第45話
「アイちゃんたちこの結界の中なら戦っても周りに迷惑にならないから思う存分どうぞ~」
マーニは結界の中央で対峙する二人に声をかけた。
「ちょっと、いいんですか、勝負はもう、、」
シバはアイが勝つと分かっているのにわざわざ戦わせる必要はあるのかとマーニに言いかけた。
「少年も分かっていると思うけど言葉で納得できないから戦うしか選択肢はないんだよ、そうやって今までの歴史も築かれてきたんでしょ?」
アイとエイミーもお互いに自分の意見を曲げる気はない。ならば力ずくで従わせるまでだとマーニはそう言った。
「戦争の発端なんてそんなもんだよ。意見の食い違いからの小さなもめごと、国の政策への反対、革命、全部少なくとも二つの勢力が自分たちを貫き通そうとする。それはもう話し合いではどうにもならない、だから最終的に戦争という形で勝敗を決めるんだよ、」
シバは何も答えなかった。マーニの言っていることは正しいし自分でもよくわかっているからだ。
「エイミーはアイに勝てるとは思えませんが、」
マーニは対峙する二人を見ながら答える。
「今のままじゃエイミーちゃんは絶対に勝てないね、でも、」
「でも、?」
シバが再び尋ねる。
「この戦いをきっかけに黒魔法を発動できたら勝負はわからないよ、」
「黒魔法?」
シバは聞きなれない言葉に頭を悩ました。
「えー、黒魔法も知らないの?しょうがないな、お姉さんが説明してあげよっかな、」
人間と魔族は魔力の種類が違う。正の魔力と負の魔力。人間は正の魔力しか、魔族は負の魔力しか保有していないので人間が負の魔法を使うことはできないしその逆もしかりだ。ただしシバのような例外は除くが。マーニが言うには黒魔法とは正と負の魔法のどちらにも存在する魔法の系統のことだと言う。そもそも普段人間や魔族が使っている魔法は俗に白魔法と呼ばれているものらしい。しかし、何かをきっかけに黒魔法と呼ばれる魔法が発動するのだとマーニは言った。
「そのきっかけというのは?」
「きっかけにも色々あるし人それぞれだよ。怒り、憎しみ、悲しみ、いろんな感情が黒魔法を発動する引き金になり得るんだよ。しかもその思いが強ければ強いほど黒魔法は強くなる。我を失っちゃうケースもあるらしいけど、」
「じゃあ、アイとの戦いの最中に黒魔法が発動されたらエイミーにも勝ち目があるってことですね、」
「白魔法は遺伝や才能で決まっちゃうけど黒魔法は全く関係ないからね、」
(アイ、エイミー、)
シバは少し心配そうに対峙する二人を見つめた。そんな中パレク教官に言われたことがシバの頭に蘇ってきていた。
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『遠征訓練で魔族に遭遇した私の友人は魔族の血を大量に浴び気が狂ったように私たちに襲い掛かってきたんだ。彼は同じ教室で学んだ同士を何のためらいもなく殺したんだ。だから、私は魔族こそ憎むべき悪だと思っている。私のように魔族に私の大切な家族、仲間を殺されるような人間が出ないようにしなくてはならない。私が教官になったのはこの国の、世界の平和のためなんだ。』
『色々調べてみたんだが先ほどのお前の豹変に関することだがあれはおそらくブラーフマと呼ばれるものだと思う。ブラーフマとは自分の中にある他者への憎悪に溺れてしまう状態のことを言う。お前の場合は一時的なもので完全にブラーフマとなったわけではないがこれから先、なにがあるかわからないから何とも言えないというのが現状だ。』
『完全にそのブラー何とかになったらどうなるんですか?』
『憎しみのままに破壊と虐殺の限りを尽くすと言われている。一応人間としての自我は残るみたいだがもはや人間とは呼べないだろう。しいて言うなら魔族という部類になるだろう。』
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(もし教官の言うブラーフマってのが黒魔法の発動によるものならエイミーが暴走するってことも考えられるんだよな、そうしたらアイは大丈夫なのか、)
「そう簡単にアイちゃんはやられないし黒魔法もあくまで可能性だよ、」
シバが深刻そうな表情をしていると横から穏やかな声色でシバの不安を振り払うようにマーニが言った。
「それにエイミーちゃんの黒魔法が発動したとしても相手は魔王の後継者のアイちゃんでしょ、信じなさい、」
「、、はい、」
なんだかんだ言ってこの人は頼れるなとシバが思った矢先マーニが思いっきりシバの肩を抱き寄せた。そうなればシバの頭を遮るものはなく一直線に柔らかな丘に向かうのだった。
「うりうり~、ほら頼れるお姉さんだよ~、惚れ直しちゃたかな~?」
息は苦しく押しつぶされて窒息しそうである。顔の左右はたわわな弾力で押しつぶされまさに天国で意思に反して決して抗えるものではない。などと言ったらアイやエイミーに後々何と言われるかわからないのだが。
「ちょ、マーニさん、いい加減にしてください、」
と一応言っておくシバであった。マーニはニヤニヤしながら少年を解放した。
「全く、ちょっと頼れると見直したのに、」
「、、、結局戦いになったわね。」
アイが挑発するように対峙するエイミーに言った。
「それはアイが攻撃してきたからでしょ、」
負けじとエイミーは言った。
「、、、あなたが敵意の眼差しで私を見たから。宣戦布告と受け取った。」
「いや、それこっちのセリフだから、先に手を出したのはそっちだし、」
「、、、それもそうね。なら愚かなあなたにもわかるように教えてあげるわ。あまり長く話すのは好きではないのだけれど。」
「愚かですって!?」
アイは目を閉じ一呼吸置いた。
「、、、人間と共存をすれば争いは消え犠牲もない、あなたはそう言ったけれどそもそも魔族同士でこうして争おうとしている。」
「だからそれはあなたが先に、、」
エイミーを無視してアイは続ける。
「、、、人間と共存?そのための具体的な争わず誰も犠牲にならない方法は?人間を説得?その人間を説得させるまでに争いはないと言えるのかしら?犠牲は出ないと言えるのかしら?」
「そ、それは、、」
「、、、どの段階でも確実に争いは起きる。あなたが望んでいなくても人間は争いに出る。なぜなら自分たちは魔族との共存は望んでいないから。」
「、、、あなたがどんなに素晴らしい演説をして人間を説得したとしてもそれまで時間はかかるしその間に争いは起きる。犠牲もでる。」
「、、、二つが対立して今まで一度も和平が結ばれることはなかったと言うことは少なくとも一方が頑なにそれを望んではいないと言うことなのではないのかしら。」
「、、、だから戦争に勝つことで、力で相手を支配する。最終的にすべて争いで決まる。」
アイのこれでもかというほどの言葉を聞いてエイミーはただ立ち尽くすことしかできなった。




