第43話
パチパチパチパチ、
「素晴らしい!あなたの考えに感服しました!」
拍手をしながらディエフがやや大げさに言った。
「争いは争いしか生みません、争いということほど無駄なことはありませんから、」
次いでフォンが言った。人差し指を眼鏡の鼻あてに当て位置を正してさらに続けた。
「戦争になれば勝敗に限らず多くの損害が出ることは明らかです、仮に勝利したとしても復興にかかる費用は莫大なものになるでしょう。店は営業どころではなくなり、田畑は荒廃するでしょう。さらにクエストの依頼をするにもお金がなかったら出来ません、クエストがなければ冒険者もお金を得ることができません。こうした負の連鎖により生産性が失われてしまいます。」
「フォンの言う通りです。戦争で魔族に勝てばその先の平和は保証されます、しかしそのために今の生活ができなくなる者たちも存在します。彼らのための保険は間に合わないのが現状です。故にこうして地下で、、」
「ディエフさん、その話は、」
ディエフが何か言いかけた途中でフォンがその先を遮った。
「地下がどうしたんですか?」
エイミーが尋ねた。
「いえ何でもないです、、えっと、つまり私たちが言いたいのは戦争で人間と魔族が争うより共存していくことで生産性のある平和な世の中になるんです。」
ディエフは前半ややたじろいだが最終的にエイミーを納得させるに値することを言った。これに対してエイミーはやっと自分の考えが理解されたと目を輝かせている。
「あなた方のような考えの人間に出会えて本当にうれしいです、」
エイミーは感激しディエフとフォンの手を取ったが周りの者たちはどうだろうか。否、感激などするはずがないし、ましてや手など取るというような愚行はしない。アイに至っては聞く価値すらないと言うようにシバに体を預け睡魔と戦っている。シバの肩に頭が当たるたびにシバが肩で起こすが再びウトウトする。
だが、ここでマーニが感激の渦を断ち切るように話の腰を折った。
「一ついいかな、もし仮に人間と魔族が共存することになったら具体的にはお互いにどんな利益があったり生産性があったりするのかな?」
「はい、まず魔族には人間の指導のもとで土地開発や都市の整備、人手不足解消など様々な分野で担ってもらうことになるでしょう。」
「魔族は普通の魔法士よりも魔力はやや高いですし自己再生能力もあります。そんな彼らだからこそ大きな労働力となりうることでしょう。これによりお互いの利益と生産性は大きくなります。」
先に答えたのはディエフだった。ついで眼鏡に指を掛けながらフォンが言った。二人ともエイミーたちが魔族だとは知らず笑顔で人間と魔族の共存関係について話した。魔族はただの労働力として人間が指揮することが前提のようだ。言うなれば魔族は労働力にしかすぎず人間が雇う。平等など存在しない、あくまで人間が上で魔族が下、共存という土台に人間が立ち魔族を見下ろしているのだ。これにはさすがにエイミーも気が付いた。むしろマーニが気付かせるように誘導したと言ってもいいだろう。
「ま、待ってください、それでは魔族は単なる人間の労働力でしかないじゃないですか!?まるで奴隷みたいな扱いですよ!?」
エイミーは話が違うとでも言うように言葉を投げかける。
「はて?何か勘違いしているようですね。これは“奴隷”ではないですよ、歴とした“労働者”としての地位ですよ?」
しかし目の前の人間が魔族とは知らない二人はエイミーの投げかけた言葉の意図をくみ取らず包み隠さず受け答える。
「魔族が害悪の象徴と思われている今に比べ労働者としての認識に変わるんですよ、我々人間の生活に貢献している存在として見られるようになるんですよ、人間から疎まれる生活から感謝される生活になるんです。」
エイミーに有無を言わせずにディエフに続いてフォンが締めくくった。彼らの頭には共存など存在しない。共存という皮を剥いだら結局は人間による魔族の統治だ。エイミーにもわかるくらいだ。
エイミーは何も言えなかった。どこに共存があるのか、自分の思考回路をどう稼働させてもそこに魔族と人間の幸せは描くことはできない。彼らは魔族の特別区を設け生活の場、食事、そして働きに応じた報酬も与えられると言う。これは正規の労働者と何ら変わらない。衣食住として成り立っている。しかし実際はどうだろうか。魔族を隔離し管理しやすくするだけなのではないか。はたまた不当な労働を強いるのかもしれない。どんなに考えても魔族にとって悪いことしか浮かばない。人間にとっての利益しか考えられない。
「、、、フッ、これが現実。」
エイミーが蒼白した様子でいるのを見たアイはエイミーを一瞥し席を立った。対談の席にいただけでもありがたいと思いなさい、彼女の背中がそう語っているようだ。アイもエイミーと同様に同胞を失っている。不当に行われた人間の身勝手な行動、挙句の果てに魔族の強襲とでっち上げられ皆殺された。アイもエイミーも似た境遇なのだ。だからこそアイはエイミーの考えには賛成できないしエイミーも自分の意見を貫き通したいのだ。
一方マーニの表情からは何を考えているのかわからない。ベルカはと言うとめちゃくちゃ癒されたような表情で二人の幼女と戯れている。
(ベルカさんフォニア達に甘くないですか、、)
シバがそんなベルカに目を向けているとシバの視線に気が付いたベルカは瞬時にいつもの笑顔に戻った。シバはベルカからの笑顔の圧力で見なかったことにすることにした、いやさせられた。
「あ、それとマーニさん、話し合いとは関係ないことだが、」
ディエフがマーニに話しかけた。
「先日この都市に通じる森を警備していた魔法兵の一団が何者かに襲われ全滅したらしいんだ。念話が送られてきた。それを受け冒険者たちに調査のクエストを依頼したんだが全て帰ってこなかった。」
「それで、相手は何者なの?」
マーニは名の知れた人間の冒険者としての顔も持っている。ギルド支部局長としての直々の依頼のようだ。
「詳しくは何ともわからない、ただ唯一言えるのは相手が相当の魔族と言うことだ。全滅した魔法兵を発見した者が言うにはあれほど残忍な殺し方をする魔族がいるなんて考えたくもないそうだ。」
「残忍な殺し方ね、、」
(それだけで魔族の犯行って決めつけちゃうのね、)
「心当たりでもあるんですか?」
フォンが尋ねた。
「いや、気になっただけだよ、」
「とにかく、何かわかったら教えてくれ、事の次第によっては討伐ギルドのメンバー募るつもりだ。」
「わかったよ、」
「ところで、君、冒険者として何かクエストなんかはやっているのか?」
ディエフがシバに話を振った。何かに気が付いたのかシバを獲物を狩る獣のような目つきで疑い深く見つめていた。シバが魔族であることにでも気づいたのだろうか。この男もだてにギルド支部局長をしていない、気づかれてもおかしくはない。シバに緊張が走った。




