04.変わらぬ日々
父上は言った。今までと変わったことがあったら言うようにと。
でも特段変わったことはない。あ、でも。
今日はいつも手助けしてくれるあいつが、ソーイに触れたんだった。でもあいつは言った。
「あっ、悪かった。狙ったわけじゃないんだ。気付いたら触れてしまっていたんだ。わざとじゃない。ほんとに、申し訳ない」
「そんなに謝らないで。わざとじゃないならいいよ、ね?トーイ」
ソーイの言葉に同意する。
自分だって、足を延ばしたらソーイが引っかかってすっころんだとか、頭をなでようと手を出したらタイミング悪く叩いてしまったとか、意図せずに相手に不快な思いをさせることがある。だから、そいつの今日のその行動もわざとじゃないなら、ただ触れてしまっただけなら許そうと思った。
だってあいつはいつだって、ソーイを大切にしているのがわかる。ソーイの嫌がることはしない。ソーイの意思を尊重する。
トーイのスタンスと一緒だったから心を許していた。トーイと同じだけあいつもソーイの傍にいたからわかるのだ。
あいつはきっと、敵ではない、と。
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黒い霧を初めて認識したとき幼いながらも僕たちは思った。これが父上の言っていたもやなんだと。
「ああ、あなたが父上たちのいう<もや>なんだね!」
「もやとは?」
「ぼくのほうぎょくをもっているんでしょ?」
「なんの話だ?」
要領を得ない黒い霧に僕たちは、父上と母上の出会いのお話を聞かせる。そして「あなたがもっているんだよね」と再び聞いた。
「いいや、私の手元には宝玉は届いていないな」
「じゃあ、どうしてわたしたちのところにきたのかしら?」
「光に導かれたようだ」
「ひかり?」
要領を得ないのは僕たちの方だった。
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竜瞳が消えてから幾日か過ぎた。だが、特段変わったことはなくていつも通りの日常を過ごしていた。
竜瞳の行方は相変わらずわからなかったけれど、それは悪意によるものではないと皆が信じているようだ。自分ともやが出会ったように、心が導き合うと信じて疑わない。
竜王は過去の自分に置き替えて、いつか来たるべき時に現れるだろうと考えてはいた。
「トーイ。今日は変わったことはなかったかい」
「はい、いつも通り……いえ、今日はデュモールサンがいらっしゃいました」
「何か?」
「いえ、普通にボードゲームをして過ごしました。なんでもたまたま、間違って?竜の国の転移魔法陣を使ってしまったそうで。折角来たのだから、私たちの顔を見てから戻ろうと。ですが、ユーキにそのまま引っ張り込まれ、私たちの相手をさせられてしまったのです」
「……なんで、魔法陣を間違うか、あいつは」
「ふふっ、不思議ですね、デュモールサンは」
デュモールサンはヘファイス国の人間だったが、今は、ミミルファで基本、過ごしている。基本、というのは、ミミルファに居を構えたが様々な国に放浪の旅に出るからだ。いわゆる「自分探しの旅」だそうで、だけど、本当に自分のルーツを探していた。デュモールサンの血を遡ると様々な国のものが混ざっているらしい。それ自体はヘファイス国では珍しくない。能力主義の国では魔力が少なくても、技さえあれば認められる。それによって、一花咲かせたいといろんな地から人々がやってきて、技を競い高め合っていた、もちろん夢破れる者もいる。
だが、デュモールサンは魔力があった。ヘファイスの中では、高魔力といっていい。そしていろんな血が混ざり合っていることで、魔力もまた混ざり合っていた。そのせいで、体内での魔力の循環が思うようにいかず、魔力を上手く使うことも出来ないまま成長した。へファイス国では、そういった事例に対処出来る人間はいないし、そもそもがデュモールサンの魔力の滞りに気付くものも居なかったのだ。
ある時ほんとにたまたま、偶然の出来事だった。
ヘファイス国に訪れていた魔導師様とデュモールサンが出会った。王城のメイテウス殿下の元に訪れていたデュモールサンの魔力の滞りに魔導師様が気づいたのだ。そしてあろうことか魔導師様がおっしゃったのだ。
「魔力の道を解放したかったら、卒業後ミミルファにいらっしゃい」と。
学院を卒業してデュモールサンはミミルファ国を訪れた。そしてそこで、魔力の流れる道の解放を知った。体内に循環するエネルギー。さらさらと流れる血液のように体中を駆け巡る。
デュモールサンはようやく自分の力が解き放たれることを知ったのだ。
「デュモールサンは、面白いですね。いろいろな魔力に溢れていて」
「住んでいる地域が違えば崇拝する神や精霊も違う。きっとそこから生まれる魔力も違ってくるんだろうな。だがこういう話は母さんの方が詳しい。父さんにはこういった話はさっぱりわからない。竜の国の力でさえよくわかっていないのだからな」
そう話す父さんの側から離れたフィーがトーイとソーイの周りを飛んでいる。
この頃は竜王のそばより双子の周りを飛んで遊んでいることが多い。竜王は執務が忙しくあまりかまってくれないからだ。
フィーと言う名前は竜王がつけた。
自分たちも精霊に名前をつけたいと言ったが母上に注意された。
「ミミルファの国では精霊に名を与えてはいけないことになっているの。精霊は尊い存在であり加護をもたらすものである。こちらから、名前をつけるなんて恐れ多いわ。それに名を与えると下手をすれば精霊にさらなる異質な力を与えてしまうことになりかねないわ」
だけど精霊の交流がなかった竜の国ではそんな理はない。もの珍しい精霊にしかも自分のことを好んでくれるものに竜王は気軽に愛称をつけた。よってフィーは物言わぬ精霊から話のできる精霊へと進化を遂げた。
「竜王は竜の国の理で生きているのだから仕方がないけれども、あなたたちはミミルファの理の中でも生きているのだから、精霊に名前をつけては駄目よ」
母は言った。
「ああ。僕もフィーみたいな精霊とお友達になりたかったな。父上はずるい」
「知ってたら名前はつけなかったさ」
「フィーは名前もらってうれしいよー。
だいじょーぶー、トーイもソーイもすきぃー」
ぽあぽあと空中を飛びまわるフィーはキラキラと光って輝いて消えた。




