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幾星霜の月の人  作者: 青門 利空


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涙のあと


「……カイ」



朔丸は、布団から体を起こす。


ボサボサの髪を手で撫でつけながら、


朔丸は


「……どうしたの?よくここまで入ってこれたね」


と尋ねる。


「あー、なんか弥吉と千代若…だったっけか。


 あいつらが、俺んとこ来て、うまく入れるようにしてくれた」



「……そっか」



朔丸は沈黙した。


何か言いたい気がするが、何も言葉が出てこない。



カイはそんな朔丸の様子を見て、心配そうに尋ねた。


「なんか、あったのか……?」



「……」



何か返さねばと思うが、言葉は口からでてこない。


しばらく沈黙の時間がすぎていく。



「……何かあったんだな。


 無理するな。言いたくなったら言えばいいし、


 言いたくないんだったら言わなくていい。


 ただ……」


カイは心配そうに朔丸をみた。


「俺がそばにいるし。


 さすがにここに寝泊まりするわけにはいかないけど、


 いつもの山や川だったら、いつでもつきあうよ。


 俺も朔丸の顔をみていない3日間は長かったし」



……あれから、3日も過ぎてたのか。


朔丸はぼんやりとそう思った。



「ただ、約束してくれ。


 なんにも食べてないんだろ?


 そんなんじゃ、先に体の方がまいっちまう。


 せめて、水だけでも飲んでくれ」



そうして、カイは廊下においてあった水をもってきて


湯呑につぐと朔に渡した。



朔はそれを受け取ると、こくんと一口飲む。


水が乾いていた体にしみわたっていく感じがした。


「あ、それと。これ。


 野イチゴ。


 これ、お前好きだろ。


 今朝摘んできたんだ」



そうして、カイは懐から紙でつつんだ野イチゴを取り出して


朔にみせた。


つやつやとした照りが美しい。


「ほら、食べろ」


カイは野イチゴをひとつ手に取ると、朔の口元にもっていく。


朔は口をあけて野イチゴを食べる。


野イチゴはやさしい味がした。



そのとき朔は頬を何かが伝うのを感じた。


涙だ。


ーーあれ、僕、泣いてる?


気づくと同時に、ぽろぽろと涙がこぼれだす。


気づくと朔丸はしゃっくりをあげて泣いていた。



そんな朔丸を、

カイはしばらく心配そうに見つめていた。


やがて、

そっとその体を抱きしめる。


朔丸は抵抗することなく、

カイに身を預けた。


やっと息ができたような心地がした。


泣きじゃくる朔丸を、

カイは何も言わず、

ただ長い間抱きしめていた。


挿絵(By みてみん)


思う存分泣いた後、

朔丸は急に喉の渇きをおぼえた。



先ほど、カイがついでくれた水を湯呑からのみながら

急にお腹がすいてくるのも感じる。


「カイ、さっきの野イチゴ、もっともらっていい?」


尋ねると、カイは嬉しそうに


「いいぞ、全部食べろ。そのためにもってきたんだから」


と30粒ほどの野イチゴのはいった紙を畳の上に広げる。


「……ありがと」


お礼をいいながら、こんなに集めるの大変だっただろうな……。

僕のために……、してくれたんだ。


と心が温まるのを感じた。


食べだすと止まらない。



気づけば次々と口へ運んでいた。


朔丸は野イチゴをあっという間に平らげると


「おいしかった。ありがとう」


とほほ笑んだ。


そんな朔丸をカイはほっとしたような表情で見つめていた。



その後、カイは


「これ、廊下においてあったぞ。多分朝置かれての今だから


まだ食べられると思うぞ。冷えてるけど」


と、廊下から、おかゆと漬物を運んできた。


朔丸は野イチゴをたべ、より空腹感がましていたので、


おかゆの入った椀とお箸を手に取ると


口の中に少し流し込む。


おかゆは冷えていたが、おいしかった。


なにしろ3日ぶりの食事だったからなぁと朔は思った。


朔丸が忘れていた食欲を思い出したかのように食事をするのをみて


カイは嬉しそうに朔を見守る。



その視線に気づき、

朔丸は少しだけ気まずそうに笑った。



「食欲がでてきてよかった。

 じゃあ、まだ本調子じゃないだろ。

 ゆっくり休めよ。

 俺帰るから」


カイはそうって立ち上がろうとする。


朔丸は思わずカイの着物の袖を握った。


「ん?どうした?」


カイが尋ねる。


「……まだ帰らないで」


朔が絞り出すような声で言った。


「いいけど…、お前眠そうだぞ。

横になって寝た方がいいんじゃないか?」


カイが心配そうにする。

確かに、気だるいのと、お腹が満たされたのと、

何よりカイが来てくれてほっとしたのとで

朔丸は急激な眠気が押し寄せてきていた。



そんな朔丸の様子をみてカイは


「わかった。じゃあ、お前が寝るまでそばにいるから」


そういってあげてかけていた腰をストンと落とした。



「手にぎってて」


朔丸がカイに手を差し出すと、


カイは朔丸の手を優しくにぎる。


その手は、大きくごつごつして、そして


乾燥しているのかかさついていた。


しかし、一番安心できる手だ。


そして温かい。


朔丸は、いつの間にか眠りに落ちていた。











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