精神-3
「ねぇ、怪しい人なんていないよ」
燐はキョロキョロ辺りを見回し、長四郎に耳打ちする。
燐の言う通り、周囲は残業終わりか少し遅い定時終わりの社会人で溢れかえっていたからだ。
「今、一番怪しいのは・・・・・・・」
「怪しいのは?」
「ラモちゃんだ」
「おい!」燐は長四郎の鳩尾にチョップを入れる。
「グボッ!」
長四郎はその場に崩れ落ちる。
野神はそんな二人を見て、頼むんじゃなかったかなと少し後悔する。
野神が先行して歩き、長四郎と燐は少し距離を取って付いて行くスタイルで不審者の正体を暴こうとしていた。
新馬場駅から京急に乗り、品川駅まで出て京浜東北線に乗り換え高輪ゲートウェイ駅へと向かう。
高輪ゲートウェイ駅は、野神の最寄り駅であった。
「あの人、意外と金持っているんだな」
長四郎がそう言うと「良かったじゃん。お金いっぱい踏んだくれるし」と謎の励ましをもらう。
「あのなぁ~」
そんな会話をしていると、野神が「もうここまでで大丈夫です」と言い始めた。
「家に着いたんですか?」
「いえ、違います」と否定され燐はガクッと肩を落とす。
「どうも、今日は狙われていないようなんで。明々後日お願いします」
野神は会釈して、自宅に向けて歩き出した。
「いや、でも!」そう言う燐を制す長四郎。
「ほっとけ。それに今日は華金だ。姉ちゃんの店にでも行くんだろ」
「え!」
「驚くことじゃないだろ?」
「でも、その姉ちゃんの店行く道中に狙われたら?」
「そん時は、運が悪かっただけさ」
「そんな無責任な探偵いるか!」
脛に蹴りを入れられた長四郎は片脚立ちで「ガッデム!!」とのたうち回る。
「つべこべ言わず、尾行するよ」
「へ、へい・・・・・・・」
長四郎は目を潤ませながら、燐に付いて行く。
野神は近所のコンビニに寄り飯を購入し、でかいレジ袋を引っさげて家路に着いた。
コンビニから徒歩で5分の位置に野神の住むアパートがあった。
築年数は立っているが、リノベーションされているアパートであることが後で分かった。
野神は部屋に立ち寄る前に、アパートの前のゴミステーションのBOXを開けて何かを確認してから部屋へと帰っていった。
長四郎は少し苦い顔をしていると「どうかした?」と聞かれ、「いや」と答えて踵を返して帰ろうとすると二人と鉢合わせるかのようにサングラスを掛けたスーツの男が二人、すれ違っていった。
それから数時間後
浜松町駅から少し離れたオフィス街で、血相をかいて走る男が一人。
「はぁはぁ」
近くにあった梁に隠れる男は呼吸を整えて、息を殺す。
何分経ったのだろうか・・・・・・・
男はゆっくりと身を乗り出して周囲を確認する。そこに自分を追う人物が居なくなって安堵のため息をついた時、グッと肩を掴まれる。
恐る恐る振り向くと、フードを目深に被った男がサバイバルナイフを突き立て男の心臓目掛けて振り下ろす。
「ぎゃっ!」短い断末魔を上げ、目から生気がすっと失われ男はゆっくりと地面に倒れた。
「ふぅ~」と息を吐いてからフードの男は「お前が行けないんだ・・・・・・・」と呟いて去っていった。




