精神-12
野神はその日も残業を終え,帰路に着こうと会社を出た。
「どうも,野神さん」
そう声をかけるのは,熱海長四郎であった。
「どうも」
「今日,伺ったのはこれです」
そう言う長四郎の手に握られていたのは,調査報告書であった。
「少しお話させて頂けませんか?」
「分かりました」
少し不服そうではあったが,野神は了承した。
二人は野神がおすすめする喫茶店へ入店した。
「ご注文は?」
店のマスターが注文を聞いてくる。
「珈琲。野上さんは?」
「オレンジジュース。それとプリンっ!!」
「はい。珈琲とオレンジジュース,プリンですね。少々お待ちください」
注文を受け,キッチンへと移動するマスター。
「プリン,お好きなんですか?」
「ええ,目がないくらいに」
「そうですか。では、ご依頼の件ですが」
「どうだったんですか?」
「はい。結論から申し上げます。あれは、刑事でした」
「刑事!?」
「はい。刑事です」
「私は何もしてない!!」
「分かってます。分かってます」
「本当なんだ!!」
店の中で取り乱す野神に長四郎は必死で宥める。
「ふぅ〜ふぅ〜」
息を切らしながら、野神は落ち着く。
「落ち着かれましたか?」長四郎にそう尋ねられ、野神は頷きながら意思表示をする。
「刑事の方には言いくるめましたから、もう捜査しないようにと」
「そうですか。でも、本当に大丈夫なんですか?」
「多分」
長四郎もそのことに関して自信はなかった。口から出まかせを吐いたのだ。
「お待たせしました。プリンと珈琲です」
マスターが商品を持ってきた。
「ありがとうございます」長四郎が礼を言うと同時に、野神はペロッとプリンを平らげた。
満面の笑みで会計を長四郎に任せて、ひと足先に退店した。
「割り勘ではないのか…」
長四郎はガックリと肩を落とし、珈琲を味わうのだった。
「で? 切り出せたの」
翌日、長四郎は燐から昨日の成果を聞かれていた。
「切り出せたことは、切り出せたかなぁ〜」
燐から視線を逸らす長四郎は、愛想笑いを浮かべる。
「その感じはダメね。私の番かしら」
「ふっ」長四郎は鼻で笑う。
「何よ。その感じ」
「いや」
「私の成果は知りたくない?」
「知りたい」
燐は長四郎が以前訪れたプリン屋に行っていた。そこで、長四郎から指示された依頼を遂行していた。
「教えない」
「教えないじゃないでしょ。どうだったのよ」
長四郎はこのとおりと言わんばかりに頭を下げる。大人の対応だ。
「そうね。これよ」
燐はOKサインをする。
それを見て、長四郎はとても嬉しそうな顔をする。
「繋がったのね」
「ああ。 脳細胞がフルスロットルだぜ!!」
「は? 何それ? カッコイイと思ってるわけ?」
燐から辛辣な言葉をもらい長四郎は、今にも泣きそうな顔をする。
しかし、長四郎には事件解決の算段がついていた。




