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勇者X  作者: 厚揚げどーふ
一章 旅立ち編
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8話 魔物か、それ以外か

ギルドへ戻ったアリベルとアレフは、討伐した魔物の死体を受付へと持ち込んだ。


「すみませーん! 依頼の魔物、サクッと倒してきました!」


アレフがいつも通り元気よく声をかける。重い戦利品をカウンターにドサリと置くと、乾いた音がギルド内に響いた。

受付の女性職員は二人を見て、手元の書類に目を落とした。


「お疲れさまです。それでは、討伐対象の確認を行いますので、そちらの解体台へお願いします」


アリベルたちは、持ち帰った魔物を職員の前に差し出した。

職員は慣れた手つきで麻袋を開け、確認の作業を始める。

しかし――。


「……あれ?」


職員のピンと伸びた指先が、ピタリと止まった。


「どうしたんですか?」


アレフが不思議そうに首をかしげて尋ねる。

職員は手元の依頼書と、目の前の死体を何度も交互に見比べた。その瞳に、かすかな困惑が走り始める。


「おかしいですね……。この魔物、依頼書に記載されている個体とは、明らかに特徴が違います」

「えっ?」


二人は顔を見合わせた。


「そんなはずないだろ? 依頼書にあった場所にいた魔物だぞ?」

「場所が同じでも、全く別の種類である可能性はあります。何より、皮膚の質感も、四肢の構造も、事前に寄せられていた目撃情報と一致していません」


職員は眉をひそめ、魔物の体を改めて調べ始めた。

確かに、依頼書に描かれた細密画と比べると、目の前の死体は外見が異なっている。体つきも違えば、放つ威圧感――推定される強さにも、一回り以上の差があるようだった。

アリベルが、おずおずとカウンター越しに覗き込む。


「でも、それが魔物なのは間違いないんですよね?」

「……ええ。見た目は、間違いなく魔物のそれです」


職員はそう答えたものの、どこか納得がいかない様子で魔物の傷口を見つめていた。

そして、確認のためにナイフを入れ、検体をさらに深く調べていくうちに――ある決定的な異常に気づいた。

ピン、と受付の空気が張り詰める。


「……核(コア)が、ありません」

「核?」


聞き慣れない単語に、アリベルが聞き返す。


「魔物の体内には、通常、その肉体を形作り、魔力の源となる『核』が存在します。種類によって形状や性質は異なりますが、これが魔物を見分けるうえでも最大の証明になるんです」


職員は、冷や汗の浮かんだ手で魔物の体内を慎重に探っていた。

だが、どれだけ指先を動かしても、硬い魔核の手応えは一切跳ね返ってこない。

その代わりに、そこにあったのは――。

職員の顔から、みるみる血の気が引いていく。


「……そんな、まさか。こんなことが……」

「おい、どうしたんだよ? 何があったんだ?」


アレフの焦るような問いかけにも、職員はすぐには答えられなかった。ガタガタと指先が震え、持っていた銀の器具が床に落ちて高い音を立てた。

目の前にあるのは、どう見ても悍(おぞ)ましい魔物の死体だ。

鋭い牙も、禍々しい爪も、漆黒の皮膚も。魔物以外の何者にも見えない。

それなのに。

魔物なら絶対に存在するはずの核が、どこにもない。

代わりに、そこを埋めていたのは――人間や野生動物と全く同じ、生々しい「内臓」だった。


「……これは、一体……何なのでしょうか……?」


職員は完全に言葉を失い、震える声で呟いた。

アリベルも、ただ静かに目の前の死体を見つめていた。

自分がさっき戦い、倒したものは、確かに凶暴な魔物だったはずだ。

けれど、その体の中には、自らが魔物であることを根本から否定するような、おぞましい真実が隠されていた。

魔物の姿をしているのに、魔物の常識が通用しない生命体。

活気にあふれていたはずのギルドの受付には、いつの間にか、肌を刺すような重い沈黙が流れていた。

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