32話 国庫
やっと改稿終わりました…
ガルガドス内部、城塞の中心にそびえる城。その一室には、ガルガドスの指導者たちが集まっていた。
フォラリスの国庫から得られた情報をもとに、今後の方針を決めるための会議である。
机の上には、防衛設備の構造や軍事情報をまとめた資料が並んでいた。どれもガルガドスの今後を左右しかねない重要な情報だ。指導者たちはそれらを一つずつ確認し、意見を交わしていた。
しかし、今日の本題はそれではない。
「……ロスト、か」
一人の男が、その名を口にした。
その瞬間、室内の空気が変わった。
ロスト。三大魔獣の一つに数えられる、災厄そのものと呼ぶべき存在だ。
無限に増殖する能力。そして、ロストが見た者を森から出られなくする幻術。単純に力で押し切れる相手ではない。仮に一体を倒したところで、増殖によって数が増え続ければ、討伐そのものが意味を失いかねない。
そんな魔獣を、かつてフォラリスの英雄は倒したとされていた。
「フォラリスの英雄が討伐した。歴史には、そう記されているはずだが……」
「実際には、倒せていなかったのだろう」
別の男が、机の上に置かれた資料を指で叩いた。
「今回、国庫の情報から判明した。ロストは討伐されてなどいなかった。結界の中に閉じ込められていただけだったのだ」
指導者たちの視線が、一斉に資料へと集まる。
ロストが閉じ込められているのは、森そのものではない。大陸の中央に位置する、広大な森。その内部に、外からも内からも見えない結界が存在しているのだ。
森に足を踏み入れただけで、必ずしも結界の中へ入るわけではない。森の中に結界があり、その内側にロストが存在している。外からは結界の姿を確認できず、内側からも境界を認識できない。
それは、ロストを完全に倒すことができなかった者たちが、被害を食い止めるために選んだ手段だった。
「ロストの能力を考えれば、妥当な判断ではあるか……」
年配の指導者が、深く息を吐いた。
「無限に増殖する相手を根絶することは難しい。幻術によって森から出られなくなる危険まである。そんな魔獣を討伐できなかったからといって、何もせずに帰るわけにもいかなかったのだろう」
「だが、討伐できなかったと公表すれば、どうなる?」
別の指導者が問いかけた。
「英雄の名声は傷つき、フォラリスは危険な魔獣を処理できなかった国として見られる。周辺諸国から侮られることにもなりかねん」
彼は腕を組み、険しい顔で続けた。
「だからこそ、倒したことにしたのだろうな」
誰も反論しなかった。
倒せなかったという事実を隠す。それによって英雄の名誉を守り、国の威信を保つ。フォラリスにとっては、そうするだけの理由があったのだろう。
だが、それで問題が解決したわけではない。
「……結界は、いつまで保つ?」
その問いに、誰もすぐには答えられなかった。
ロストは封印されていない。森の中に存在する、見えない結界。その内側に閉じ込められているだけだ。
しかも、無限に増殖する能力を持ち、見た者を森から出られなくする幻術まで使う。そんな存在を閉じ込め続けることが、どれほど危険なことなのか。ここにいる者たちには、想像するだけでも十分だった。
「保証など、あるはずがない」
やがて、誰かがそう答えた。
その言葉を最後に、会議室は静まり返った。
フォラリスは、ロストを倒せなかった事実を隠した。それによって国の威信は守られたのかもしれない。
しかし、ロストは今も森の中にいる。
結界の内側で、増殖し続けている可能性すらあるのだ。
「……この件は、決して外部に漏らすな」
会議を取り仕切っていた男が、静かに告げた。
「国庫の情報そのものを一般国民に公開しない方針は変えない。ロストの件も含め、扱いには細心の注意を払え」
指導者たちは、それぞれ無言でうなずいた。
英雄が倒したはずの魔獣は、倒されてなどいなかった。
そして、その秘密を知る者は、今この場にいる者たちだけではないのかもしれなかった。




