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感情を不要と切り捨てた王子ですが、妻を愛してから様子がおかしいです  作者: ましろゆきな
第二章:氷が溶ける三つの瞬間 

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第五話:月夜の嫉妬

 マーガレットの看病が功を奏し、サイラスの体調は回復した。


 彼女の監視のもと、サイラスは職務も程々にし、夜はしっかり眠るようになった。


 マーガレットのようにはいかなかったが、少しづつ、船員たちともコミュニケーションを取るようになっていった。


 いままで不合理で無駄だと切り捨ててきたものの必要性を感じるようになっていた。


 東方皇国まで後少しとなったある静かな夜。満天の星空の下、サイラスは甲板に佇むマーガレットの姿を見つけた。


(こんな遅い時間に夜風に当たるなんて体に悪いだろう)


 私室にあった彼女のストールを手に彼女のもとに行こうとして足が止まる。


 闇に沈む水面を見つめていたマーガレットは、薬指の結婚指輪に愛おしそうに口付けるのが見えた。


 静かな彼女の横顔は、昼間の「強い女会長」ではなく、「恋する乙女」のように切なく、美しかった。


「こんな寒空にいたら、風邪を引くぞ」


 サイラスが一呼吸継いて近づき、その肩にストールを掛ける。


「あら、殿下。わざわざありがとうございます」


 彼女はどこかさみしげな表情でふわりと微笑んだ。


「……彼と会話していたのか」


「ええ。この海路は、夫と初めて貿易を成功させた思い出の場所なのです。……あの方なら、今の問題(トラブル)をどう解決するかしら、と相談していたのですわ」


 マーガレットは遠くに視線をやる。


 彼女の心は、今もまだ完全に亡き夫のものだ。


 こうやって触れられる距離にいるのに彼女の心は遠く手の届かない場所にあるようだった。


(何なんだ、この感情は? 非論理的だ。彼女は契約上の妻であり、心が誰にあろうと私の利益には関係ないはずだ)


 サイラスは、胸をえぐられるような強烈な不快感を覚えていた。


(なのに……なぜ私は、会ったこともない死人に、これほど敗北感を感じている?)


 この苦しい思いが何なのか。彼は自覚せざるを得なかった。


 マーガレットに自分が求めているのは、彼女の「商才」だけではないことを。


 彼女が今も亡き夫に向けているような全幅の「信頼」と「愛情」を自分に向けてほしいのだと。

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