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最弱な能力に異世界転生した僕こそが最強の勇者に間違いないっ!  作者: ぴこたんすたー
第6章 勇者復活の時

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第28話 舞台は再び動き出す(現実世界シリアス編、遺志)

「──じん、起きて……」


 誰かから優しく肩を叩かれ、僕は起床する。

 眼前からのダブルベッドの隣で、僕の手を優しげな顔つきで握る女性。


 そうか、僕は魔王を封印し、現実世界に帰ってきたのか。


 でも、そこにいた相手ヒロインは意外な人物だった……。


さくら……お前、何やってるんだよ?」


「何って、私たち、恋人同士なんだから当然でしょ」


 そこにいた彼女は、あの岬代みよではなかった。

 しかも彼女は、僕の隣でパジャマを着て寝ている。


 身に覚えがない、着崩した水玉のパジャマ。

 僕は未成年なのに、酒に酔いつぶれて、知らぬ間にこの水玉模様の女を抱いたのか。


「ああ、何てことをしてしまったんだ……」


「さっきからどうしたのよ?」


「岬代はどうしたんだよ!?」


「きゃっ、唾が飛んだじゃない!? 目の前で騒がないでよ?」


 上体を起こした桜が人差し指で耳の穴を塞ぎ、少しばかり身を屈める。


「いいからお前は何なんだよ。僕の気を惹こうとしても無駄だぞ。岬代はどこだ!」


「ちょっと落ち着いてよ」


「だったら彼女を呼んでくれ。岬代に謝りたいから!」


「仁、いい加減に落ち着いて!!」


 桜は僕の目をマジマジと見つめ、震えるこちらの両腕を掴み、心から抵抗している僕にひたすら説得してくる。


「岬代はもう、この世にいないのよ」


「何だって?」


「彼女は列車事故で亡くなったのよ」


 僕の思考が凍りつき、熱い勢いにつられて、岬代への想いが弾けそうになる。


「何でだよ、僕は歴史を変えたじゃないか」


「さっきから何を言ってるの? ここはゲームの世界じゃないのよ?」


 混乱していた僕を前にして、桜から説明を受ける。

 岬代は一ヶ月前に、列車事故で命を落としたこと。

 

