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最弱な能力に異世界転生した僕こそが最強の勇者に間違いないっ!  作者: ぴこたんすたー
第3章 勇者運命の歯車を変える時

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第15話 魔力が無ければ補えばいい

「サテサテ、ワタシが少し余所よそに行っている間に、弱小じゃくしょうだったアナタたちも立派になったものデスネ」


「余所に行っていただと?」


「ええ、魔王城が移転しましたノデ、ちょっとした個人的な住みかのお引っ越しをしたのデスヨ。この人相が怪しいのか、新しい家を探すのには苦労しましたケド」


 怯える王女をスルーし、もたれていた扉から立ち上がり、王室から隣の応接間へと僕らを誘い込むキル・ユー。

 そこで不意に止まり、両手をぶらつかせながら、関節をコキコキと鳴らし、前屈みの姿勢になる。

 

 そうか、魔王城には住みかも寮さえもないのか。

 あの時、城に魔王だけしか居なかったのもうなずける。


「まあ、それはサテオキ、ワタシの自慢の手下のコブトリンをるトハ。もはや手加減は無用デスネ」


「いや、倒してはいない。元の姿に戻して、自然の野に放っただけさ」


「フン、人格を奪った時点で、ソレハもう殺られたのと一緒デスヨ!」


 キル・ユーが腹立たしい声を上げて、通りすがりの扉を蹴りあげ、その大人しい扉がぶち抜かれる。


 壊れた扉の先には、彼が呼んだであろう魔物たちで溢れかえっていた。

 その中の数匹のモンスターが血気盛んな目付きで、今にも僕らに向かって襲いかかろうとしている。


『グルルルルー、ゴ、ゴロス!』


 そいつらはゴブリンの姿をしたモンスター、『コブトン』たちだった。


「お前たち、コブトリンのかたき討ちも分からないでもナイデスガ、ここは手を出すなデス」


「……アイツらは中々の強者つわものデスカラネ!」


「なっ!?」


 一瞬、何が起きたか分からなかった。

 キル・ユーの姿が瞬時に消えて、僕の眼前に飛び出したからだ。


『ジン、伏せて!』


 思念波のような天界のサクラからの声で、かろうじてキル・ユーの黒く染まった拳の攻撃をかわす。


『危なかったね。今の彼の特殊スキル、()()()()()()を食らっていたら、確実に即死よ』


「なるほど。いかにもファンタジーらしい設定だな」


『今は()()()に、感想を述べている場合じゃないから』


「いいのんき(天気)ならではだな」


 部屋の大きな窓から見下げた、無数の花で彩られた庭園。

 そこに立ち並ぶ大量のコブトンが、こちらに向かって、固唾を飲んでいるように見てとれた。


 外はいい天気とは言いがたく、曇り空が辺りを支配している。


『……つまらない冗談を言っている暇があったら、どうにか対応してよ。私からはアドバイスはできても、上層部の仲間から、この会話は通信制限されているから、敵を倒す対処法はできないんだからね』


「何だよ、便利そうに見えて制限付きかよ。不便な能力だな。少しはスマホアプリを見習えよ」


『あのね、無茶を言わないで。私は神様でも、スーパーコンピューターでもないんだから』


 確かに、このサクラがスーパーロ◯ットだったら、今頃、こんな苦労はしていないだろう。


「……本当、融通が効かないワガママなヤツだなあ」


『どっちがよっ!!!』


「ぐわっ、お前、急に怒鳴どなるな。喧しいぞっ!?」


 甲高い少女の声で、耳がおかしくなりそうだ。

 まあ、実際は鼓膜ではなく、頭に直接語りかけてくるのだけど。


「サッキから、何をブツクサ呟いているのデスカ!」


「お、お前ら、少しは僕をフォローしろよ!?」


 キル・ユーの例の拳をギリギリで避けながら、仲間たちに助けを求める。


「兄ちゃん、気持ちは分かるけど……」


「こんなに大量のモンスターに囲まれていたら、そちらへの加勢は無理ですよ!!」


 僕から離れていたミヨたちを、円になって取り囲むコブトンの集団。


 これでは多勢に不利。

 向こうの方が、三枚下ろし並みに上手うわてだった。

 僕の腕ではアジのひらきは作れないけどな。


「フフフ、ワタシが何もしてないで過ごしていたと思いデスカ。ヒソカにこうして勇者一行の打倒の策を考えてイタノデスヨ」


「くそ、お前ら、やり方が卑怯だぞ……」


「その卑怯な手でコブトリンを倒した輩が、何をほざいているのデスカ」


「──サア、大人しくあの世に堕ちるデスヨ!!」


 彼が一歩踏み出した瞬間に、僕はひとさし指を空に突き立て、狙いを定める。


「今だ、雷よ、ヤツを貫け!!」


『ゴロゴロドカーン!!』


『ピカッ、ドカーン!』


 刹那、正面の窓ガラスが割れ、そこから突き抜けた稲光がキル・ユーの体を狙う。


「ナニヲ!? ぐわあああぁぁー!?」


 そのままキル・ユーに炸裂した、ゴロ系の呪文。


「オマエ、いつの間にこんな呪文が使えるようにナッタンデスカ!?

