第51話
自分に向かってくるエイミーに対してアイは自ら動いた。
瀕死の状態から謎の光と黒いオーラによって復活を果たしたエイミーは確実に今までとは違う。アイもそう感じていた。にも関わらず受け手に回らなかったのはエイミーに対する尊敬の表れだろう。
この程度でやられるようならば生かしておく必要もない、ましてやシバの横に並ぶに値しないと思っていた。それこそ魔族と人間の共存など言語道断だ。
しかしエイミーは死ななかった。自分の意思を貫き通し窮地から脱したのだ。それが人間との共存を望んでかシバのことを強く想ってか、もしくはその両方か。どちらにせよ、どのような理由であろうと彼女を認めないわけにはいかなくなった。
それでもなおエイミーに対するアイの見方は”ウザい”、”うっとおしい”、”胸がでかい”の三拍子揃っている実に憎たらしい女、である。
今アイがエイミーに向かって行くということは何かエイミーに期待してのことだろうか。少なくともアイのエイミーに対する見方に”諦めの悪い女”が追加されたことは間違いない。
黒いオーラにより完治したエイミーの最初の攻撃はやはり正面からの突きだった。
エイミーを迎え撃つべく加速したアイは突き出された拳を掌で受け止めた。
アイがエイミーの拳を掴むと二人の勢いが殺された。
空中でとどまる二人だったがアイがエイミーの拳を掴んだまま腕を引いた。
エイミーの上体は反動で前のめりになりアイの膝がエイミーの顎を蹴り上げた。
アイの華奢な体にエイミーの顎を粉砕するがごとき蹴りを繰り出す力がどこにあるのかと言いたくなるほど豪快で且つ決定的な一撃だった。
だがさらにアイの一連の攻撃は続いた。
後ろに上体の反れたエイミーの正面はガラ空きだった。
そこに容赦なく身体強化により紫色のオーラを纏ったアイの拳が牙をむいた。
エイミーは防御することもできずアイの攻撃を食らった。
それからアイの流れるような連撃は続いた。
拳の突き出しから蹴りへの移行、無駄のない洗練された動きだった。
エイミーも何度も拳や蹴りを受け止めようとする動作をしてもアイがそれを読んでいるかのように受け手をかわし攻撃する。
防ぐこともできなければ攻撃にも移れない、防御不可能の連撃である。
「、、、!」
だがアイが連撃をやめた。いや、止めたというより何かに気づいて止めざるを得なかったと言った方が正しいだろうか。
エイミーは殴られた勢いのまま結界の床にたたきつけられた。
アイは追撃することはなくその場でエイミーを見下ろしていた。
エイミーの体は身体強化されたアイの突きや蹴りを受けて所々傷が目立っている。
エイミーに痛む様子は見られるものの何故か余裕の表情でいる。まるでこの程度の傷など問題はないと言っているかのようだ。
ボロボロの状態でたたずむエイミーの全身がほのかに光を発していた。
やがて背中周辺から触腕を彷彿とさせる黒いオーラが数本放出された。
オーラは木の枝のように細かく細分化していきエイミーの負傷した部位にそれぞれ伸びていく。
オーラは触れた傷口を修復しているようだ。やがてエイミーの負った傷は全て再生していた。
「、、、めんどくさい。」
アイはエイミーの驚異的な自己再生能力に辟易した様子で言った。
「自分でも驚いてるわ、、でもアイの身体強化による攻撃はもう効かないみたいね。」
エイミーは自信満々に言った。
「、、、調子に乗りすぎ。」
アイは当然のように言い返したが事実エイミーに攻撃が効かないことに変わりはない。
アイに考える暇を与えずにエイミーがアイとの距離を詰めた。
アイはエイミーとの距離をとりながら回避する。やみくもに攻撃してもエイミーの驚異的な自己再生の前では無意味だからだ。
