いているのである。
実際のところ仕事を丸投げして幼女二人との時間を作るための口実なのではと思いたくなるほど夕食後の仕事を全てシバに任せている。
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『じゃあ、シバさん後はよろしくお願いします。』
申し訳なさそうに丁寧にぺこりと頭を下げたベルカであったがシバはその表情を見逃さなかった。完璧に仕事をこなし誰にでも優しく愛想よく微笑むベルカはどこに行ったのかというほど緩んだ顔をしていたのだ。それはもう幸せそうな表情だった。
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「さっきのベルカさんマジでフォニアとアデルフィーと遊ぶために仕事押し付けたよな。」
そんなベルカを思い浮かべながら大量に残った皿を洗いながら一人シバは呟いた。
シバはギルド支部局長ディエフに言われた通り明日から新米冒険者としてクエストをこなしていかなければならなくなった。そのためこのような仕事もとい雑用は今回で解放されるのだ。そう思えばクエストの方がまだましなのだろう。
シバの冒険者レベルは1であるのでクエストも宿屋の雑用よりは楽なのだ。それでいてクエストは報酬が出るが当然宿屋の雑用は報酬などない。楽な仕事で報酬がもらえるのだからこれ以上においしい話はない。報酬と言ってもクエストに応じた額であるが。
「ま、何ももらえないよりはましか、でも一気にガボッと稼ぎたいよな、」
何かいい方法はないかと思考を巡らせるシバだった。
「後でマーニさんにでも聞いてみるか、」
シバがそう思っている一方で再び小さな小競り合いが繰り広げられていた。
「さて、今晩は誰が少年と寝るか、だねー」
そう、シバと同じベッドで誰が眠るかの権利をかけた争いが勃発した。
「、、、とりあえずマーニは自分の部屋がある。」
第一声はアイだった。
「そうね、マーニさんは私たちとは別の部屋を以前から借りていましたし自分の部屋で寝てください。」
エイミーもアイの提案に乗っかった。
「そうだよー、だから私の部屋で少年も寝ればいいじゃん。」
だがマーニも折れることはない。
状況を整理すると、シバたちの泊まっている部屋はダブルサイズのベッドが一つとシングルサイズのベッドが一つの部屋。人数も多いのでそれなりに大きな部屋だ。対してマーニの借りている部屋はダブルサイズのベッドが一つの小さな部屋だ。
「マーニさんの部屋は小さいしベッドだってそもそも二人寝られるサイズじゃないでしょう?」
エイミーは得意げに言った。
「もともとはシングルサイズだったけどベルカにダブルサイズに変えてもらったから問題ないよー」
「、、、けれどシバは自分の部屋でしか寝ないと思うから結局マーニは脱落。」
どうしてもマーニを引き離したいようでアイは根拠なく言った。
「、、、さらに言えばエイミーはさっき勝手に勘違いしたから脱落。よって今晩は私。」
腰に手を当て胸を張って誇らしげにアイは言った。だが二人が引き下がるはずもなく口々に言った。
「色々論理が破綻しすぎてるわ、それとその胸を張ってもみじめなだけよ。」
エイミーがアイの目なもとに視線を落としあきれたように言った。
「そもそもなんだけど少年の年齢的に姉とはもう寝ないでしょ。」
「そうよ、シバだって嫌なはずよ、いい歳した男の子が恥ずかしいと思うはずよ。」
このように言われてもアイは逆に頬を赤らめた。
「、、、それが可愛い。照れているシバを独占できるのよ。」
こう言われてしまったらエイミーとマーニは言葉が出なかった。言い返せなかったのではない、アイの発言に引いてしまい絶句したのだ。
「やっぱりブラコンじゃない、、」
再びあきれたようにエイミーが言った。
