02.ふたご
隣で眠る我が子を魔導師は愛おし気に見つめる。
ユーリと出会い、ユーリ以上に誰かに愛を感じることはないと信じて疑わなかったが、我が子はユーリへ向ける温かくも激しい愛情とは違う、胸がただぽかぽかとなる陽だまりのような愛情だと知った。
寝台の横に座るユーリがこれ以上ないといった柔らかな眼差しを向けてくれて、自分のやり遂げた感になんだか涙が溢れそうになった。それを見てユーリは優しく魔導師の頭をなでる。
「お疲れ様。もや。がんばったね」
「ユーリ……、私今、本当に幸せよ」
「ああ、俺もだよ。……だけど、双子だなんて、びっくりだな」
「ええ。おなかの中から感じる魔力が不思議な感じがしたけれど、妊娠なんて初めてのことだし自分の魔力とまじりあってるのかなぐらいにしか思ってなかったのよね。しかも……」
「ああ、こんなことってあるのだろうか」
生まれたばかりの双子は、すやすやと眠っている。
男児の手をみるとその小さな手が膨らんでいる。その様子は、ユーリの出生時と同じものだった。宝玉を二つ、手にして生まれてきたのだ。ユーリがそうだったようにその子の手の宝玉も赤子の手にかろうじて握られるかどうかの大きさ。この宝玉が成長とともに大きくなっていくのだろう。
ユーリの宝玉は生まれてすぐに城の最奥に大切にしまわれたのだが、ユーリともやはそのまま子に握らせたままにしておいた。膨れ上がらんばかりの魔力に臣下たちは恐れおののいたが、三百年に一度生まれるはずの竜王がすでに現世にいる。竜王は男児の魔力をあっさりと御してみせたので、男児は普通の子と変わらない只の赤ん坊として周りに受け止めてもらえた。
そしてもう一つ。
魔導師の脳内から<書>が流れ出ている。
それは蚕の吐く糸の様に細く絶え間ないものだったが、出産してからずっと止めどなく注がれている、女児に。
これがアドニスが体験したことなのねと、魔導師は一人感慨に耽った。
子どもたちの名はトーイとソーイ。兄のトーイ。妹のソーイ。
宝玉を持って生まれたトーイは竜の国、<書>が流れ込んでいるソーイは精霊の国と、誰もが次の二人の治世を疑うものはいなかった。
生命の輝きと共に溢れ出る魔力は澄んで煌いており、両親の手に抱かれた子どもたちは父や母の愛情に包まれ更なる相乗効果を生む。子どもたちの健やかな成長は二国の楽しみとなった。
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トーイが魔力を内に留める力を制御したのは五歳に成る前だった。
優れた両親の愛に包まれて育った双子は魔力を制御する術を日常の中で身に着けていき、傍から見ると魔力を持たない子と何ら変わらない。時折トーイが魔力の暴走を起こしかけたが、竜王や魔導士の迅速な対応で大事になるはずもなく、周りもそのことを十分にわかりすぎていたので慌てることもない。
いずれはそれぞれの国に立つものになるだろうけれど、自分たちが退くまでは普通の子どもたちのような体験を表向きだっていい、させてやりたい。それが普通の幼少期を過ごすことのできなかった両親のささやかな願いだった。
そうして二人は沢山の温もりに包まれながら大きくなっていったのだったが、十歳の柔らかな日差しが注ぐ日、その事件は起きた。
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その日もいつものように王城の裏の森でトーイとソーイは遊ぶ。護衛は、ユーキだ。彼も今や二児の父。子はいずれも男児で魔力も申し分なく竜の国の騎士にしたいと考えているが、一人は体力筋力というよりは知力といった感じで、母親のヘレネーは研究員にしようと画策しているようだ。
ユーキは父親となった今も相変わらずフットワークの軽さとノリの良さ、童心を忘れないところを買われ双子の筆頭護衛騎士だ。もちろん護衛としての資質は素晴らしいのだが、双子となんら遜色なく遊べるというのが選ばれた一番の理由だ。
「じゃあ、ユーキ。早く隠れてよ。俺達、精霊の力を借りずに探し出すから。魔力は隠してね。もちろん魔力を使って隠れるのはあり。その代わりユーキの魔力の五パーセントの力でお願い」
「いいっすよ。この間は見つかったけど今日はいろいろ対策練ってきてるから大丈夫っす。でも五パーでいいすか?俺、この間より器がでかくなってるから四パーでもいいっすけど」
「……!!大丈夫。あたしたちだって、成長してるんだから魔力調整くらいできるわよ!見てなさいよ」
周りで聞いていたほかの護衛達はいつもの三人の会話にもはや無感情を押し通す。
魔力を隠すって?
魔力の大きさを、器を大きくするって?
五パーを四パー?そもそもそんな調整って???
何も言うまい。我らの理解を超えたところにいる方々なのだ。ツッコむことはもうしない。双子たちと遜色なく遊ぶ、これがどれだけすごいことか筆頭のユーキはわかっていないのではないか、そもそもトップに立っている認識はあるのか。
まるで、これからの自分の子育ての予行演習の様に遊ぶユーキに騎士たちは何も言えない。なぜならそう、筆頭護衛騎士のユーキ様だから、だ。
そうやってかくれんぼという名の訓練中、王城の方で何やら騒ぎが起きたようだった。
ユーキは騎士の一人に指示を出し様子を見に行かせる。双子にはかくれんぼ終了の知らせを精霊達を使って送る。
この国に巨大樹と泉ができて以来、ユーキは精霊達と少しずつではあったが仲良くなっていった。結婚したことでさらに精霊と触れ合えるようになった。
ユーキはできる事なら竜王のフィーのように自分にもめちゃくちゃ懐く精霊が欲しい。そうしたら、奥さんのヘレネーも子どもたちも父親に向ける視線がさらにさらに畏敬の念が混じる事だろう。いつかそんな精霊と出会いたいと密かに願っていた。
双子を安全な場所に退避させて、様子を伺う。トーイとソーイは慌てた様子もなく、落ち着いて指示を待っている。齢十歳にして王者の貫禄だ。
すると先ほど使いに走らせた騎士が戻ってきた。
「ユーキ様に竜王様より伝言を承りました。すぐにトーイ様ソーイ様を連れて城に戻る様にと。詳細は王城にて話されるそうですが、その、どうやら宝玉の一つが消えたようです」
護衛騎士はユーキだけに聞こえるような大きさで告げた。




