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幾星霜の月の人  作者: 青門 利空


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怪しい館長

その男性は黒縁のレンズが分厚い眼鏡にシャツとスラックスをはいている。


「わたしが、資料館館長の村田です。遠くからようこそ。教授から話はきいています」


にこにこと人の好さそうな感じだ。


「よろしくおねがいします。一条とこっちは水無瀬です」


村田が朔を見た瞬間、目を見開いた。

まるでこの世のものではないものを見たかのような表情で、そこには恐怖が感じ取れた。


「っあぁ……」


声にならない声をあげる村田に、佐々木が驚く。


挿絵(By みてみん)


「村田さん、どうしたの?具合わるい?」


心配する佐々木に村田はフーッと息をはいてかぶりを振った。


「……だ、大丈夫。ちょっと、最近胃の調子がおかしくてね」


明らかに胃でなく、心臓のあたりを抑えている。


「今の、なんか朔を見て驚かなかったか」


海翔が朔に耳打ちする。

そのとき、朔は水の流れる音をまた聞いた気がした。


「……ここら辺、近くに川がありますか」


唐突にきく朔に村田は下を向いたままびくっとする。


「いやー、近くにはないよ。10kmくらい行ったらあるけど」


佐々木が村田の代わりに答えた。


「そうですか。なんか川のせせらぎが聞こえた気がしたので」


「朔、大丈夫か。なんか冷や汗かいてないか?」

海翔がハンカチを取り出して、朔の額のはえぎわを優しくなぞって汗をふく。


「大丈夫……、海翔ありがと」


「いやー、猛暑のせいでか、みんな体調崩すよな。やっぱ案内は明日にするかね」


佐々木が言うと、朔が


「僕は大丈夫です。明後日には帰るので、できるだけ見ておきたい」


という。


海翔も


「そうだな。朔が大丈夫なら、時間もないから、僕たちだけでも見て回ろうかと……」


と同意した。

 

すると、顔を青くした村田が、


「じゃあ、代わりに私の知り合いを呼んで案内させよう」と提案する。


「私の弟が、村の神社の神主をしている。今日はなんも用事はないって言ってたから。

 すぐ電話しますわ。ちょっと待っててください」


そして、すぐ事務室に姿を消した。


「みなさん親切だよな。…って朔大丈夫か?」


朔が頭を押さえて顔色が蒼白になっていた。汗がこめかみを流れている。


「なんか、水の音がうるさくて、あたまが痛い……」


「そこのソファーに横になって。事務室に多分おしぼりがあるからもらってくるわ」


「あ、じゃあ、僕が」


佐々木の言葉に、海翔が立ち上がった。


そのまま、事務室に向かうと、ドア越しに村田の話し声がした。電話で弟と話しているようだ。


「だから、御供みそなえ様が現れたんじゃ。絶対逃しては……、そう。これは

数百年ぶりに村を再興する機会なんじゃからな」


「あのー」


海翔が事務室のドアを開けると、村田はびくっと体を震わせた。


「なにか?」


「いえ、朔が具合が悪くなったので、佐々木さんが、事務室でおしぼりがもらえると……」


「あー、はいはい。どうぞ。」

 佐々木は冷蔵庫から冷えたおしぼりをとりだし、海翔にわたす。


「ありがとうございます」


事務室をあとにすると、村田も「じゃ、待っとるぞ」と電話先の相手に伝え、切電した。

そして、朔のもとに向かう海翔についてくる。


「お連れさん、大丈夫ですか?気分が悪くなったんですかね?」


「あー、ええ。今横にならせてます」


「外が暑いからねぇ。熱中症じゃないといいけど」

 

心配する村田に、海翔はさっきの電話での会話を思い出す。


さっき、「みそなえさま」が現れた。絶対逃がすなって……、なんのことだ?


一抹の不安をかかえながら、朔のもとに戻ると、朔は体を起こしケロッとしていた。


「おい、朔。大丈夫か?」


海翔が声をかける。


「うん、大丈夫。なんだったんだろ?今は全然なんともないよ」


「よかった。おしぼりかりたから、汗拭いたら」


袋から出したおしぼりを渡すと朔は「気持ちいー」と

顔におしぼりを当てた。


「その様子じゃ大丈夫みたいだね。村を案内するのに弟を呼んだから、10分くらいでくると思うよ」


村田が切り出す。


「それなんですけど、朔の体調があまりよくないから、今日はやめておこうかと」


海翔が断ると村田の顔色が変わった。


「いやいや、なかなか村の詳しい人間に話をきく機会はないよ。

 ま、無理にとはいわないけど、村で一番詳しい神主が案内するんだから、聞いといた方が得だと思うよ。

 せっかく来たんだしね」


村の案内を強引に勧める。


その強引さと、先ほどの「みそなえさまが現れた、逃がすな」という言葉が頭をよぎり


海翔は、薄気味悪さを感じ始めていた。


「せっかくですけど……」


「海翔、俺は大丈夫。案内の手配までしてくださってるし、今日、村みてみようよ」


朔が言った。


「そうそう、今は、水無瀬さんも元気そうじゃない。おや、もう弟きたかもしれない。ちょっと様子みてきますわ」


村田はそう言うと、どこか急ぎ足で、資料館を出て行った。

海翔は朔を見る。


「朔、本当に大丈夫か?無理しない方が……」


「大丈夫、大丈夫。海翔は心配しすぎだよ。村田さんもせっかく手配してくださったんだから」


「朔……、それなんだけど」


言いかけた時、村田が1人の男性をつれて戻ってきた。






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