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勇者X  作者: 厚揚げどーふ
一章 旅立ち編
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5話 少年

王都から少し離れた街道。アリベルは、息を切らしながら走っていた。


「はぁ……はぁ……。もう、追ってきてないかな……」


背後を振り返る。騎士の姿は見えない。ひとまず逃げ切れたらしい。しかし、安心したのも束の間だった。

遠くから、王都の方角を指して騒ぐ人々の声が聞こえてきた。


「刑務所で大事件が起きたらしいぞ!」

「大量脱走だって!? いったい何があったんだ!」

「王都から出るなら今のうちだ! 巻き込まれたくない!」


どうやら、あの刑務所の騒ぎは外にまで広がっているらしい。


「ぼ、僕のせい……なのかな……」


もちろん、わざとやったわけではない。それでも、自分が牢屋を壊した直後に起きた出来事だ。アリベルは胸元の小石を服の上から握った。


「……今は、とにかく遠くへ行こう」


ちょうどそのとき、王都の外へ向かう馬車が通りかかった。荷台には、大きな荷物がいくつも積まれている。


「……あれなら、遠くまで行けるかも!」


周囲を気にしながら、アリベルはこっそり荷台へ飛び乗った。荷物の陰に身を隠す。やがて馬車は動き出し、王都の門を抜けていった。


「……よかった」


ようやく、王都から離れられた。どこへ向かうのかも分からない。それでも、今はそれでよかった。


――――――――――――――――――――――――



しばらくして、馬車は一つの村へと到着した。


御者「よし、着いたぞ!」


アリベルは荷物の隙間から、そっと外をのぞいた。


「……ここ、どこだろう?」


見渡す限り、王都とは違うのどかな景色が広がっていた。小さな商店。行き交う人々。村の広場で遊ぶ子供たち。どうやら、知らない村に着いたらしい。


「……降りるしかないよね」


こっそりと荷台から降りたアリベルは、村の中を歩き始めた。けれど、行く当てなどない。


お金もない。知り合いもいない。


「……これから、どうしよう……」


立ち止まって考え込んでいると――。


???「おーい!」


突然、明るい声が響いた。


「えっ?」


振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。


少年「見ない顔だな!旅人か?迷ってるのか?」


一方的にまくし立てられ、アリベルは少し動揺する。


「えっと……まあ、そんな感じ……かな?」


少年「へえ! どこから来たんだ?」


「……っ」


少年「ん? どうした?」


アリベルは言葉に詰まった。まさか、刑務所から逃げてきたなどと言えるはずもない。


「……ちょっと、遠いところから」


少年「そっか!」


少年は、あっさりとうなずいた。


少年「俺はアレフ! よろしくな!」


「……アリベルです」


アレフ「アリベルか! いい名前だな!」


「そ、そうかな……?」


アレフ「それで、今日はどこに泊まるんだ?」


「…………」


アレフ「……もしかして、決まってない?」


アリベルは小さくうなずいた。


アレフ「お金もない?」


アリベルは大きくうなずいた。


アレフ「だったら、うちに来いよ!」


「えっ!? い、いいの?」


アレフ「もちろん! 困ってるやつを放っておけないだろ!」


あまりにも迷いのない返事だった。アリベルは、少しだけ戸惑った。森の外へ出てから、ずっと不安なことばかりだった。けれど、この少年は初対面の自分を疑うこともなく、笑顔で手を差し伸べてくれている。


「……ありがとう」


アレフ「よし! じゃあ行こうぜ!」


――――――――――――――――――――――――


アレフの家は、この村、アース村の外れにある小さな家だった。


アレフ「ただいまー!」


……返事はない。


アレフ「ん? ああ、そうだった」


「……?」


アレフ「うちの親、泊まり込みの仕事でしばらく帰ってこないんだ!」


「そ、そうなんだ……」


アレフ「だから気にすんな! 今日はゆっくりしていけよ!」


アリベルは家の中を見回した。きちんと片付けられた部屋。生活に必要な道具。二人分の食器。


アレフは慣れた様子で食事の準備を始めた。


「……いつも、一人で暮らしてるの?」


アレフ「まあな! もう慣れたもんだ!」


「すごいね……」


アレフ「そうか? 飯を作るのは得意だぜ!」


そう言って、アレフは得意げに胸を張った。


……なお、料理の味については、アリベルは少しだけ言葉を選ぶことになりはしたが。それでも、誰かと食卓を囲む時間は久しぶりだった。


「……おいしいよ」


アレフ「だろ!? もっと食えよ!」


アリベルは小さく笑った。


その夜、アリベルはアレフの家で一晩を過ごした。


久しぶりに、安心して眠れる夜だった。


――――――――――――――――――――――――


翌朝。


アレフ「よーし! 今日は村を案内してやる!」


「村を?」


アレフ「そう! まずはギルドだ! それから宿屋! あと、うまい飯屋も教えてやる!」


「ギルドって……何をするところなの?」


アレフ「えっ、知らないのか!?」


「う、うん……」


アレフ「よし! なら俺に任せろ!」


アレフは勢いよく玄関の扉を開け、宣言した


アレフ「この世界のことなら、俺が教えてやる!」


アリベルは、その背中を見つめた。まだ出会ったばかりなのに、不思議と安心できる。


「……うん。よろしく、アレフ!」


こうしてアリベルは、アレフとともに新しい一日を歩き始めた。


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