5話 少年
王都から少し離れた街道。アリベルは、息を切らしながら走っていた。
「はぁ……はぁ……。もう、追ってきてないかな……」
背後を振り返る。騎士の姿は見えない。ひとまず逃げ切れたらしい。しかし、安心したのも束の間だった。
遠くから、王都の方角を指して騒ぐ人々の声が聞こえてきた。
「刑務所で大事件が起きたらしいぞ!」
「大量脱走だって!? いったい何があったんだ!」
「王都から出るなら今のうちだ! 巻き込まれたくない!」
どうやら、あの刑務所の騒ぎは外にまで広がっているらしい。
「ぼ、僕のせい……なのかな……」
もちろん、わざとやったわけではない。それでも、自分が牢屋を壊した直後に起きた出来事だ。アリベルは胸元の小石を服の上から握った。
「……今は、とにかく遠くへ行こう」
ちょうどそのとき、王都の外へ向かう馬車が通りかかった。荷台には、大きな荷物がいくつも積まれている。
「……あれなら、遠くまで行けるかも!」
周囲を気にしながら、アリベルはこっそり荷台へ飛び乗った。荷物の陰に身を隠す。やがて馬車は動き出し、王都の門を抜けていった。
「……よかった」
ようやく、王都から離れられた。どこへ向かうのかも分からない。それでも、今はそれでよかった。
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しばらくして、馬車は一つの村へと到着した。
御者「よし、着いたぞ!」
アリベルは荷物の隙間から、そっと外をのぞいた。
「……ここ、どこだろう?」
見渡す限り、王都とは違うのどかな景色が広がっていた。小さな商店。行き交う人々。村の広場で遊ぶ子供たち。どうやら、知らない村に着いたらしい。
「……降りるしかないよね」
こっそりと荷台から降りたアリベルは、村の中を歩き始めた。けれど、行く当てなどない。
お金もない。知り合いもいない。
「……これから、どうしよう……」
立ち止まって考え込んでいると――。
???「おーい!」
突然、明るい声が響いた。
「えっ?」
振り返ると、そこには一人の少年が立っていた。
少年「見ない顔だな!旅人か?迷ってるのか?」
一方的にまくし立てられ、アリベルは少し動揺する。
「えっと……まあ、そんな感じ……かな?」
少年「へえ! どこから来たんだ?」
「……っ」
少年「ん? どうした?」
アリベルは言葉に詰まった。まさか、刑務所から逃げてきたなどと言えるはずもない。
「……ちょっと、遠いところから」
少年「そっか!」
少年は、あっさりとうなずいた。
少年「俺はアレフ! よろしくな!」
「……アリベルです」
アレフ「アリベルか! いい名前だな!」
「そ、そうかな……?」
アレフ「それで、今日はどこに泊まるんだ?」
「…………」
アレフ「……もしかして、決まってない?」
アリベルは小さくうなずいた。
アレフ「お金もない?」
アリベルは大きくうなずいた。
アレフ「だったら、うちに来いよ!」
「えっ!? い、いいの?」
アレフ「もちろん! 困ってるやつを放っておけないだろ!」
あまりにも迷いのない返事だった。アリベルは、少しだけ戸惑った。森の外へ出てから、ずっと不安なことばかりだった。けれど、この少年は初対面の自分を疑うこともなく、笑顔で手を差し伸べてくれている。
「……ありがとう」
アレフ「よし! じゃあ行こうぜ!」
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アレフの家は、この村、アース村の外れにある小さな家だった。
アレフ「ただいまー!」
……返事はない。
アレフ「ん? ああ、そうだった」
「……?」
アレフ「うちの親、泊まり込みの仕事でしばらく帰ってこないんだ!」
「そ、そうなんだ……」
アレフ「だから気にすんな! 今日はゆっくりしていけよ!」
アリベルは家の中を見回した。きちんと片付けられた部屋。生活に必要な道具。二人分の食器。
アレフは慣れた様子で食事の準備を始めた。
「……いつも、一人で暮らしてるの?」
アレフ「まあな! もう慣れたもんだ!」
「すごいね……」
アレフ「そうか? 飯を作るのは得意だぜ!」
そう言って、アレフは得意げに胸を張った。
……なお、料理の味については、アリベルは少しだけ言葉を選ぶことになりはしたが。それでも、誰かと食卓を囲む時間は久しぶりだった。
「……おいしいよ」
アレフ「だろ!? もっと食えよ!」
アリベルは小さく笑った。
その夜、アリベルはアレフの家で一晩を過ごした。
久しぶりに、安心して眠れる夜だった。
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翌朝。
アレフ「よーし! 今日は村を案内してやる!」
「村を?」
アレフ「そう! まずはギルドだ! それから宿屋! あと、うまい飯屋も教えてやる!」
「ギルドって……何をするところなの?」
アレフ「えっ、知らないのか!?」
「う、うん……」
アレフ「よし! なら俺に任せろ!」
アレフは勢いよく玄関の扉を開け、宣言した
アレフ「この世界のことなら、俺が教えてやる!」
アリベルは、その背中を見つめた。まだ出会ったばかりなのに、不思議と安心できる。
「……うん。よろしく、アレフ!」
こうしてアリベルは、アレフとともに新しい一日を歩き始めた。




