雨
その年の天候はおかしかった。
梅雨の時期になっても雨が降らず、
田は干上がっており、地面はひび割れていた。
深瀬村でも何度か寄り合いがあり、
名主の息子であるカイも同席して、今後どうするか
話し合いがもたれていた。
その結果、朔丸がいる寺に、カイの父が雨ごいの祈祷を依頼しにいき
何度もそれは行われたが、雨は降らなかった。
カイも父を中心として、他の村人の顔がだんだん険しくなっていくのを
目の当たりにしていた。
村の中でも川の水をどこに回すか話し合いがもたれていたが
川の近くの田を持つものはともかく、それ以外の家の者はどうすることもできない。
村人たちの焦操感は日に日に募り、村の緊張感は高まっていた。
一方、その頃、寺も応仁の乱による物資の不足や村の日照りによる
収められる年貢の減収が懸念されていた。
稚児たちの間でも
「なんか、寺の財政がちょっと厳しくなっているらしい」
と噂になっていた。
千代若が
「なんか朔丸、慈円様にきいてる?」
尋ねる。
それに弥吉がびくっとし、千代若を睨み黙らせようとするが
千代若は気にする様子もない。
「何もきいてないよ」
朔丸は短く返す。
実際朔丸は慈円から何も聞いていなかった。
無理やり慈円に抱かれてから、
弥吉と千代若のおかげでカイに会え、元気を取り戻した。
そして、寺の仕事にも復帰しはじめたとき
朔丸は慈円に呼ばれ謝罪を受けた。
「朔丸、すまなかった。
あのことは……、お前の気持ちも汲まず
性急すぎたと思っている」
それに朔丸は唖然とした。
性急すぎた?
それって時間がたてば、僕が慈円さまになびくって思っているってこと?
朔丸は慈円の謝罪に対しては無言のまま
「……まだ、仕事が残ってるので失礼します」
と言いその場を後にした。
それから、慈円に呼ばれようが、なんやかんやと理由をつけて
行かないようにしている。
慈円も負い目があるのか、それに対して何も言ってこない。
ただし、慈円の、ものを問うような視線は時折感じていたが
朔丸はそれを無視していた。
カイとは2日に1回は会っている。
その際に、村の干ばつについては、カイから聞き朔丸は知っていた。
カイも名主の息子なので、父親の補佐など、やらないといけないことも
多く大変そうだった。
あの時、話しに上った駆け落ちの件も、カイがバタバタしており
具体的には進んでいない。
だが、会うほどに、カイと朔丸の想いは深くなり、
二人の楽しい未来の話が会話に上らない日はなかった。
そして、接吻と抱擁も会うごとに深いものになっていく。
愛を確かめ合ったあと、朔丸はカイに微笑みかける。
カイも笑みを返すと、朔丸はカイの肩にもたれた。
二人の間にお互いを想う熱が満ちていく。
「俺、朔丸のこと絶対嫁さんにする。
絶対あきらめないから」
カイは朔丸にそういう。
朔丸はそれを聞くたびに幸せが胸にこみあげてくるのだった。
その頃慈円は、最近態度がよそよそしい朔丸が気になっていた。
明らかに距離を置かれている。
しかし、ここで無理に叱責したりしても
表面上は従うだろうが、気持ちはより離れていくのは
目に見えていた。
ここは、無理に距離を詰めるのではなく
敵のことを知った方がよい。
慈円はそう思い、カイのことを調べ始めた。
まずは、深瀬村から寺に出入りする村人に
さりげなくカイのことを聞いた。
あ
するとカイの評価としてあがってくるのは
「さすが名主の息子だけあってしっかりしている」
「気さくで明るい」
「情に厚く困っている人がいると放っておけない」
「年寄りや子供にやさしく人気がある」
「若い娘からも熱視線をむけられるが本人は相手していない」
などよい評判ばかりだった。
慈円は面白くなかった。
さすがに学はないだろうと、きいてみると
文字は書くのは苦手だが、読むことはできるとのこと。
しかも、たまにどこからか、本を借りてきて読んでおり
それが一層、若い娘や子供を中心に尊敬の念を向けられている
要因となっているとのことだった。
――もしや、その本とは朔丸から借りたものではあるまいか。
疑念が胸をよぎるが、そこは追及できる段階にない。
仮にそうであっても、朔丸がカイに自分の本を貸そうが
朔丸の自由だ。
もちろん寺の本を勝手に貸しているとかであれば問題だが
おそらく朔丸の性格からしてそれはない。
慈円は胸の中に苦い思いが広がっていくのを感じていた。
慈円イライラしてます。




