第32話
「くそ!あの女!間一髪で避けたが、邪魔しやがって!魔族の分際で!」
あと少しでシバを殺せたところをマーニに邪魔されレオポルドは毒づいていた。亜人の子供をもっといたぶって殺したかったのにあっさりと殺してしまった後に残る満たされない感覚、自分を尾行している人間を返り討ちにして欲求を満たそうとしたのに魔族の女による邪魔、“殺す”という行為によって満たされてきた彼の欲求は満たされずにいた。普段の落ち着いた様子とはかけ離れている。むしろ今の彼の様子が本来のレオポルド・スラベという男で、あの妙に落ち着いた態度は本来の自分を隠すために演じていたにすぎなかったのかもしれない。
月夜が照らす真夜中に突如レオポルドの前方に黒いサークルが出現しレオポルドの行く手を阻む。月夜に照らされそのサークルを周りの風景に同化することなくはっきりとレオポルドは視覚することができた。あるいはそ突如自分の前に出現した異様な魔力を感じ嫌な記憶がよみがえるからか、自分に殺されるはずだった少年が頭をよぎる。
「おいおい、ずいぶんキャラ変わってないか?お前、」
そのサークル、つまり“ゲート”から発せられた声でレオポルドは確信した。レオポルドに向かい合う形で現れたゲートは地面と平行になるように倒れるとゆっくりと上昇していく。そのゲートの上昇に合わせ足先から腰、胸、と声の主の姿が露になる。
「、、貴様、ガキの分際で私の前に立つなど生きて帰れると思うなよ、丁度いい、今日は私の欲がうまく満たされていないんだ、貴様を殺す、」
「俺は最初からお前を殺すつもりだったけどな、」
先に動いたのはレオポルドであった。剣を出さずに両手に魔法陣を展開し眩い黄色い光の魔弾を放出した。間髪入れずに次々と魔弾を放つ。
シバが放たれた魔弾を避けることはなかった。避ける仕草も見せないシバに力任せにさらに魔弾を放つ。煙が立ち込め肩で息をしながらレオポルドは攻撃を止めた。
さすがにここまでやれば無傷では済まないだろうというくらい魔弾を打ち込み避けなかったことを後悔していると思ったレオポルドに焦りはあるものの少しばかりは余裕が見えた。
だがあくまでレオポルド自身が勝手に感じたに過ぎなかった。
煙の中からシバが飛び出し一気にレオポルドとの距離を縮めた。一瞬で懐に入り拳を下から抉るように腹部に突き上げる。
「がはっ!」
身体強化により突き上げられた拳は小さなモーションにも関わらず内臓まで衝撃が届くほど力強かった。
レオポルドは防壁を出すことすらできなかった。戦闘中ではあるがほぼ反射的に腹部を抑えた。真っ直ぐに姿勢が維持できない。視界も揺れ意識が少し朦朧とする。
そんなレオポルドに容赦なくシバは攻撃する。前かがみになっていたレオポルドの顎下を真上に勢いよく蹴り上げた。
勢いのままレオポルドの体は吹き飛ぶ。シバもやや斜め後ろに上昇しレオポルドを追い越した。
最高点に達すると両足を畳み右足を突き出しレオポルドめがけ急降下する。蹴り足からは火焔が迸り紅蓮の炎を纏ったシバの体は槍のごとくレオポルドに突き刺ささった。
「ぐふっ!」
そのまま下降し地面に踏みつける形になった。
ズドーンッ!!
勢いと衝撃で辺りは吹き飛び地面はくぼみクレーターが形成された。レオポルドに抵抗する余地はなかった。
シバは再び上昇し弓を構えるような姿勢で地面にうずくまるレオポルドに手を向け魔法陣を展開した。黒い粒子が集まり赤黒い魔弾が手元でうごめくように生成される。
魔法陣は一つではなかった。五つの魔法陣が同じ間隔でレオポルドに向かって連なっているのだ。
だが、レオポルドの目はまだ死んではいない。あれほどの攻撃を受けてもまだ立ち上がっていた。空中に魔法陣を展開し剣を抜きだした。そして自ら懐刀で親指を自傷した。
「!?、何だ?」
レオポルドの行動に疑問を抱くシバ。
レオポルドは滴る血液を擦り付けるようにし剣身をなぞった。剣身を軸に螺旋状に剣先に向かって赤く細いオーラが絡みついた。
するとレオポルドの剣は赤く閃光し巨大なオーラの剣となった。
「かの者を打ち滅ぼせ!シフォス・ミ・フロガ!!」
炎の大剣を振りかざすレオポルド。
「ふん、」
赤黒く渦巻く魔弾を放つシバ。魔弾は連なる魔法陣を通過する。
「その程度でこの剣がやられるわけないだろうがっ!」
勝ち誇ったように叫ぶレオポルド。
「フッ、」
不敵に笑うシバ。五つの魔法陣を通過した魔弾の先に突如通常では考えられないほどの巨大な魔法陣が出現した。赤黒い光の玉はその魔法陣を通過した。
「なっ!?」
魔弾が一気に巨大化したのだ。突如現れた巨大な魔法陣だけでなく巨大化した魔弾が迫ってくる。
赤黒く渦巻く魔弾はまるで隕石を彷彿とさせた。
「、、死ね、」
シバが呟いた。不気味にうごめく赤黒い光の玉と燃え盛る劫火の大剣が衝突した。
「ぐぬぬぬぬ、」
二つの力は拮抗していたがややレオポルドには焦りの色が見える。
「はああああああああ!」
叫ぶレオポルド、同調するように大剣は激しく燃え盛り魔弾を押し返す。だがシバも負けじと力を込め押し返す。
一歩も引かぬ攻防の均衡が崩れた。
シバの全身にうっすらと黒い光が浮かぶとシバは力を開放するように力み禍々しい黒いオーラを纏った。
シバの魔弾はさらに激しく渦巻き所々で黒い稲妻が放出されている。
先程までと重みが全く違う巨大な魔弾にじりじりと押されるレオポルドと炎の大剣。
ボキボキボキッー!
レオポルドの体の節々が悲鳴を上げる。
―ピキッ、パリッ、
炎の大剣にひびが入り始めてからは完全にシバが優勢だった。赤黒い巨大な魔弾が容赦なく迫る。
―ピキッ、バリッ、バリンッ!!
炎の大剣が折れた。勢いを増しレオポルドに迫りくる巨大な魔弾。
「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“!」
レオポルドの体は巨大な魔弾に押しつぶされるように飲み込まれた。地面と衝突し大爆発が起きた。
ドゴーーン!!
シバは地上に降りレオポルドを探した。だが、レオポルドは見る影もなく辺り一帯に広がっていた森は跡形もなくなっていた。また所どころで黒い火が揺れていてとてつもない力のぶつかり合いであったことを物語っているようである。
しかし、何も残っていないはずのその場所でシバは背後から何かに拘束された。
「油断したな、バカめ、」
背後からは死んだはずのレオポルドの下卑た声が聞こえた。シバが視線を向けるとそこにはあられもない肉片が空中に浮いていた。




