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最弱な能力に異世界転生した僕こそが最強の勇者に間違いないっ!  作者: ぴこたんすたー
第6章 勇者復活の時

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第29話 影を操る花びら

「兄ちゃん、カマキラーが来たぜ!」


 チンチクりんの移動中、僕たちの前に突然現れたカマキリのモンスター。

 大人の背丈くらいの大きさで逆三角の顔を左右に振りながら、鋭い鍵状の前足で警戒モードに入っている。


 昆虫のボクサーは怪物になっても、主張は変化しない。

『いつでもかかってこい、挑戦者!』と、王者の心は気高い魂を持っていた。


「どうしてこんな場所に、このような珍しいモンスターが出現するのですか?」


「ミヨちゃん、それだけじゃないぜ。あの敵はオラたちのレベルじゃ倒せない強敵だぜ。確か、対応レベルは30以上だったはず……」


「えっ、私たちは冒険したてで、その半分のレベルしかないですよ!?」


「だな。レベル18程度じゃ手厳しいぜ。それならば……」


 二人の視線が、後方にいた僕へと向けられる。


「えっ、何だよ。二人して?」


「ここは勇者の出番だぜ」


 おしくら饅頭まんじゅうの形式で、ケイタが強引に僕をカマキラーの手前にグイッと押し出す。


「さあ、兄ちゃん。一発強烈なのをガツンと頼むぜ」


「無茶を言うなよ、僕は最弱だぞ?」


「その背中に背負っている剣でスパンとな」


「……僕は異国の剣豪じゃないぞ。それにこれは剣じゃなく、ただの棒切れだ。軽々しく言ってくれるよな……」


 僕は振り返り、両手をケイタの手前に向けて、ダメダメモードに移行する。


「……ジン」


「おおっ。あのガキんちょとは違い、お姉さんのミヨは分かってくれたか?」


「ええ、できるだけカマキラーに大きなダメージをあたえて下さい」


「何でやねん!」


「きゃっ、セクハラ反対ですよ!?」


 だから、軽く頭を小突いたツッコミだから。

 お前らは弱った時にボコって倒す、おこぼれワンちゃんかよ。


「仕方ない、うおおおおー!」


 僕は考えを改め、ただの棒切れじゃなかった……ひのきのぼうもどきを握って特攻し、殺虫剤の名称のようなカマキラーの体を狙う。


『キシャアアアー!!』


 だが、当然の報いのようにひのきのぼうらしき物が、相手のカマにより、呆気なく両断され、僕の視界が空を舞う。


 やっぱり、僕の力量では無理だったか。

 持っていたのは剣じゃないし、レベルも1だもんな。


「ジン、しっかりして下さい!?」


「兄ちゃん、死ぬんじゃねえぜ。ミヨちゃん、急いで回復魔法を!!」


「言われなくてもやっています。ジン、目を開けて下さい!!」


 離れていく僕の体、地面に転がった先に広がる草むらの青臭い感触。

 二人がわめくなか、ミヨの悲痛な声だけが、頭の底にこびりついていた……。


****


「ここは……」


「大丈夫? もう動けるかな?」


 灰色の空間に寝ていた僕の体に、回復呪文キュンをかけていた人物……。

 その見知った女子から、温かい声をかけられる。


「やっぱり、ここにいたか」


「ようこそジンって感じだね。しかし、しょっぱなからして派手にやられたねー♪」


 なぜか、上機嫌の女の子がハンカチで、ちゃぶ台を濡らしている茶色い液体を拭いている。


「私が休憩中に、空から生首と首なしの胴体が降ってくるんだもん。思わず飲んでいたお茶を吹いちゃったよ」


 それから僕の体についた土ぼこりをはたきながら、悩ましげな表情になる。


「別に初めてじゃないだろ」


「どういう意味かな?」


「もう目星はついているんだよ、()()()


 僕の服をはたいていた手がピタリと止まり、長い髮を前に垂らすサクラ。


「ふふふ……あはははは!」


 妖怪染みた格好から裏をつかれたかのような、豪快でお下劣な笑い声。


 これが彼女の隠していた正体か?

