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幾星霜の月の人  作者: 青門 利空


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13/28

崩壊の夜

※暴力的なシーンがあります。

「朔丸、あのカイという少年とは別れなさい」



慈円が低い声で朔丸に伝える。



有無を言わさない雰囲気があったが


朔丸は、飲まれないように気持ちを奮い立たせた。



「嫌です。別れません」



きっぱりと告げる朔丸に



慈円は軽く目を見開いた後、いぶかしげな顔になった。



朔丸は今まで、慈円に反抗したことは一度もなく


素直に慈円の言うことに従ってきた。


もちろん、幼い五つの時から預けられているため、


叱るようなことはあったが、


ここまで真正面から慈円の言うことに逆らうことはなかった。



やはり、あのカイという少年は、朔丸に悪い影響を与えている――


慈円は確信した。



「お前のためを思っていっているのだ。


 いくら名主の子とは言え、あの子といてもお前に未来はない」


「どういう意味ですか?」


朔丸が聞き返す。



「お前は、世の中を知らないのだ。


 百姓と一緒になったとて、お前の華奢な体が


 村の暮らしに耐えられるとは考えられない。


 お前が畑を耕せるのか?


 食べるものだって、寺で稚児として扱われてきたお前と


 百姓では違う。


 村で生きていくとなると、お前の好きな本なども手にいれることすらできない。


 あのカイという子とお前とでは住む世界が違うのだ。


 ――違う世界の者同士が、一緒に生きようとしても上手くいかないのだよ」



慈円は、朔丸に教え諭すような口調で言った。



それに朔丸は反論する。


「それでも、僕はカイが好きなんです。


 カイといると楽しい。


 自分自身でいられる気がする。


 ――楽に息ができるんです。


 確かに、村で生きていくにしても最初から上手くいくとは限りません。


 体力も続かないかもしれない。


 でも、それでも僕はカイと生きていくのをあきらめたくはありません」



慈円は朔丸の目をみた。


朔丸の目の底には力強い意思が宿っている。



慈円は、ふと違和感を感じた。



――これは、誰だ?


本当に朔丸なのか?



あの、私の言葉を疑いもせず受け入れていた朔丸はどこへ行ったのだ。


そして、それを変えたのは――。



慈円の中に焦燥感がつのり、そしてそれは限界を迎えた。



今まで押し込めてきた感情が、

堰を切ったように溢れ出す。


慈円は、朔丸に近寄ると、その体を抱きしめた。



「――慈円さま?」



朔丸は何が起こっているのかわかっていない様子で、


ぽかんとした口調で慈円の名を口にする。



慈円は、抱きしめる力をゆるめ、


朔丸の頬に手を添え、そして、その唇に口づけを落とした。



朔丸は2、3秒ほどしたあと、我に返る。


そして両手で慈円の体を力を込めて押した。



「なっ、やめてください!」


朔丸が泣きそうな顔で拒絶する。


その表情に慈円は胸が痛むのを感じた。



一瞬、朔丸に対し、かわいそうだという思いが生じるも、



しかし次の瞬間、朔丸がカイと口づけをしていた光景が脳裏によぎる。



あのカイという奴と口づけしていた時は、


あんなに嬉しそうな顔をしていたのに――。




だが慈円は、それを無視し、そして朔丸を畳の上に押し倒した。



――そして夜は更けていった。





翌朝。



障子の向こうが白み始めていた。


朔丸は重いまぶたを開けた。



頭はぼーっとしており、朝の訪れをしらせる鳥の声が


どこか遠くで聞こえている気がした。



自身の横で慈円は寝息をたてている。



昨晩は、自分の気持ちを押し殺して、ただ、時間の経過を待っていた間に、


いつの間にか意識を失っていたようだった。



朔丸はハッとした。



このままじゃ、起きた慈円とどういう顔をして顔を会わせていいかわからない。



朔丸は体をひきずるようにして、側にあった着物を身に着けた。



体の節々が痛む。



それに朔丸は泣きそうになった。



どうしてこんなことになってしまったのだろう――。



涙で濡れた頬を、また、新しい涙がつたう。



昨晩、慈円は、抵抗する朔丸を無理やり自分のものにした。



さんざん、やめてくれるように懇願した。



自分は、慈円をそういう相手ではなく、年の離れた兄のように慕っている。



だから――、無理やりそういう関係を結ぶのはいやだと何度もそういった。



だが、慈円は聞く耳を持たず



「こうするのが、一番良いのだ、わかれ、朔丸よ」



といい、朔丸の体を好きなように扱った。



言うことを聞いてくれず、朔丸はやがて抵抗する力を失い



なされるがまま自分の感情を押し殺し続け時間が過ぎるのをただ待った。




そして、いつの間にか気を失っており、気づいたら夜が明けようとしている。



朔丸は物音をたてないよう、そっと慈円の部屋を後にした。




もう、誰か起きているかもしれないと


周囲を警戒しながら稚児棟の自室へと戻る。




稚児とは、そういう勤めがあるものだと朔丸は聞いてはいた。



しかし、今までは実家が下流とはいえ貴族であり、



今まで誰かに無体を働かれることはなかった。



そういう視線をむけられたり、そのような誘いをうけることはあったが



慈円がそういう輩からさりげなく守ってくれていた。



だから自分は、慈円を信じていた。



自分にまるで肉親のような愛情をそそいでくれていると信じていたのだ。--昨夜までは。



自室に入った朔丸は、着物をきたまま布団の中にもぐりこみ、自分で自分の体を抱きしめる。



着物が皺になるかもしれないがどうでもいい。



一人きりになった朔丸の頭を色々な思いが去来する。



どうして、こんなことになってしまったんだろうーー。




昨夜は、執拗に、慈円は自分に劣情を向けてきた。



そして、泣きじゃくる朔丸にたいして、何度もうわごとのように



「かわいい」「きれいだ」「ずっとこうしたかった」「こうなる定めだったのだ」


などつぶやき続けた。



朔丸の声は耳に届くことなく、すべてなかったことにされた。



そう、昨夜、自分は慈円にとって、人じゃない、「モノ」だった。



自分は兄とも慕ってきた大事な存在を失ったのだ。



誰が、何が悪かったのだろう。



自分が何かいけないことをしたのだろうか。



そして、これから自分はどうすればいいんだろうーー。



急に足元がガラガラと崩れ、奈落の底に落ちていくような気持ちに襲われる。



朔丸は目を開ける気力もなく、目をつぶっていた。



そして、どのくらい時がたったのか。



朔丸が茫然自失で布団にこもっている間、



なんどか、稚児の弥吉や千代若が呼びに来た。



食事も運ばれている気配がする。



しかし、朔丸はそれに応える気力ももちろん食事をとる気力もなく、ただ布団の中で息をひそめていた。



そうするうちに、慈円からそっとしておくように達しがあったのか




ただ、事務的に食事を置いておきますと告げる下男の声だけが聞こえるようになった。



――このまま死にたいな。


朔丸がそう思うようになった時、



「朔丸、どうした、何かあったのか?」



部屋の襖があき、布団の横に誰かが座る音がする。



誰か聞きなれた声がしたようで、朔丸は布団から顔をだす。



すると、そこにいたのはカイだった。

















































 


 






























 

チャッピーの画像生成受け付けてくれないため、いったん画像なしでのせます。

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