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幾星霜の月の人  作者: 青門 利空


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絶望

「カイ、大丈夫かい」


納屋の扉がそっと開く。

カイがみるとそこに立っていたのは母親と父親だった。


「まぁ、こんなに腫れて……」


母親がカイの殴られたあとの顔を見て絶句する。

あわてて、冷たく絞った布をカイの頬にあてながら


「この…馬鹿!なんでこんなこと……」

そういいながら涙ぐむ母親をみてカイはなんともいえない気持ちになった。


「カイ、大分やられたな……」


母親の後ろで、父親は、カイをみてそういいながら、気の毒そうな顔をした。


「話は大体きいた。

 お前は、友達を生贄から救おうと一緒に逃げ出そうとしたんだろう。

 その気持ちはわかる。

 だが……、村の連中からすると

 裏切り者としてお前に対する反感が高まっている」


父はふーっとため息をついた。


「今は謹慎という名目で、お前は当面ここに留置することになった。

 外には見張りが順番でつく。

 だが、今は村の連中の気が収まるまでここにいた方が安全だ。

 みな、いらだっているからな。――それと」


父は一度言葉を切って、またつづけた。


「今回、名主の地位は返上することにした。

 この度の騒動の責任をとらねばならない」


それを聞いたカイは息をのんだ。

父に迷惑をかけてしまった。


「――ごめん、父ちゃん」

カイはそう言うとうなだれる。


そんな父はカイを責めず、にっこり笑うと

「大丈夫だ。そもそも名主の役は荷が重かったんだ。

すっきりしたから、これからは気楽にいられるさ」

と言った。


「夕飯食べてないんだろ?

 焼きおにぎり作ったから食べなさい」


そういって笹の葉に包んだおにぎりを母が差し出す。


それを見て、カイはずっと気になってた質問を父にぶつけた。


「父ちゃん、それで……朔丸はどうなったんだ?」


父は、気の毒そうな顔をしながら答える。


「その子は寺の預かりとなった。


おそらくお前と同じで寺のどこかで謹慎させられ


見張りがつけられていると思うが」


「……父ちゃん、まさか、朔丸生贄になったりなんかしねえよな?」


カイの問いに父親は一瞬沈黙する。


がしかし、「いずれわかることだから」と前置きしていった。


「その子は生贄として差し出されることになった。


 寺からそう連絡があったそうだ。

本人もそう了承したと」


カイは目の前が一瞬暗くなるのを感じた。

そして次の瞬間


「嘘だ!!」


と叫んでいた。


「そんなわけない!

 だって、二人で生きるって約束したんだ。

 海辺の町で。

 それに、あの慈円って奴、朔丸を守るくらいの力あるだろ。

 それなのに……生贄なんておかしい」


感情のままそう吐き出すようにいうと、カイは頭をかかえた。


両親はかける言葉がみつからないようで

気の毒そうにカイをみている。


その表情が、事態がもうどうしようもないところまできているのだと

カイに実感させた。


「とりあえず……、助けないと」


カイはそうつぶやくと、納屋を出ようと出入口にむかう。


しかし、それを父が止めた。


「落ち着け……。カイ。

気持ちはわかるが、もうどうしようもない。

本当は私も生贄なんてと思う。

ましてやあの子はお前の友達だし、そんなむごいことを

本当にするのかというのが本音だ」


「なら!」

「だが……、もう事態は引き戻せないところまできてしまった。

こんなこと言いたくないが、今回お前とあの子が逃げたせいで

余計、周りの感情に火をつけてしまったんだ。

それに、ここを出ても外には見張りがいる。

またすぐ捕まるだけだ」


「……」

カイはそれをきいて崩れ落ちた。


俺がしたことで朔が生贄になる決定打になってしまったのか?

もうどうすることもできないのか?

俺が、俺が朔を窮地に追い詰めたーー。


慈円が最後に会ったときにいった言葉が脳裏をよぎる。


カイは力なくうずくまるしかなかった。


挿絵(By みてみん)





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