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無能魔法士の復讐   作者: 宮田悠保
第二部
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53/93

第53話

 気付いた時にはもう遅かった。


 エイミーが瞬きをしたそのわずかな一瞬の間に距離を詰めそして胸に短剣を突き立てた。


「ハァ、ハァ、ハァ、さすがね、アイ、、」



グサグサグサグサグサッ、グサッ、グサッ、



 エイミーの背中から一斉に放射状に放出された何本もの触腕のオーラがアイの体を突き刺した。


 それはアイの防壁の展開よりも一歩早かった。


「ウッ、、あなた、、」


 アイはこの戦いが始まって初めて傷と呼べるほどの傷を負った。所々の傷口から血が垂れる。


「まだ、終わってないわよ、まだ、私は、、」


 もはやほとんど気力のみでエイミーは立っていた。


 だがその気力も尽き果てエイミーは意識を失いアイにもたれ掛かった。


 意識が朦朧とする中でもなおエイミーの目は、気力は、そして彼女自身は死んではいなかった。故に最後の力を振り絞った最後の攻撃だったのだ。


 同時にオーラも消えた。エイミーの驚異的な自己再生は起こらない。


 アイの傷口も決して浅いわけではないが自分に身を預けて気を失ったエイミーを受け止めた。


 アイはすでに自己再生が始まっており血は止まり傷口が塞がっていく。


 アイはそのままゆっくりとエイミーを結界の床に寝かした。


 無抵抗なエイミーに向け魔法陣を展開した手を向けるも途中でやめた。


 エイミーの表情は満足げにうっすらと笑みが浮かんでいた。


 結局アイがエイミーにとどめを刺すことはなかった。


 アイは何食わぬ顔でシバの方を見つめた。


 アイの様子を見てシバとマーニが駆け寄った。

 アイは何も言わなかったがシバはなんとなくアイがこちらを見た意味を理解した。

「魔力切れか、」

「、、、自己再生もままならない。本来ならば自己再生は魔力を消費しないのだけれどエイミーの驚異的な自己再生は魔力を消費するみたい、あの黒いオーラ。」

 シバはエイミーに手を向け治癒魔法を施した。唯一この場で治癒魔法を使えるのは正の魔力を持っている人間のシバのみだからだ。そのためにアイはシバを呼んだのだ。

「でもさー、なんで途中でやめたの?やっぱり殺したくなかったのー?」

 マーニがアイに尋ねた。どうやら少しおちょくっているようだ。

「、、、別に、興が冷めただけ。」

 だがアイは淡々と答えた。

「ふーん、だから鎖で捕らえて大玉の魔弾の押し合いに持っていってエイミーちゃんがたくさん魔力を消費するように仕向けたんだね、」

 マーニはアイの戦い方についてアイの気持ちもふまえて分析した。

「最初から殺すつもりはなった、魔力切れで戦闘不能で終わるように決めてたんじゃないのー?」

「、、、さっきから何?生かすも殺すも私の自由。」

 うっとおしそうな顔をマーニに向けてアイは言った。二人の間に殺伐とした空気が流れている。

(ものすごく不穏な空気になってるのは気のせいだと信じたいんだけど、、)

 シバは治癒魔法を施しながら背中ごしに二人の様子を感じ取った。

「マーニさんもとりあえずいいじゃないですか、戻りましょう、」

 このままいくとさらに良くない展開が予想されたのでシバが仲裁に入った。

「別にいっか、アイちゃんが本気出したらエイミーちゃん瞬殺だもんね、エイミーちゃんも今回はいい経験になったんじゃないのー?」

「、、、マーニ、余計なことは言わないで。」

「もー、分かったよー、」

 なんとか無事仲直り?できたようでシバは一件落着と胸をなでおろした。


「、、、シバとマーニは何か私に言うことがあると思うのだけれど?」


(あ、覚えてたんですね、、)


 どうやらまだ一件落着してはいないようだ。再び不穏な空気が、というよりもアイから一方的に殺伐として禍々しい妖気のようなものが感じられた。


「何か言うことって何ですかね?」

 シバはマーニに尋ねた。

「うーん、何だろうね、」

 マーニも何食わぬ顔で答えた。


「「僕(私)達は何もしてませんよ?」」


 シバとマーニはお互いに目配せをして声を揃えて言った。


「、、、シバ、、」


 アイはジト目で見つめるだけで逆にそれが恐ろしかった。

(さすがにまずかったな、、制裁が怖すぎる、、)

 アイがシバに近寄る。幼い頃に悪さをした後の姉、アイからのお説教が鮮明によみがえる。

(アイのお説教に勝るものはこの世にはない気がする、)

 今回は仕方がないと思い観念して目をつぶった。


 だがいつまで経っても拳骨は来ない。ゆっくりと状況を確認するべく瞼を上げようとした時急に腕を掴まれグイッと引っ張られた。


「えっ?」


 柔らかいような硬いような、何とも言えぬ弾力がすっぽりとシバの手に収まった。

 

 目を開けるとアイがシバの手を自身の胸部に押し当てているのだ。


「、、、マーニだけずるい、私のも触って。」


 頬を赤らめ上目遣いに言うアイの吐息が漏れる。


「な、な、何やってんだよっ!」

 シバはものすごい勢いで腕を引っ込める。

(焦ったぁー、マジで、何なんだよ、まったく、でも、マーニさんとはまた違った感触だった、、うん、)


「いや、アイちゃんそんなんでよくやったね、」

(この人は火に油を注ぐような発言をよくもまぁ、)

 マーニが笑いをこらえながら哀れみのような視線をアイの胸元に向けて言った。

「、、、でもシバはこれはこれでって顔していた。問題ない。」

 マーニの発言からさらに争いが勃発するということもなく無事平穏が訪れた。シバの精神は大きく削られていることは言うまでもないが。


 ほどなくしてベルカがフォニアとアデルフィーを連れてやって来た。

「エイミーさんは大丈夫ですか?」

 エイミーに治癒魔法を使うシバにベルカが尋ねた。

「血は止まったのでとりあえず大事には至らないと思います。」

「そうですか、よかったですね。」

 ようやくアイとエイミーの戦いは幕を閉じた。


「じゃ、そろそろ戻るよー」

 マーニがそう言うと床一面に魔法陣が現れた。


「転移、」

 

 皆が光に包まれて結界は消えベルカの宿屋へと戻ってきた。


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