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感情を不要と切り捨てた王子ですが、妻を愛してから様子がおかしいです  作者: ましろゆきな
第二章:氷が溶ける三つの瞬間 

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第三話:効率と「投資」の違い

 一ヶ月後、サイラスとマーガレットは東方皇国へ向かう商船の船上にいた。


 第三王子の結婚は盛大な式を行うこともなく、ただ必要最小限の書類手続きだけで静かに行われた。


 新婚であるはずのサイラスとマーガレットの間に甘い愛情の空気は微塵もなく、仕事仲間としての距離感を保っていた。


「東方皇国まで船で十日あまりほどかしら。王室御用達の船のように快適とは言えませんが、どうぞつつがなくお過ごしくださいね、旦那様」


「気遣い痛み入る」


 先日の黒いドレスから一転、機能的で動きやすいパンツ姿のマーガレットは甲板でてきぱき采配を行っていた。


(指示に淀みがなく、無駄がない)


 サイラスが執務室で初めて会った時に感じた印象は間違っていなかったようだった。彼女はガーネット商会の会長職を十全に行っている。


 船旅が始まって数日は問題なかったが、旅程の半ばにかかる頃、船内で大きな問題が生じた。


「マーガレット、何か問題でも起こったのか?」


「あら、殿下。お騒がせして、申し訳ありませんわ」


 船長室で話し合いをしているマーガレットに声を掛けると、いつものようににこやかな笑みが返ってきた。


「ちょっとしたトラブルです。食料の一部が傷んでしまっただけですの」


「管理不届きだ。担当した船員を下船させるか謹慎させるべきだ。それが規律を保つための最適解だろう」


 彼は冷徹に切り捨てる判断を提示した。失敗(ミス)をした人間に資源(リソース)を割くのは無駄だからだ。


「そこまで厳罰を与えることでもありませんわ」


 眉をひそめるサイラスに、マーガレットはにこやかに笑ってみせた。


 彼女は担当した船員を叱責した後、自分の食事を分け与えると、さらに配置転換をして機会(チャンス)を与えた。


 その選択が理解できないと表情に出ていたのか、船の私室に戻った後、マーガレットはサイラスにその理由を話す。


「殿下。人を切り捨てるのは簡単です。ですが、失敗した人間は、挽回しようとして誰よりも必死に働くものです。これは『温情』ではなく、将来の利益のための『投資』なのですよ」


 そして、その言葉通り、その船員は後の嵐の際、誰よりも必死に働き船を救った。


(彼女は甘いわけではない。私よりも長い時間軸で、人の可能性を計算しているということか……?)


 サイラスは、自分の中でこれまで信じてきた確固たる計算式が書き換わるのを感じた。


 笑みを絶やさず失敗すらも自身の商いの糧とする彼女の姿に、「有能なビジネスパートナー」以上の、「人を導く指導者としての敬意」が芽生えるのだった。

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