 僕の知らなかった彼女の素性だ。


「じゃあ、君はわざとあのカマキラーに殺られたというわけ? どこからそんな妄想が生まれたのやら」


「事の始まりは、お前が神だとほざいていた部分からだ。僕たちが戦うモンスターのことを知りすぎなんだよ」


 意外性な発言に黙りこくるサクラ。


「へえ、それで?」


「それから何度も僕を蘇生するちから。本来、神様でも人の生死は簡単には操れないはずだ」


 それ以降は何も突っ込まず、確信をつかれたのか、無言で僕のくちびるの動きだけを読み取ろうとしている。

 どうやら図星のようだ。


「……でもこのゲームの制作者なら、話は別だ。自分の意図のままにできるから」


「……サクラ、実はジイ・エンドは表向きの支配者で、本来は君がこの世界を作った親玉で、全ての元凶に間違いないか?」 


 内心、嘘だと言ってくれと思った。

 いくら敵としての垣根を越えた存在とはいえ、これまで僕と行動を共にしてきた仲間の一人だったから。


「あははは。ジンは名推理だね。今、別に制作している新作ゲームのシナリオを書いてもらいたいくらいだよ」


「それは断る。やっぱりサクラはこの世界の制作者だったか」


「そうだよ。しかし、いい儲け話を持ってきたのに、それを簡単に振るとはね」


「問答無用!」


 ずっと味方だったサクラは敵だった。

 ならば、ここでやることは一つ。


「そらっ、あちの呪文!」


 僕は、服の裾から本日二本目のひのきのような棒を出し、無意識に先端に火をつけ、たいまつのようにして、この灰色の空間を焼き払おうとする。


「わっ、火おこしぼうで何をする気なの!?」


「ここのどこかに、このゲームを起動している装置があるはずだ。これでこの空間を消し炭にして、全部ぶち壊す」


「そんなことしたら、君も無事では済まないよ!?」


 慌てて、こちらの行動を制止させようとする子供のようなサクラに、大人の威厳を見せる僕。


 それにしても、この棒は『火おこしぼう』が正式名称なんだな。

 道理どうりで、レベル1のひよこなキャラ設定なのに、棒から炎が出るわけだ。


「いや、心配ない。肉体は別の現実世界で眠っているはず。サクラがエンド蔭谷(芸名ではない)と一緒にこのゲームの管理人をしていたらな」


「だからって、こんなことをしたら、君だって……」


「──僕にはこれがある」


 僕は一人呟きながら、首に着けた古びたブローチに願いを籠め、何も無い手のひらから、大振りの剣を出現させる。


「あっ、それは紛れもなく勇者の剣だよね。私が隠していたのに、どこから見つけてきたのよ?」


「なーに、この剣もゲームの鍵を握るアイテムかと思ってさ、何とか、この勇者のブローチを使って探し当てていたのさ」


「驚いた。そのブローチにそんなちからが秘められていたなんて」


 いや、恐らく、このリアルで親父がくれた勇者のブローチの能力は後付けだ。

 あの現実世界での親父が、いち早くこのことを察して、剣のありかが分かるGPSのような機能を付けたのだろう。


 この狂った世界を救えるのは、勇者しかいないと。

 今さらながら、元勇者たる親父の洞察力は凄いな。


「なるほどね。勇者の剣で次元を切り裂いて、現実世界に戻る作戦か。ジンも中々やるねえ」


 サクラが僕の方向に両手を伸ばす。

 何か攻撃を仕掛けてくる合図だ。

 両手の動作からして、上級レベルの呪文か?


「だったら、力づくでも阻止しないとね」


 ユラリと重心を動かし、流れるように詠唱を始めようとする。


「今だ、ミヨ、ケイタ!」


「おう。オムレツ愛情、あちちのちー!」


 やるなら今しかない。

 僕の叫び声に乗り、どこからか出現したケイタ。


 彼が放った炎の呪文が、サクラの背後に当たり、すかさずミヨが、光の紐で彼女の両手を拘束する。


「ふふ、蚊の刺すような攻撃だね。この程度の呪文で私が殺られるとでも思った?」


 いや、それはおとりだ。

 正直、ダメージなど、どうでもいい。

 彼女が無抵抗なのが気になったが、一瞬の隙をつけたらそれでいい。

 今は倒すべき相手ではない。


「ジン、今です!」


「兄ちゃん、ぶちかませ!」


「ああ。二人ともありがとうな。

じゃあ、リアルでまた会おう。

でりゃあああー!」


 僕は火種をサクラの元へ投げ、空間を横に裂いて、その開かれた世界へと身を投げた。


「うわっ、外道だわ。本当にここを燃やす気!?」


 炎の海で身動きがとれなくなったサクラが、何やら文句を言っているらしいが、今の僕には関係ない。


「ジン、まだ旅は始まったばかりですよ。お気をつけて」


 この時の僕は何も理解していなかった。

 ミヨの『……お気をつけて』の言葉が後になって、身に染みて分かることに……。


****


 ──消毒液の匂いが立ち込める。

 暗い部屋で唯一の存在を示す『ピッピッ…』と、規則的に鳴る無機質な電子音。


 僕の体には様々なコードが付いていて、口には大きなマスク、いや、人工呼吸器らしき物が装着されている。


 ここは病院のようだ。

 僕はベッドに寝ていて、治療をうけていたのだろう。

 これらのコードが無数に()()()()()道具類からして、延命治療をうけていたのかも知れない。


 僕を蝕んでいるのは何の病気だろう?

 ご丁寧にも、頭にも配線みたいな物が付けてあり、脳波を測る機械もあるからに、脳に何かしらの異常があるのだろうか。


 段々と暗闇に目が冴えてくる。

 周りには誰もいない、広い個室の部屋。

 室内の照明が消えて、こんなにも暗いということは今は夜中なのか?


(まあいいか。歩きながらでも、置かれた状況は掴めるし……) 


 僕は部屋が無人なことを再確認して、マスクと身体中のコードをゆっくりと取り外し、冷たい床に下り立った……。




 

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