神託書
慈円は1日の勤めを終え自室に戻った。
部屋に入った時、何か違和感を感じる。
特段荒らされているわけではないが、ものの配置が少し変わっているように感じた。
急いで、文机の引き出しをあける。そこには神託書のしまってある祠の鍵が
置いてある。
引き出しの中を確認すると、そこに鍵はあった。だが、向きが違う。
鍵を手に取ると、祠に向かう。神託書が無くなっていないか確認するためだ。
神殿の祠に着き、中を確認すると、そこには神託書があった。
書を確認する。すると、
――日付が書き換えられていた。
確か、日付は八月二日だったはずだ。
しかし、神託書をみると八月三日となっている。
おそらく線がつぎ足されている。
「……」
弥吉か?
いや、――カイか。
慈円はここに来る前に朔丸のいる座敷牢に様子を見に行っていた。
夜遅いため、朔丸は寝ていたが、その頬には涙の跡があった。
心細さから泣いたのかと思ったが、その表情はどこか微笑んでいるようにもみえた。
もしかしてカイと会っていたのでは。
慈円は、しばらく神託書を眺めていたが、そっとそれを祠の中に戻した。
神託による生贄の日が変わったら、生贄の儀式は完成したとはならないだろう。
そうなった場合、もしかしたら、朔丸は助かるかもしれない。
立場上、積極的に朔丸を助けることはもはや難しいが、これなら――。
慈円はそう思いながらその場を後にする。
生贄の日は後、三日後に迫っていた。
一夜が明けた。
生贄の日まで、あと二日。
カイの胸には焦りだけが募っていた。
神託書の日付を書き換える時、いっそのこと
「二日」の前に「十」と足して「十二日」にしたらどうかと
提案したが、弥吉に
「…それだと、日にちが違いすぎてさすがにバレる。
しかも、生贄の日は新月であるというのは習わしだ。
新月から一日ずれても、月の細さの違いは、
見た感じ、おそらくわからない。
でも、十日ずれると、さすがに新月でないとわかる」
そう言われ、一日しか延ばせなかった。
カイは父親になんとか朔丸を助ける手立てはないか相談した。
村人たちの気持ちを変えさせる方法はないか、
ここから出して直接説得させてほしいと懇願した。
が、しかし――父は
「お前はここにいるから、わからないかもしれないが、
最早そういう雰囲気ではないのだ。
皆、狂気にかられていて、神事が完成することで
全てが解決すると待望しているものが多い」
「ここから出ると、お前が何かしでかすのではと危ぶむ者から
危険な目にあいかねない。だから、このままじっとしておいてくれ。
お前の気持ちは痛いほどわかるが、お前が動くことで弟妹が危険に
及びかねない。今でも白い目でみられているのだから」
そう父親に言われ、カイは幼い弟妹のことが頭に浮かんだ。
そして、今、弟妹が周囲から白い目でみられているときき胸が痛んだ。
でも、だからといって、このまま何もしないのは――。
カイは頭をかかえる。
生贄の日の前日、焦ったカイは見張りがいない間に一度ここを抜け出して
やっぱり朔ともう一度逃げようと、納屋から抜け出そうとしたが、あっという間に見つかって納屋に連れ戻された。
結果、ますます厳重に見張られるようになり身動きがとれなくなる。
そして、生贄の儀式が行われる、八月三日の日を迎えた。




