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幾星霜の月の人  作者: 青門 利空


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28/30

対峙

朔ははっと目を開けた。


長いこと眠っていたような気がする。

――ここは、どこだろう?

横をみると海翔も洋服のまま寝ている。


確か、生贄が捧げられた淵をみて気を失ったんだった。

――そして。


朔は、頭を押さえながら今見ていた夢を思い出した。

自分は、室町時代の朔丸という少年の夢を見ていた。

そして、気づいていた。

その朔丸は自分である、と。


「海翔、海翔」

横に眠っている海翔をゆすって起こす。

「う…、うぅん」


海翔は、身じろぎしながら目を開けた。

「あー、やば。すっかり寝ちまっていた」


そういうと海翔は、はっとした顔をしてガバっと起きた。

「そういえば、俺、あの村田って神主に一服もられたっぽい」


そして朔をみると両肩をつかみ目をのぞき込んだ。

「朔は大丈夫か?熱中症ってきいたけど。

頭痛くないか?!」


朔はふっと微笑んだ。

「大丈夫だよ。気を失う前より頭がすっきりしたみたい」

「……そうか。あの神主、なにか企んでそうだぞ。

 会って白状させないと……!」


そう海翔は意気込み、朔を振り返ると

「行こうぜ!朔」


と手を差し出した。


その姿が、夢の中に出てきたカイと重なる。

あぁ、また会えたんだ。――カイに。


朔は思わず胸が熱くなり涙をこぼした。


朔の涙をみて海翔は急に焦ったような表情になり


「どうした?具合悪いのか?!」


と急に慌てふためき始める。


それをみて朔は笑った。


「ううん、なんでもない。行こうか?」


そして海翔の手をとる。


それに海翔は


「あぁ」


と答えるとニカっと笑った。


あ、カイだ。――この笑顔はカイだ。


朔はそう確信していた。


海翔の顔は夢で見たカイの顔と全く一緒というわけではない。

だが、顔つきや表情が、カイと重なる。


そして何より自分の勘が、魂が、海翔はカイだと告げている。


「もう、会えていたんだね」


朔はぼそりと呟く。


「ん?なんか言ったか?」


聞き返す海翔に


「ううん、なんでもない」


朔はそう微笑んで返した。


なぜか、部屋の入り口は襖で、普通に出入りができた。


なにかしら鍵がかかっていると思った海翔は肩透かしをくらったが


とりあえず、神主を探そうと家の中を歩き回った。


だが、誰もいなかった。


「村田さん、どこにいったんだろうね?」


「神主だから神社じゃないか?」


朔の問いに海翔が答え、家をでて、周囲を見渡す。


すると家から50m先くらいに神社が見え

そこに明かりがともっているのを目にした。


「あぁ、多分、あそこじゃないか」


海翔が指さし朔の手を引き進む。


周囲は日が沈み外灯もほぼなく明かりと言えば、月の明かりだけ。

朔はふと空を見上げた。

空をみあげると月がなく新月であることがうかがえる。

――生贄の日だな。

朔はぼんやりとそう思っていた。


5分ほどで神社に着いた。


ここ、見覚えがある。


「お、おい――」

驚く海翔を尻目に、朔は、ずんずんと神殿に向かっていく。


何か引き寄せられている気がしたからだ。


神殿のあるお堂につくと、朔は躊躇なくなかに入った。


中は暗かった。

朔は、入り口付近をさぐると電気のスイッチがあるのに

気づいた。

スイッチをいれると、周囲はぱっと明るくなった。


あがり口で靴を脱ぐと、朔は正面の板戸をガラッと引く。

すると、そこには棺が置かれていた。


上から中を見ると、そこにあったのは

朔と瓜二つの顔をした少年の遺体だった。


挿絵(By みてみん)


「うわっ」

海翔が思わず、叫び声をあげる。


一方で朔はじっと自分と同じ顔をした少年の遺体を

見つめる。


「――僕だ。いや、朔丸だ」

朔はそうつぶやいた。


「でも、なぜ――」


「儀式が完成しなかったからだ」


背後から声がして、朔と海翔は後ろを振り返る。


そこにいたのは、教授だった。


「教授!なぜここに?」

海翔が驚く。


「ずっと続いてきた呪いを解くためにきたんだよ」

教授は静かに答えた。


「……呪い?生贄の儀式をしたことで呪いを生んだのですか?」


朔が尋ねると、教授は朔を優しい目で見る。


「その様子だと思い出したんだね?朔丸」


「ええ、先ほど自分の前世を夢に見ました。

 教授も…あの時代の人だったのですか?」


「あぁ、そうだ。私は寺の人間だった」


それ以上教授は自分の前世については語らず、

呪いの件に話を戻す。


「生贄の日は、本来神託に記されていた新月の日ではなかった。一日ずれていた」


「そうなんですか?でも、なぜ」


「神託の書が書き換えられていたんだ。

 おそらくカイによって」


「……!」


朔丸は目を見開き海翔を見る。同時に教授も視線を海翔に向けた。

海翔は話についていけず、二人から凝視されて

ポカンとした顔をしている。


「それによって儀式は完成せず、日照りは解消されたものの

 今度は雨が降り続き止まらなくなったのだ。

 その後、朔丸の遺体をご神体として祀るよう、新たな神託が下った。以来、この村は数百年にわたり、朔丸を祀り続けてきた。

 数百年もの間な」


「……なんかよくわからないですけど、この少年は朔の前世ってことですか?

 確かに、顔がそっくり……というかそのままですもんね。

 でも、数百年って、普通ミイラになってるんじゃ」


海翔が口を挟み、そう疑問を呈した。


「そこが『呪い』なのだ。

 儀式が完成しておらず、だからこそ、この遺体はあの時から時が止まっている。

 水無瀬君、君は体が弱いだろう?」


慈円が尋ねると朔は


「……そうですね。確かに子供のころから喘息体質だったり、


ちょっと運動すると具合が悪くなって倒れたりしていました」


と答えた。 


「それは、おそらく儀式が完成しておらず、魂の一部が

 君の中にないからだ」


「……そうだったんですね」


朔は納得する。


そして教授を見た。


「それでこれからどうすればいいんでしょうか?」


「すべてを終わらせよう。妄執たちが動き出す前にな」


その言葉に海翔は思い出す。


「そういえば、村田神主たちはどこに……?」


「眠ってもらったよ。手土産の酒に強い睡眠薬を混ぜた。

彼らは村の記憶に取りつかれている。

水無瀬君をもう一度生贄にして儀式を完成しようとしていたからな

8月の新月の晩になると、村の記憶がそうさせるんだ」


「……教授、やりますね」


教授が事も無げに答えたのに海翔はうなった。


「さぁ、では幕引きといこうか」


教授はそういうと、朔丸の遺体を運ぶよう海翔に指示をだした。


海翔は躊躇なく棺をあけ、朔丸の遺体を背負う。


それをみていた朔は


「ごめん、海翔。俺がこんなこと言うのもなんだけど……、

 気持ち悪くないの?数百年も前の遺体だけど、それ」


と思わずつっこんだ。


すると海翔は飄々と


「ん?いや別に。だって、これお前だろ?」


「……いや、そうなんだけど。臭いとか大丈夫?」


「いや、全然。むしろ、お香の匂いが漂ってくる」


そういって、海翔はニカっと笑った。


「では、そろそろ行こう」

教授が促し、一行は水神の淵へと向かった。

































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