第31話
「幻影魔法ですか?それは相手に幻影を見せるっていう魔法ですよね、多分使えますね。」
「なら、あの少年が死んだようにレオポルドに幻影を見せればあいつもきっと帰るはずだよ。シバが幻影魔法、私は他の亜人に念話で事の次第を伝えるから。」
「了解しました、なんか、マーニさんには敵いませんね。」
「そりゃ、お姉さん、だからね、」
マーニはウィンクし二人は行動に移った。
シバは頭の中でレオポルドに見せる幻影を思い描いた。磔にされた少年の全身に赤い鞭の痕がいくつも残り所々出血している。少年には申し訳ないと思いつつ少年の呼吸と心臓の拍動を止まるように描く。思い描いた幻影に隠蔽魔法を付与し不自然にならないように加工し少年が磔にされている丘に向けて放った。
「右ぃ!左ぃ!ハハッ!ハハハハハッ!ハハハ!ってあれ、動きませんねぇ、呼吸も停止、心臓も停止、どうやら殺してしまいましたぁ。エルゴドーティス君、どうしましょうかぁ。」
「やっぱり殺しちゃったんですね、前にもありましたよ。まあ、どうせ後で殺すことになりそうだったので問題ないでしょう、価値のないゴミでしたから。」
「エルゴドーティス君、ゴミに初めから価値なんてないですよぉ。今日は中々楽しめましたよぉ、皆さん彼のようになりたくなければ仕事にいそしんでくださいねぇ、うっかり殺してしまいますからぁ。」
「おら!仕事に戻れ!その利用価値のないゴミも処分しとけ!」
マーニの念話によりこの状況がわかっているのでそれなりに亜人たちは悟られないように行動した。それでもレオポルドの狂気性は恐ろしいものだったのだ。
レオポルドとエルゴドーティスが地下を後にするとシバとマーニは少年の介抱に向かった。シバの治癒魔法で手足を切り落とされた亜人たちの手当てもした。首輪で管理されているので手足を再生させることはできなかったが痛みや傷口をきれいに処置してあげた。少年の父親は何度も何度も頭を下げ感謝していた。マーニとベルカはよくこの地下に来ているらしく亜人たちとの関係は良好であった。
「だから、念話がちゃんと伝わったんですね。」
「まあね、私とベルカで冒険者として得た報酬と宿屋の売り上げを彼らに寄付しているんだよ、」
地下を後にしたレオポルドたちは中心地区で酒屋に入っていった。その酒屋は彼らの行きつけの店らしく店主とも酒を交わしエルゴドーティスが酔いつぶれたところでお開きとなった。レオポルドは店主にエルゴドーティスを任せ酒屋を出て行った。酒屋の入り口が見えるところで待機していたマーニとシバはレオポルドの気づかれないように後を追った。
レオポルドは静まりかえった都市を一人歩いていた。シバたちも一定の距離で尾行を続けた。するとレオポルドが店と店の間の細い路地を曲がった。シバは急いでその路地を曲がって後を追ったがレオポルドの姿は見えなくなっていた。だがすぐにレオポルドの気配を背中に感じた。
「先ほどから後をつけているようですがいったい何の用ですかぁ?」
レオポルドが陽気に話しかけるがその手には先のとがった針が握られておりシバのうなじに当てられている。ひんやりとした金属質の針がレオポルドの陽気な声とは裏腹に冷酷さを感じさせる。シバはそのまま両手を上げ答えた。
「モノクルとシルクハットが珍しく少し気になってね、」
当たり障りなくシバは答えた。
「、、真面目に答えないと殺しますよぉ、」
シバはうなじに当てられた針にグッと力が入るのを感じた。ごまかす必要もないなと思い正直に話す。
「、、お前の後をつけて殺しに来たって言ったらお前はどうするんだ?」
「面白いことを言いますねぇ、私を殺すんですか、それは無理ですよぉ、私は殺される側ではなく殺す側ですからぁ!」
そう言うとレオポルドはシバのうなじに当てていた針を突き刺そうとした。
だがそう簡単にシバに針が刺さるはずもなくシバは後方に宙返りしかわした。