 でも彼女は借金苦の自殺ではなく、とある女性を助けようとして、列車の犠牲になったこと。


 その女性は、桜よりもかなりの年配で蔭谷かげたにの妻だった。


 彼女はある日突然、亡目になった蔭谷を影から支え、いつものように眼科に向かおうと電車待ちをしていたら、線路内に蔭谷が誤って転落してしまった。


 そこへ妻がすかさず助けようとし、向かってきた電車にはねられた。


 ──という、筋道だったが……。


「偶然にも反対側のホームに岬代がいてね。何やら叫びながら、線路内に飛び込んでいったの……」


「岬代は何て叫んでた?」


「仁の努力は無駄にしないって……」


 僕は心から切ない感情を吐いていた。

 彼女は何もかも知っていたんだ。

 どれだけ努力しても、流れてしまった過去は変えられないと……。


 でも先のことは別。

 だったら、一寸先の未来を変えるしかない。

 いかにも岬代らしい答えだった……。


「それで桜が、僕に寄り添うようになったのか?」


「ううん、それは違うよ……。

岬代を失い、落ち込んでいる私を君が慰めてくれたの」


「僕にそんな度胸があったとはな……」


「何言っているの。少しは自分の発言に自信を持ってよね」


「──世界を救った勇者でしょ」


 桜が僕に絡めていた指を柔らかく包み込む。

 その白くて細い薬指には、銀色に輝く指輪がはめられていた。


「桜」


「なに?」


「蔭谷に会わせてくれないか?」


「分かった」


 桜がベッドから起き上がり、大きく伸びをし、乱れていたパジャマを整える。


「それから僕は桜と一晩寝たのか?」


「ううん。これは私の寝相が悪かっただけで、寂しそうにしていた君の背中に私が寄り添っただけ。別に何もしてないよ」


 桜がにこにこと笑みを浮かべて、チキンな僕の頬を人差し指でツンとつつく。


「そうか。じゃあ、蔭谷の家に行く支度をしよう」


「えっ、今すぐなの?」


「ああ、()()()()というやつさ」


「ふふふ。それ正しくは()()()()でしょ」


「まあ、そうとも言うかな」


 シャワーを浴びにいった桜から離れ、僕はピョンとはねた寝癖を整えながら、彼に伝えたい言葉を探していた……。


****


『──何とでも言うがいい。ワシは人殺しじゃ』


 よく晴れた昼下がりの午後、インターホンから響く彼の叫び。


 これには参ったな。

 蔭谷がいる古びたアパートを訪ねても、一向に出てくる気配を見せない。


 前回の高級マンションと違い、人里を離れて住んでいたとは言え、蔭谷がこんなに強情な性格だったとは……。


 まあ、そうじゃなければ、異世界で魔王なんか務まらないよな。


『ワシが異世界では魔王をやり、あの世界を作らなければ、誰も犠牲は出なかった!!』


「だから、その件に関しては、もういいじゃないか」


『それでは駄目なのだよ。どんな綺麗事で塗り固めても犯した罪は変わらん。この目だけでは償いははれん。ワシは永遠の罪人なんじゃ』


 さっきからこんな風に、蔭谷との意地の張り合いだ。


『さあ、もう帰るんじゃ』


「いや、僕は帰らないよ!」


 苛立った僕はインターホンに向かって、声のトーンを高くして張り上げる。


「もう過ぎてしまったことだろ。岬代のことは仕方ないさ」


『……』


「それに岬代は、あんたのことを信頼していた。前回のように、金に目がくらんでヤバいことをしでかさず、目の前の恋人を精一杯愛した。そこのどこに悪い要素があるんだ!」


『……』


 僕と蔭谷を繋ぐインターホンに一瞬の沈黙が訪れる。


 その緊迫に耐えられず、青い空を見上げると、風に揺れた木がざわめき、()()()()()を散らす。

 ひとひらの()()()が桜の肩につき、それに気づかない素振りの彼女が、僕のお腹に優しく拳を当てる。


 それは無言の励まし。


 大丈夫。

 もう、僕らはつまずかずに歩いていける。


『そうじゃな。岬代君なら、そう思っていたじゃろうな』


「蔭谷、そんなつまらない固定概念なんて捨てて乗り越えろよ。生徒の成長を見届ける教師なんだろ?」


「──仁、話の腰を折って悪いけど、もう蔭谷は教師じゃないよ」


「えっ? 桜、どういうことだ?」


「盲目になってから、周囲から嫌がらせを受けて、二週間前に退職してる。それで少し前まで、教師生活の傍らに、リアルみたいに体験できる異世界ゲームのプログラミングをしていたみたいだけど、光を失ってからこの通り、現実と異世界の区別がつかなくなっちゃて……」


