第44話
「え、いや、まだ特に何も、」
「それはよくありませんね、冒険者は基本的に二日に一回はクエストをしないといけない決まりなんですよ。」
「でもマーニさんは?」
「あなた、マーニさんは冒険者レベル9、あなたは1ですよ。待遇が違って当たり前です。」
冒険者レベル、その名の通り冒険者を区別するランクのことでレベル1から10まで存在している。毎日更新されるクエストの依頼で依頼主はクエストの難易度に応じて冒険者レベルを設定できる。レベルの高い冒険者に依頼するにはその分金額も高くなる。クエストに関してはギルド支部の掲示板に表示されるという。
「だからあなたは明日からきちんとギルド支部まで来てクエストを探してください。」
フォンは紙のようなものを広げて冒険者としての心構えを説明した。
「は、はあ、分かりました、」
シバは冒険者として活動していくことに関しては不本意ではあるがベルカがシバの方をずっと見ているので仕方なく了承した。
(たぶんお金返せってことなんだよな、ベルカさん、)
「ま、こんな感じかな、エイミーさん今日はありがとうございました、」
ディエフとフォンが立ち上がり対談を締めた。だがエイミーは浮かない顔だ。
「うん、今日はありがとねー、例の件もいろいろ探ってみるよ、」
エイミーの代わりにマーニが返答した。ディエフとフォンは宿屋を後にした。
「支部局長、あそこにいた銀髪の幼い少女、、」
「ああ、おそらくオークションの出品倉庫から抜け出したと報告のあった奴だ、」
宿屋を出てからディエフとフォンは何やら怪しげな会話をしていた。話の内容は銀髪の少女、アデルフィーのことのようだ。
「どうします?取り返しますか?」
「ああ、だが面倒事は起こしたくない、マーニのことだ、あの少女が人間ではないことに気づいているだろう、何か策を考えないとな、」
「オークションでは亜人や魔族の他にも違法薬物、魔法道具などが競りにかけられるため存在自体隠されていますし、」
「まあ、その内うまい方法を考えよう、」
「それとマーニと一緒にいた青年、何者でしょうか?」
フォンが疑い深くシバのことを思い出した。
「それも気になるな、やれやれ、やることが多くて大変だな支部局長も、」
「、、、終わったのね。」
アイが二階から降りてきた。欠伸をし髪がややボサボサとしており寝癖が目立つ。いつもより格段に眠たそうだ。
「、、、現実を目の当たりにした感想は?」
アイは手で髪をとかし寝癖を抑えながらエイミーに尋ねた。だがエイミーは何も答えられない。唇を噛み締めただアイを睨むことしかできなかった。
「、、、今何も言い返せない時点であなたは何もできない。」
アイは追い打ちをかけるように続ける。エイミーの気持ちなど関係ないようだった。人間に対する憎しみ、怒りそれらが今はエイミーに向いている。
「、、、人間と共存?同じ考えを持つ人間と出会う?いい加減にして。」
「だ、だからそれは世界中に絶対にいる、」
エイミーが絞り出す。
「、、、なぜ?あなたはどうしてそう言い切れるのかしら。」
「エイミーちゃん、、」
マーニが口をはさんだ。その表情はどうしようもない子供に手を焼く母親のようだ。
「仮にエイミーちゃんと同じ考えの人間がいたとしてもならどうして今まで奴隷の解放や国に反旗を翻す革命は起きていないのかな、本当にそう願っている人間がいるのなら国の法律を犯してでも行動するよね、でもそれが起きていないってことは魔族と共存を望む人間はいないと思った方がいいよ、確率的に。厳しいことを言うようだけど。」
「それは、そうかもしれないけど、まだ規模が小さいから行動に出ていないだけかもしれないし、、」
その時エイミーめがけて一筋の光が火花を散らし飛んできた。
ギンッ!
シバが防壁で放たれた電撃の矢を受け止めエイミーを庇った。
「何してんだ、」
シバの放った言葉の相手、エイミーの対局には魔法陣を展開させた手を前に出して構えるアイがいた。
「、、、言葉で分からないのなら痛みで分からせる、それでもだめと言うなら、殺す。」
アイはいつものように眠そうで何を考えているかわからない表情だがその瞳の奥にははっきりとした怒りが見て取れた。
「まあまあ、いいじゃん少年、ここじゃなかったらいいんでしょ?」
マーニはシバの肩に手を置き言った。なぜか焦りは見られない、それどころかどこか余裕そうにしている。
するとマーニの全身がほんのり紫色の光に包まれた。胸の前で両手を向かわせやや丸めると両手の間に光点が現れその薄い紫色の光点は小さな立方体に変形した。
両手を徐々に広げるのに合わせて薄い紫色が付いた半透明の立方体は拡大していった。
拡大された立方体は宿屋にいるアイとエイミー、シバ、マーニ、ベルカ、フォニア、アデルフィーを包み込んだ。すると立方体の底に魔法陣が浮かび上がった。
「転移、」
マーニがそう言うと皆立方体ごと宿屋から消えた。
「、、ここは、?」
シバが目を開けるとそこは宿屋からはるか上空だった。立方体が空中に浮かんでいるのだ。
「わー、おうちが小さいの、」
「おもちゃみたいですね!」
立方体は薄い紫色だが透明なので底から透けて都市が見える。アデルフィーは都市がまるでおもちゃのようだと興奮している。
「ベルカ、フォニアちゃんたちだけど、、」
「分かってますよ。」
マーニに言われたベルカはフォニアとアデルフィーに優しく微笑んだ。だがただ単純に微笑んだのではなった。
ベルカの両目は赤く染まりうっすらと魔法陣が浮かび上がっている。それを見たフォニアとアデルフィーの両目もベルカと同じように赤く染まり魔法陣が浮かび上がった。
直後フォニアは急に全身の力が抜けたように倒れた。
「フォニア!?」
シバがフォニアに駆け寄ろうとした。しかしそれをマーニが止めた。
「大丈夫だよ、眠ってるだけだから。」
マーニが言うようにベルカは催眠魔法でフォニアとアデルフィーを眠らせようとしたのだ。
しかしアデルフィーはなかなか眠らない。何度もベルカは催眠魔法をかけるがアデルフィーの両目は赤く染まり魔法陣が浮かび上がるがすぐに消えてしまう。
「マ、マーニさん、、」
ベルカがマーニに判断を仰ぐ。
(あんなに幼いのにベルカの催眠魔法が効かないなんて、この子は謎が深まるばっかりだね、仕方ない、)
考えをまとめたマーニはアデルフィーの前に行くと何か紙を取り出した。
「アデルフィーちゃん、よーくこれを見ててね、」
そう言うとマーニは白黒のギザギザ模様の線が何重にも描かれた穴のような絵をアデルフィーに見せた。この絵を見ているとだんだんと穴の深いところに吸い込まれていく感覚になってくる。この絵の効果かアデルフィーは瞼が徐々に重くなっていきゆっくりと眠りに落ちた。
「魔法が効かないなら物理的にねー」
空中の魔法陣の中にその絵をしまいニヤッとシバに笑みを向けながら言った。
「よくそんなもの使おうと思いましたね、眠らせるなら硬貨の振り子がベタでしょ、」
「だってあれ効かないんだもん、じゃ、ベルカはその子たちをよろしくね、」
「はい、分かりました。」
ベルカはフォニアとアデルフィーを抱きかかえて立方体の隅に移動した。