レオポルドの頭を左手で押さえつけホールドし指先をピンと揃え鋭いナイフのような右手を首元に突きつける。バチッと電気を帯びている。
「形勢逆転、だな、」
レオポルドの耳元でつぶやく。
「そのようですねぇ、しかし私を殺してしまったらあの亜人たちも一緒に死んでしまいますよ?私が売りつけた商品ですからぁ、」
自分は殺されないという自信か亜人を人質にすることを最初から考えていたのかもしくはその両方なのかずいぶんと余裕な様子でレオポルドは答えた。
「いや、それは考えにくいと思うよ、」
遅れてやって来たマーニが言った。シバの後ろからやって来たマーニはレオポルドの正面まで行くと続けて言った。
「確かにあんたは奴隷商だけど顧客に売りつけたら奴隷の所有権はあんたじゃなくその顧客に移るからエルゴドーティスが首輪の魔法陣を起動させない限り死ぬことはないわ。」
レオポルドの余裕だった表情は消え唇を噛んだ。その瞬間シバが動いた。
押さえつけている左手でレオポルドの頭をやや左に倒し右手で首をかき切る。
しかし、その右手がレオポルドに触れることはなく空を切った。
一瞬の隙を突きレオポルドは自身の頭を押さえつけているシバの腕を逆手で握り地面を蹴り下肢を持ち上げ後方に回転したのだ。その勢いのまま身体強化で鋼のごとく硬質化された膝がシバの背中に炸裂した。
「ゴハッ!」
シバはその衝撃で地面に膝をついた。
「形成逆転、ですねぇ、」
「、、チッ!」
レオポルドは空間に展開した魔法陣から例の剣を取り出しその剣先を立ち上がれないでいるシバに向けた。
剣身を先端に向かって魔法陣が通過する。すると剣身が赤い光を纏い徐々に先端に集中していく。凝縮された光点は剣先で大きくなり魔弾となる。
「だから言ったでしょう?私は殺す側の人間であるとぉ!」
自身の攻撃に対して目の前の男が何も抵抗できないでいると感じたレオポルドはニヤリと笑い剣先に溜めた燃え盛る炎のごとき魔弾を放出した。
燃え盛る魔弾はシバに直撃しシバは爆発音とともに後方に吹き飛ばされた。しかし、爆発音は一つだけではなかった。
「落ちろ、」
マーニがレオポルドの攻撃と同時に言った。
「「ドゴーーン!!」」
それまでは見えていなかったレオポルドの頭上に魔法陣が出現し竜をかたどった稲妻がその牙をむき出しレオポルドを飲み込んだ。まさにレオポルドに雷竜が落ちたのだ。レオポルドの攻撃よりも衝撃は大きくかった。
黒煙が立ち上りよろよろよと立ち上がるレオポルド。吹き飛ばされたシバの側へ駆け寄るマーニ。三人の間に沈黙が続いた。沈黙を破ったのは夜間見回りをしていた魔法兵たちだった。爆発音を聞き飛んできたのだ。
「いったい何があったんだ!」
黒煙の中で姿が見えないレオポルドはこの隙にその場を離れるために傷を抑えながらも跳躍し物凄いスピードで逃亡を図った。
「シバ、大丈夫?」
「、はい、油断しました、とっさに身体強化しましたがたぶん折れてます、自己再生と治癒魔法してる時に魔弾を食らったので完璧に防御できませんでした。」
「怪我の方はどうなの?」
「あとは自己再生ですぐ治ると思います。僕は奴を追うんで後のことは任せますね。」
そう言うと一瞬でシバはマーニの前から姿を消した。ゲートで転移したのだ。
「ちょ、私にこれ全部説明させる気なの、、」
壁は崩れ瓦礫の山、地面は抉れて焦げてしまっている。辺りを見渡し魔法兵隊がやってくるの横目にレオポルドの飛んで行った方に目を向けた。
「しょうがないわね、お姉さんが後はやってあげるわよ、お礼はたっぷりしてもらうけどね~」
ニヤッと笑いマーニは魔法兵たちに事の次第を若干変えて説明した。もちろんシバのことは話さないし地下でのことも話せない。無難に通り魔にあったが返り討ちにしたと説明した。
(どうせ亜人たちのこと言ってもレオポルドとギルド支部局長とつながってるだろうからこの兵士たちに言っても意味ないからね、それよりシバ大丈夫かしら、)




