3話 犯人
魔族の身体が崩れ落ちた。しかしさっきまで命の危険に晒されていたアリベルは剣を握ったまま、しばらくその場から動けなかった。
「はぁ……よかった……」
少し時間が経ち、ようやく助かったのだと実感し、アリベルは安堵の息を吐いた。
しかし、すぐに別の疑問が浮かぶ。
「……そういえば、さっきの攻撃……」
魔族の顔を撃ち抜いた、あの一撃。アリベルにとっては命の恩人であるその正体を、アリベルはまだ知らない
「誰が撃ったんだろう……?」
アリベルは森の方へ視線を向けた。木々が生い茂り、奥はよく見えない。あそこに、誰かがいるのだろうか。助けてくれたのなら、お礼を言いたい。けれど、正体も分からない相手に近づくのは怖かった。
アリベルが警戒しながら森を見つめていると――。
???「……」
「っ!?」
突然、背後をトントン、と叩かれ、反射的に振り返ると、そこには一人の男が立っていた。
黒い髪。無口そうな顔。こちらをじっと見つめる、謎めいた男だった。
「い、いつからそこに……!?」
男は答えなかった。ただ、アリベルの胸元へ視線を落とす。そして、首から下げた水色の小石を指差した。
「……え? これ?」
男は小さくうなずいた。まるで、それを渡せと言っているかのようだった。
「えっと……これは、大切な人からもらったものなので……」
男は黙ったまま、手を伸ばした。
「ちょ、ちょっと待ってください! 勝手に取らないで……!」
男の指先が、小石に触れようとする。アリベルはとっさに胸元を押さえた。
その瞬間――。
騎士「いたぞ! こっちだ!」
遠くから、複数の足音と声が響いた。
「村の生存者を探せ!」
「えっ、人……?」
助けが来たのだろうか。アリベルが声の方へ気を取られ、再び男へ視線を戻したとき。そこには、誰もいなかった。
「……あれ?」
男の姿は、跡形もなく消えていた。
「ど、どこに……?」
まるで最初から、そこには誰もいなかったかのように。
やがて、武装した騎士たちが村の中心へと駆け込んできた。
「おい! そこの少年!」
「は、はい!」
騎士たちは、荒れ果てた村を見回した。そして、剣を手にしたアリベルへと視線を向ける。
「……これは、お前がやったのか?」
「えっ?」
「答えろ! この村を壊滅させたのはお前なのか!?」
「ち、違います! 僕はここに来たときには、もう……!」
「では、その剣は何だ? なぜこんな場所に一人でいる?」
「それは……魔族がいて、僕を襲ってきたから……!」
騎士たちは互いに顔を見合わせた。だが、村を壊滅させた魔族の姿はどこにもない。魔族は倒されると、その身体ごと消滅する。そこに残されていたのは、荒れ果てた村と、剣を持った少年だけだった。
「……ひとまず、こちらへ来てもらおう」
「えっ!? で、でも、僕は本当に……!」
「詳しい話は詰所で聞く。抵抗するな」
「そんな……!」
アリベルは困惑したまま、騎士たちに囲まれた。初めて外の世界へ出てきたばかりなのに。村を救うどころか、自分が村を壊した犯人だと疑われてしまったのだ。
「……母様……アクア……」
呟きは、誰にも届かなかった。
こうしてアリベルは、事情も分からぬまま、騎士たちに連行されることとなった。
その後、アリベルは詰所に連れて行かれた。そこでもやっていない、と証言したが疑いは晴れない。話を聞くというのはあくまで形式上なのだ。アリベルが犯人という確信は変わらないのだろう。そうして、アリベルの刑務所送りが決まった。
長い道のりだった。詰所でしばらく待っていると、詰所の外に馬車、それも鉄製の。アリベルは縄で手を縛られ、荷物も没収され、そこに入れられた。長い道のりを経て、見慣れない、大きなところにやってきた。
そこはこの世界に存在する王国、フォラリス王国だった。そんなフォラリス王国の中、城壁の近くに位置するアズライト刑務所にアリベルはいた。何階層にも、なる刑務所。アリベルはその一つに閉じ込められたのだ。
アリベル、中々に不憫属性です