だがエイミーもアイを追従して攻撃の機会をうかがう。
「あら急に後手に回るなんてアイらしくないわよっ!」
エイミーは目の前を飛行するアイに魔法陣を展開させた腕を向けた。
エイミーは空中で停止してそのまま炎の魔弾を次々に放った。
アイは魔弾を回避するべく飛行する軌道を変更したが炎の魔弾はアイの動きに追従していった。
アイは何度も方向転換を繰り返すもエイミーが絶え間なく放つ炎の魔弾がしつこく付きまとう。
エイミー自身はアイの移動に合わせて体の向きを変えているのみで一定の場所から魔弾を放ち続けている。
だがアイもただ方向転換をしているだけではなかった。
方向転換を繰り返す中アイは体を反転させ迫りくる魔弾に向かい合った。
そのまま後ろ向きに飛行し炎の魔弾に向かって魔弾を放った。
魔弾同士がぶつかり合い小さな爆発が起きる。
爆発も煙に乗じてアイは空中に何かを仕込んでいく。だがエイミーはそれに気づいていない。
アイは両手で魔法陣を展開し片方ずつ交互に魔弾を放った。
アイはその間にも移動を続けエイミーの周りを飛び回った。時折エイミーに視線を向ける。
(さっきから私の放つ魔弾を相殺しているけどたまに視線がこっちに向いている、隙を見て私に攻撃するつもりなの?)
エイミーもただやみくもに攻撃しているわけではなかった。アイとの戦いの中で相手の出方に思考を巡らせる。
その時アイの魔弾がエイミーに向かって放たれた。エイミーを中心にアイは同心円状に移動し魔弾を放つ。
(きたっ!)
エイミーは自分に向かってくる魔弾を自身が魔弾を放ち相殺することで防御した。
魔弾どうしの爆発により煙が立ち込める。エイミーはアイを追撃する炎の魔弾を放つ手を止めた。
アイの接近する可能性を頭に入れ警戒する。
煙に紛れアイが煙の中から姿を現しエイミーに接近した。
「そう来ると思ったわっ!」
アイとエイミーの拳と拳がぶつかった。
「アイ、私のこと舐めすぎ、バレバレよ!」
二人は一度距離をとった。
「、、、別に舐めてはいないわ。」
アイはそう言うと上昇しエイミーからさらに距離を置いた。
「、、、むしろ強者だと思っている。」
エイミーを見下ろしながらアイが言った直後、エイミーを囲うように同心円状にいくつもの魔法陣が姿を現した。
「、、!?」
エイミーが魔法陣の出現に気づいた時には周囲の魔法陣からは鎖が伸びていた。
エイミーは鎖に捕らわれ身動きができなくなった。
アイはエイミーの魔弾に自身の魔弾をぶつけ相殺した際の爆発に紛れてこれらの魔法陣を設置していたのだ。
両手の魔法陣から交互に魔弾を放っていたのは片方で魔弾を放ち残るもう片方の魔法陣で鎖を仕込むためだ。
「なるほど、最初からこれを狙ってたってわけね、わざとこっちに視線を送って私に魔弾を放つことでまんまと誘導されたってわけね、」
鎖に縛られながらもエイミーは自身の置かれている状況を冷静に分析した。慌てる様子もなく逆に余裕ありげに言う。
「でも、こんな鎖なら簡単に、、」
エイミーは強引に鎖を引きちぎろうと力を込める。全身には紫色のオーラが纏っている。
だがエイミーの全身を強烈な電撃が駆け巡った。
「あぁぁぁっ!!」
その痛みにエイミーは苦しみ悶える。
「、、、あなたの自己再生は驚異的だけれど痛みを感じないわけではない。それとその鎖は魔力を込めた分だけ電撃の威力は強く作用しあなたを苦しめる。」
アイに言われエイミーがアイの方を見上げるとエイミーの表情は一変した。
言葉を失ったエイミーの視線の先、アイの上に向けられた手の先に見えたのは巨大な大玉の魔弾だった。
「、、、言ったはず、あなたを強者だと思っていると。」




