第46話
悔しいけどアイの言葉はあまりにも的を得ていた、そう感じざるを得なかった。でもこれで何も言い返せないようならば人間との共存というのが本当に綺麗事で私の夢物語で終わってしまう。一度は村の皆を何のためらいもなく自分たちの利益のため、憎しみ、快楽のため皆殺しにした人間を恨んだ。復讐しようと一人で突撃した。でもダメだった。あの日私が学院を襲撃しなかったらフォニア達が奴隷であるとばれることはなかったしフォニアの家族が殺されることもなかった。すべて私が復讐心に駆られて衝動に任せて行動したための犠牲だ。私の行いは人間のやっていることと何ら変わらない、憎しみのまま誰かの命を奪うという行為。私が争いに出なければ。その日突然奪われることのなかった命を私が奪ったんだ。
だからこそ私は争いをするべきではないと思った、争ったらまた他の誰かが死んでしまうかもしれないから。人間との共存、それが唯一誰も死なない、ううん、分かってる、絶対はない、けれど一番犠牲は少ない方法。これは私が誰に何と言われようとも曲げることはできない。
「確かに、、」
エイミーは口を開いた。
「確かにあなたの言う通り犠牲は出てしまう、それは認めるわ。でももう見たくないの、自分の近しい者が死ぬのは。もう見たくないの、自分のせいで誰かが死ぬのは。それを最小限にするには人間と共存することなんだと思う。」
その言葉にはエイミーの自信と覚悟が感じ取れた。心なしかその表情も清々しいほどに凛々しい。
「、、、やっぱり愚かね。でも、、あなたと同じような考えの人間がいると良いわね。この世に絶対はないのだから。その人間も愚かであることに変わりはないのだけれど。」
「えっ?」
「、、、けれど魔族と共存を本当に望む人間がいたとしてもその低い確率に賭けるほどの価値はないし時間もない。」
一瞬アイに認められたと思ったエイミーだったがそれを否定された。しかし、微妙なところではあるが初めてアイに認められた気がして少し嬉しくも感じていた。
「、、、そんな女をいつまでもシバの近くに置いてはおけない。あと目障り。」
だがその嬉しいという気持ちは早々に消えた。
「はあ!?それは関係ないでしょうよ!私がシバの近くに居ようがあなたには関係ないじゃない!」
「、、、ある。私はシバの姉として変な虫が付かないようにしなくてはならない。」
アイは謎の使命感に燃えていた。燃えると言っても穏やかにではあるが。
「あなたいい加減に弟離れしなさいよ、シバもいい歳なんだからその内気持ち悪がられて嫌われるわよ、このブラコン!」
「、、、ブラコン!?」
「ええそうよ、世間ではあなたみたいなのをそう言うでしょ、知らないの?ブラコンな姉は基本的に弟に疎まれるわよ。」
「、、、ブラコン、」
「だから何回も言って、る、でしょ、、」
アイからは黒いオーラと言うよりはメラメラと燃え上がるようなしかしとても冷徹なオーラが迸っていた。
「ア、アイ、?」
その様子にエイミーもたじろぐ。
「、、、やはりあなたとは戦わなくてはならないようね。人間との共存は愚かなこと、それよりもシバの側にいることを許さない。」
「「は?」」
エイミーだけでなくシバもアイの言っていることがわからなかった。
「、、、ブラコンじゃないもん。」
((そっちかよっ!))
「まあ、どちらにせよあなたとは戦わなきゃダメみたいだしね、」
「、、、あなたは私に勝てない。それとブラコンじゃないもん。」
((まだ言ってんのかよ、))
時間が止まったようにアイとエイミーの間に沈黙が続いた。嵐の前の静けさのように、そして嵐が急にやって来るように沈黙は破られた。
バキィッ!
アイの右手がエイミーの左頬に、エイミーの右手がアイの左頬に、互いの拳がクロスし殴られながも互いに自分の拳が相手に刺さる。
二人は同時に加速し一瞬で距離を縮め対峙する二人の丁度真ん中で拳を交わしたのだ。
殴られた勢いで二人とも後ろに体をのけ反らせた。受けたダメージはほぼ同じのようだ。単純な力のみならばエイミーもアイに引けを取らないようだった。
その状態から先に動いたのはアイだった。
お互いの拳の威力で体がややのけ反った状態からエイミーの拳の勢いを利用し床と平行に回転しながら左足で水平に蹴りを入れた。
アイの蹴りは避けられることなくエイミーの顔面に直撃した。
ガンッ!
鈍い音からその衝撃が伝わる。重い衝撃が頭から全身に駆け巡りエイミーはよろけた。
揺れる意識に鞭を打ちエイミーはアイから距離をとった。
アイが追撃することはない。強者の貫禄が垣間見える。あくまで圧倒的に力の差を見せつけるとでも言うかのようにエイミーの次の攻撃を待つ。
だがアイとは裏腹にエイミーにはそのような余裕は一切ない。呼吸を整え次の攻撃に移る。
エイミーの全身からは淡い紫色の光がにじみ出る。直後エイミーは一気にアイのもとへ加速した。
一瞬にしてエイミーは元いた場所から姿を消す。身体強化によって移動速度を急激に上げたように思われた。
再びエイミーは表情を一切変えずに平然と構えるアイに拳を突き出した。
だがアイは難なくエイミーの拳を受け止めた。エイミーのパンチを受け止めたアイの横を衝撃波が通り過ぎアイの髪がなびいた。威力は申し分ない。
「、、、フッ」
エイミーはやや焦りの表情を見せるがアイはエイミーに向かって不敵に笑った。
エイミーは何度も連続して拳を突き出した。しかしそれを全てアイは表情一つ変えることなくエイミーのパンチを余裕でさばいていった。
いくつかのパンチをさばいたアイはガラ空きとなっているエイミーの腹部に素早く腕を伸ばした。
エイミーがその腕に気づくころには魔法陣が展開され魔弾が放たれた。
「ガハッ、」
魔弾の勢いのままエイミーは後方に吹き飛ばされる。
だがエイミーは空中でとどまり再びアイに向かって行った。




