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【完結】感情を不要と切り捨てた王子ですが、妻を愛してから様子がおかしいです  作者: ましろゆきな
第四章:サファイアは、温もりを知って迷う 

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第十話:青き炎の覚醒

 崩落する回廊。迫る反乱軍と、背後の猛火。 「損切りのタイミングです」と微笑み、手を離したマーガレット。


  彼女は、サイラスを生かすために、かつての自分がそうされたように、自らを「不要な駒」として切り捨てようとした。


 その瞬間、サイラスの頭の中で、これまで信じてきた「最大多数の最大幸福(功利主義)」という教義が、音を立てて砕け散った。


「冗談じゃない!」


 彼女を失う? この私が? 百人を救うために一人を殺す? それが正義? ……違う。そんなものは、ただの計算式だ。


 今の私にとって、彼女という「1」は、世界の「全」よりも重い。


 サイラスは、走り出そうとした足を止め、猛然と振り返った。 そして、炎の中へ消えようとするマーガレットの腕を、乱暴に、痛いほど強く掴み寄せた。


「きゃっ……! 殿下!? 何を……!」


「それは、貴女の計算間違いだ!!」


 サイラスは叫んだ。いつもの冷静沈着な声ではない。喉が裂けそうなほどの、感情の咆哮だった。


「功利主義? 義務論? ……そんなもの、クソ食らえだ!!」


 彼は驚くマーガレットを抱きすくめると、全身の魔力を放出した。 彼の瞳のサファイアが、かつてないほどの激しい燐光を放ち始める。


「何かを得るために大事なものを捨てる? ……そんな無茶苦茶な計算が、成り立つはずがないだろう!!」


「サイラス殿下、でも、それでは貴方が……!」


「黙れ! 私は天才策士だぞ!? 今ここで貴女を見捨てて、未来永劫、死ぬまで後悔し続ける自分が想像できてしまったんだ!」


 サイラスは、彼女を抱いたまま、迫りくる反乱軍と瓦礫の山を睨みつけた。


「未来の私が後悔しない最適解は一つしかない! ……貴女も、国も、私の誇り(プライド)も! 何一つ捨てずに、全部持って帰る!!」


 ドオォォォン!!


 サイラスの身体から、濃紺の魔力が爆発的に膨れ上がった。


 それは障壁となり、攻撃魔法となり、二人を包み込む巨大な槍となって、塞がれた退路を粉砕した。


 論理の限界(リミッター)を外したサイラスは、もはや策士ではなかった。ただ、愛する女を守るために牙を剥く、一頭の獣だった。

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