「そうだったのか……」


 昔は岬代の弱味を踏みにじる嫌な教師と思っていても、いざ自分に立場が逆転すると、その反動が返ってきた。


 強い自分が弱い立場になって、初めて分かった盲目の教師。

 その教師を辞めた男が、今、体全身で僕らの発言を拒む。

 蔭谷は心に深い傷を負ったのだった……。


 でも、だからと言って、こんなところまで来て『はい、そうですか』と、帰るわけにはいかない。


 蔭谷は退職金を使い、海外で目の手術を受け、そのまま海外そこに留まり、穏便な生活をすると桜から知らされたからだ。


 飛行機で海外へと飛び立つのは明後日。

 もうそんなに時間は残されていない。


「蔭谷、あんたにも新たな人生を歩んでほしいんだ」


『お主に何が分かる?』


「分かるさ、岬代の家に彼女の日記が遺されていたんだ」


『何じゃと……』


 ドアノブがガチャリと音を立て、無精髭でぼさぼさ髪のサングラスをかけた蔭谷が出てくる。


 青い作務衣の彼は無言で、岬代による点字で刻まれたノートを受け取り、そのページに黙々と指先を滑らせていた。


『蔭谷教師は、数学が苦手だった私に色々と勉強を教えて下さった、優しいおじいちゃん。

 今度、そんなおじいちゃんも、お誕生日を迎えます。

 さて、近いうちに電車で出かけてプレゼントを買わないと。

 おじいちゃん、ビックリするかな。

 まあ、驚いてくれませんと、サプライズになりませんからね。

 蔭谷教師のセンスに合うような物があるかな……』


 蔭谷の指が途端に止まる。

 今、彼はどんな心境なのだろう。


 しばらく止まっていた動作から、彼女が書いた本音の続きを追いかける。


『それから目が見えなくなっても悪いことじゃないよ。

 神様がきちんと頑張っている後ろ姿を見てる。 

 自分もそんな蔭谷教師を笑って出迎えたいな。

 人生なんて生きてる限り、いくらでもやり直せると……。

 だから私はこの文面を点字にして、プレゼントと一緒に捧げようと思います。

 蔭谷教師、お誕生日おめでとう。

 これからもめげずに、教師頑張ってね』


 蔭谷のサングラスに似せた老眼鏡の目尻から、光の粒が次々とこぼれだす。

 彼は声を詰まらせ、ただ泣いていた。


「……岬代君、ありがとう」


 そうだ。

 偶然にも彼女は、プレゼントを買いに行こうと、駅の構内で電車を待っていた。

 そこで蔭谷夫妻を助けるために、命を落としたんだ……。


 運命とは残酷だ。

 まるで彼女は、初めから事故で死ぬフラグになると言うことに……。


 そんな蔭谷が子供のように泣きじゃくっていると、後ろから静かに誰かに抱き締められていた。

 その細身の体つきからして、蔭谷の現在の奥さんだろう。


 影の彼女は耳元で何かを囁くと、蔭谷は僕らに深く一瞥した。


「本当にありがとう……」


 彼のしわがれた声が、夕焼けの大空のように馳せて届いた気がした。


****


 一週間後……。

 僕たちが見届けた蔭谷夫妻は渡米し、新学期が始まった。


 高校三年を迎えた春。

 岬代の居なくなった席に新しい生徒が埋まり、何事もなく時は進んでいた。


 そして、季節は五月を迎え、僕と桜はお互いの進路を決めて、別々に歩き出すことを決める。


 これから先、違う大学へ進むゆえに、永遠のシルバーリングで紡いだ恋愛ごっこをするわけにはいかないと、二人で話し合った結果だった。


 僕は新たな道を歩み出す。

 愛しの岬代が、笑いかけているような気がした。


 そんな放課後の帰り道、僕の頭上で電信柱の作業をしていた建設員が何やら叫び出した。


「君、避けるんだー!!」


 夕暮れの上空から降ってくる輝く物体。

 青い工務箱が開き、作業用のスパナが顔面に飛び出してくる。


 僕の目の前で凶器だった物は息をつく暇もなく、僕の体を貫いた……。


****


『じん、じん……』


 何だよ、うるさいなあ。

 もう少し寝かせてくれてもいいじゃないか。


『じん!』


「ああー、分かったよ。起きればいいんだろ!」


「ジン、良かったです」


「ミヨなのか?」


「はい、そうですよ。急に倒れるから心配しました」


 ああ、ミヨが心配気なまなざしで傍に座っている。

 どんな内容かは記憶にないが、どうやら僕は悪い夢を見ていたようだ。


「兄ちゃん、オラもいるぜ」


「別にお前は呼んでいない」


「ムキー、嫌な兄ちゃんだな!」


 大人な対応のミヨに比べて、子供のように床に寝転がり、イラつく様子をするケイタ。

 僕はその子供を軽く無視して、改めてミヨと対面する。


「ミヨ、僕は一体?」


「ええ、ジンは死んでしまいました」


「死んだって、僕はゾンビじゃないんだぞ?」


「いえ、人間死ぬのは一回で終わりです」


「それよりも早く行こうぜ、兄ちゃん」


 ケイタが木でできた、古ぼけた看板を指さす。

 そこには『チンチクりん』と案内されていた。


「ここはアリエヘン村か?」


「そうですよ、ジン。冒険の始まりです」 


 岬代の話によると、どうやら僕は死んでしまい、異世界に転生し、僕の親父に頼まれ、この世界の征服を企む、魔王討伐の勇者になってしまったらしい。


 頭の中で何かが引っかかったけど、気のせいだろう。

 人間は一回死んだら、終わりなのだから。


「よし、それじゃあ、いっちょ揉んでやるか」


「よく言うぜ。兄ちゃんレベル1なのにさ」


 その言葉に『はっ』と気づいて、腰に忍ばせていたものを振りかざす。

 その棒は剣とはほど遠い、ぼろっちい()()()()()()()()()だった。


「確かに『スライス』の集団に攻撃されて、瀕死でしたね。でもこうやって無事で済みましたよ」


「だよな。ミヨちゃんがすぐに回復呪文キュンをかけたお陰だぜ……って、兄ちゃん、真っ赤な顔で黙りこんでどうした?」


「ぼっ……」


『ぼっ?』


 ミヨとケイタが、不思議そうに顔を見合わせる。


「ぼっ、僕は勇者なのに最弱なのかあぁー!?」


 僕の痛烈な想いに、周りのみんなが爆笑する。


「まあ、頑張ろうぜ。先は長いんだからさ」


「男のお前に慈悲をかけられても、ちっとも嬉しくないんだよ」


「じゃあ、ミヨちゃんならいいのか?」


 ケイタの嫉妬の感情は、どこからわいてくるのか。

 異性に興味深さを抱く。

 それが健全な男ってもんだろ?


「まあ、そんなことよりも、早くこの林を抜けないと夜になりますよ。さすがに二日続けて野宿は嫌でしょう?」


「ああ、寝ていたら、オラの耳辺りを這いずり回っていた、ゲジゲジという虫の存在。思い出しただけでも悪寒がするぜ……」


 蒼白顔のケイタが、カタカタと骸骨のように歯を鳴らす。

 寝込みを襲われ、さぞかし怖い敵だったんだな。


「兄ちゃん、さっさと行こうぜ」


「おう、任されたぜ。ケイタ先生」


「ジン、仮にも勇者でしょ?」


 とりあえず行き先は、北にあるオオゲサ王国。

 行く先が不明ということで、ここの地理に詳しい王様に会うことに決定した。


 ──僕たちは異世界というマップから、行動を開始する。

 この先に何が待ち受けていても、歩むしかないのだから……。


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