組み紐
翌日。
朔丸は朝、本堂の仏具磨きを、弥吉と千代若と終え
その後、稚児棟の広間で、漢詩の音読を終えた後、
慈円に呼ばれた。
「朔丸、今日は町の商家で通夜がある。
伴をするように」
慈円に命じられ、朔丸は
「えっ」
と思わず声をあげた。
「なにか不都合でもあるか?」
慈円の問いに朔丸は
「……いえ、なんでもありません」
と答えるも、朔丸は内心
「あぁ、今日カイと山で木登りをするはずだったのに……」
とがっかりしていた。
とりあえず、カイとの待ち合わせ場所に今日遊べないことを
伝えに行こうと思うも、慈円が
「通夜の前に、町で所用があるから、すぐに支度するように」
と命じてきたため、朔は
「あぁ、約束すっぽかすことになっちゃう」
と後ろ髪をひかれながらも、出掛ける準備に取り掛かった。
慈円とともに町へ出る。
朔丸はこうして、たまに慈円のお供で出てくることはあったが、
いつも大抵、目的地に直行していた。
しかし、今日は、慈円が色々なお店が軒を連ねているところに朔を連れてきた。
「慈円様、何か御用事が?」
朔が尋ねると、慈円が「あぁ、墨と紙を買い足そうと思ってな」と返してきた。
「そうなんですね~」
答えながらも、朔の目は、菓子屋に釘付けになっていた。
店先の木の台に、琥珀色の飴や白色の飴がならんでいた。
そして、その横には饅頭や餅、団子、干し柿なども並んでいる。
そんな朔丸の様子をみて慈円はふっと笑った。
「朔丸、今日のお使いの駄賃だ。
私はこの先の紙屋に行ってくるから、
その間に朔丸が好きなものを買うがよい」
「えっ、いいんですか?ありがとうございます!」
驚きと喜びの混じった朔丸を見て、微笑むと、
慈円は少し多めの小遣いを朔丸に与え
紙屋へ向かっていった。
何を買おうかと朔丸はわくわくしながら
菓子屋をのぞく。
そうだ、カイにすっぽかしてしまった
お詫びに飴を買おう。
朔丸はべっこう色の棒状の飴に目をとめた。
掌ほどの長さの飴は太陽の光があたってキラキラして見えた。
朔丸は自分とカイの分の2本を買おうとして、店主に
「飴を二本…」と言いかけ、そこで
あ、弥吉と千代若の分も買おうと
飴を4本店主に注文した。
店主は飴を四つ選ぶと、薄い和紙の上に並べた。
手際よく包み、紙縒りで結ぶ。
「ほれ」
差し出された包みは、朔丸の掌にちょうど収まる大きさだった。
朔丸は代金を払うと、飴を懐に大事そうに飴をしまう。
カイは喜んでくれるかな。
明日、カイに会うのがとても楽しみだった。
慈円はまだ戻ってこないので、
朔丸は、菓子屋の隣の小間物屋を除いた。
そこには、色鮮やかな組みひもが並べられている。
目を引かれて組みひもをじっと見ていると、店主が話しかけてきた。
「お稚児さん、気に入ったものはあるかい?」
「あぁ、きれいだなと思って……」
「運がいいな。
組み紐、昨日、新しいのが入ってきたばかりだよ。
最近は、これなんか、魔除けになるからって人気なんだ」
店主は花の形に結ばれた組みひもを指して言った。
「魔除け……?」
尋ねる朔に、店主は続ける。
「あぁ、旅の安全だったり、山に入るときにも魔除けになるってんで
お守り代わりに大切な人に渡したりするんだ」
大切な人――。
カイの顔が頭に浮かんだ。
「じゃあ、この浅葱色のください」
「趣味がいいね、毎度あり」
店主は細長い紙で組み紐を包むと朔に渡してきた。
朔は大事にそれも懐にしまう。
カイ、喜んでくれるかな。
喜ぶ表情を想像すると、渡すのがとても楽しみだった。
「待たせたな。
何かいいものは買えたか?」
慈円が戻ってきた。
「あ、はい、飴を買いました。
弥吉と千代若にも」
朔丸は答えながら、カイにも買ったことは
なんとなく言えずにいた。
慈円は、「そうか」
と言うと、「じゃあ、そろそろ、通夜の家に向かおう」
と歩き出す。
朔丸は、後ろをついていきながら、
通りを行き交う女たちが慈円に目をやっているのを見た。
若い娘は慈円をみると頬を染めたり、となりのまた若い娘に
こそこそと耳打ちしてはくすくすと笑ったりしている。
一方で、妙齢の女性は、「慈円様だよ。今日もほれぼれするようないい男だね」
とまた同じくらいの年の女性と話している。
慈円にとっては珍しいことでないのか、気にするそぶりはなく歩を進めていた。
慈円様って相変わらず人気者だな~。そりゃそうか。
頭もいいし、仕事もできるし、かっこいいからな。
と朔丸は他人事のようにぼんやりその光景をながめていた。
明日からは20時頃に1話ずつ投稿しようと思います。