「はぁー、なんかめんどくさくなってきちゃったー、今晩はアイちゃんに譲るよー、」
そう言うとマーニは諦めたように席を立った。
「しょうがないわね、わたしも諦めるわよ、」
マーニの後姿を見ながらエイミーも今晩は諦めたようだ。
「それに、、最後、殺さなかったみたいだし、、」
エイミーはアイが自分を最後まで殺さないでくれたことに多少の恩を感じているようだった。
「、、、別に恩を感じる必要はないわ。興が冷めただけだから。」
だがその様子に急に態度を一変させアイは冷めた口調で突き放すように言った。
「でも、、」
「、、、あなたが何を思おうが私には関係ない。けれどあなたがシバの復讐の邪魔をするようであれば今度は容赦しない。それだけの事。」
アイはじっとエイミーの見つめ言った。無表情で感情が読み取りづらいがエイミーを見つめる目は獣が獲物を狩るときのそれだ。
エイミーは生唾を飲み込んだ。背筋が凍りつくほどゾッとする。だがエイミーも食い下がる。
「でも、私は諦めない、」
「、、、好きにすればいい。」
アイはそう言うと一人宿屋を出てどこかに行ってしまった。
「はぁー、まだこんなにあんのかよ、」
未だに残った皿を見てシバは呟いた。
「お疲れさまー、ちゃんとやってるかなー?」
そこへマーニがやって来た。アイとエイミーから別れたマーニが向かった先はシバのいる厨房だった。
「残念ながら見ての通りです。」
シバは残る皿に目をやった。
「大変そうだねー、よし、ここはお姉さんが手伝ってあげよう。」
そう言うとマーニはシバの横に立ち残った皿を洗い始めた。
「すみません、本来は僕がやる仕事だったのに、、」
「いいっていいって、お姉さんに任せなさいな、」
マーニはシバよりも手際よく皿を洗っていく。
「珍しいですね、いつもなら手伝い代わりに何かしなさいとか言って僕をからかうのに、」
「あれ?もしかして何か言ってほしかったのかな?期待したぁー?少年のエッチ、」」
マーニはニヤニヤしながら言った。
(くそ、またやられた、、)
二人は並んで皿を洗う。二人の間に会話はない。水の流れる音、皿どうしのぶつかる音だけが厨房に鳴り響く。
「シバはさ、昔の記憶とか、、覚えてる?」
ふとマーニがシバに尋ねた。
「どうしたんですか?突然、」
手を止めずに皿を洗い続けるマーニを見ながらシバは言った。だがマーニはどこか暗い雰囲気で皿を洗い続けている。
「父親と母親の記憶は正直、あの日の記憶しかないです。」
シバはマーニの雰囲気を感じ取りマーニの返答を待たずに答えた。
「あの日って、、シバのご両親が亡くなった日、、?」
「はい、、」
シバの両親は国と学院の魔法士によって殺された。シバを守るために自分たちの魔力全てを使って、自分たちの身を犠牲にして。今のシバにはアイによってその日の記憶までしか知らない。アイの計らいで記憶が書き換えられたが図書館でアイと出会いあの日の記憶を戻してもらった。しかしそれ以前の記憶はアイも知らないため未だに戻っていない。
「そうなんだ、、」
マーニは悲しげに言った。再び厨房には水の流れる音、皿のぶつかり合う音だけが支配する。
それ以降会話という会話をすることもなく二人は皿を洗い終えた。
「そういえばさ、アイちゃんたちの戦いの時さ昔の記憶がどうとか言ってたよね?あれってどうしたの?」
ふいにマーニがシバに尋ねた。マーニの真剣な眼差しからひしひしと緊張が伝わってくる。
「昔の記憶の断片のような光景が浮かんできたんです、でも、父親と母親の他にもう一人顔はよく見えなかったけど女の子がいて、、」
シバはあの時のことを思い出した。隣にいた年上の女の子のことを。
「早く昔の記憶が戻るといいね、」
マーニは悲しげに微笑んだ。二人はエイミーたちのいるテーブルに向かって行った。
(あっ!マーニさんに一気に大量に報酬を稼ぐ方法聞くの忘れてた、、)