しかも……上級呪文の雷系ヲ……」


「ああ、これのお陰さ」


 クシャクシャとスルメのように噛みしめている物体を、これ見よがしに見せつける。


 通称、魔法を無尽蔵に生み出す草、マジッくさだ。


「……ナルホド。魔力がなければ補えばイイという作戦デスカ……」


「そういうことだ。それに僕は勇者としての素質があるからな。雷系の呪文が使えてもおかしくはないのさ」


 元はサクラのアドバイスで少しばかり、魔法契約の島にあった、あの水晶からはみ出していた部分から頂戴したのだが、実は食すと、こんな使い道があるとはな。


 少し癖がある味だが、天ぷらにしたら美味しくて、いい精がつきそうだ。

 魔力のみなもとの草だけに。


「フフフ、ソレハいい事を聞かせてもらいマシタヨ。クククク……!!」


 僕の行動に何を感じ取ったのか、突然、キル・ユーが冷たき仮面に片手を添えて、感情豊かに笑い出す。


「何だよ、絶望に追い込まれて狂ったか。締め切り前の漫画家みたいだな」


「ソウデスヨ。絶望に飲み込まれるのデスヨ」


「──オマエガナ!」


 ふと気が付いた時、応接間にいたキル・ユーの姿は無かった。


 いや、普通に消えたんじゃない。

 そこから瞬時に移動したんだ。


「兄ちゃん、後ろだ!」


「ジン、走って逃げて!!」


 そう感じ、少し離れた僕の前方でコブトンを迎撃していた、ミヨたちの嘆きの叫びに染み渡る、背後からの殺気。


「フフフ。影を伝い移動できる()()()のスキルデスヨ」


 ヤツは一瞬の隙をつき、自分の影に忍び込み、僕の伸びていた影と同化して、後ろへと回り込んだのだ。


 そのキル・ユーの手には、僕の手元からさりげなく奪った、マジッ草が握られていた。


「しまった、いつの間に!?」


「モウ遅いデスヨ。コレデ、呪文が不得意なワタシでも思う存分ニ……」


 キル・ユーが着けている仮面を僕の背中越しで外して、その持っていた草を口に放りこむ。


『ウオオオオー!!』


 高揚した叫びと共に、勢いよくキル・ユーの体から膨れあがる闇のちからのパワー。

 僕は、その場から逃げるように飛び出し、応接間を離れて体勢を整える。


 すると、キル・ユーが仮面を僅かにずらし、鋭く黒く染まった目を光らせる。


「確か、ある程度、距離を保って、ヤツの瞳を見るなだったよな」


『駄目、ジン、今すぐその廊下から離れて!』


 いつもは冷静なサクラの声と違い、柄にもない焦ったような声が頭に響いてくる。


「何を焦っているんだよ。お前の言った通りにしているんだぜ?」


『違うわよ、時と場合を考えてよ。キル・ユーが膨大な魔力を手にしたら、威力だって上がるに決まっているでしょ』


 周りから光と色が消え……、


「何だって、ぐわっ……」


 ……暗闇の世界で、金縛りにあったかのように体が動かない。


 そんな中、遠くから聞こえてくる、人間たちらしき苦しみのうめき声。

 そのうちのかすれた女性らしき声が、耳元に寄ってきて『こちらへ、いらっしゃって……』と、囁いてくる。


 別名『あなたを殺す』の名称の死者の瞳。

 これがミヨたちが体験した、目が合わさったら、死後の世界へ連れていかれる心境か。


 どうやら見事に、ヤツの術中にはまってしまったらしい。

 

『あーあ、だから言ったのに……』


「なあ、どうかして、この厄介な呪文を解けないか?」


『いいえ、一度この技にかかってしまったら、どっちかが尽きるまで耐えるしかないよ』


「そりゃ最悪だな。何の拷問だよ?」


『私が聞きたいくらいよ。だから耐えて』


 もう強烈過ぎて、半径5メートルの枠を越えている。

 末長く恐ろしく、いかにも魔王の側近らしい攻撃だな。


『……まあ、一つだけ解決策があるとすれば、能力の効果が切れるまで耐えるしかないことね』


「おい。耐える、耐えるって、どこのお坊さんの修行だよ。それにさっきから耐えろって、その言葉の繰り返しだぞ。これは試験に出るのか?」


『何、わけの分からない事を言ってんの。次、右から例の拳が来るよ。構えて!』


「……だから、ヤツの攻撃が見えない状態で、どうやって避けろと?」


『つべこべ言わず、この世界で生きたかったら、私の指示を聞いて、勘で避けるのよ』


「まさに紙の言いなりかよ。しゃーないな。分かったよ」


 僕は体を反らしながら、キル・ユーの右からの見えないパンチを避ける。

 頭上の髪先が波のように揺れ、目の前に人工的な風が吹き抜けていった。


『ふう、危なかったわね。今のはギリギリだったよ。あっ、次は左からよ』


『……違うわ、右?』


「おいおい、どっちなんだよ?」


『いえ、これは左右同時攻撃よ。上へ飛んで!』


「あのなあ、人間が飛べるわけないだろ?」


『だから移動系呪文よ。今の魔力を保ったままなら、難なく使えるでしょ』


「……えっと、それド忘れした。

何という名前だっけ?」


『ああ、ジン! 考える暇なんてないよ!』


 次の瞬間、体の左右がパンクでもしたかのように凹み、トラックに跳ねられたように上空へと投げ出された。


 意識が段々と薄れていく。

 これが死ぬという事なのか……。


****


「ここは……」


「あっ、ようやく気が付いたかな」


 僕はまたもや、何もない灰色の世界で目を覚ました。


「ごめんね、私がいながらも、魔力の強化に気づかなくて」


「何の、今度は悟らなければオッケーさ。さあさ、早く元に戻してくれ」


 僕から目線を反らし、俯いたまま、小さな体を小刻みに震わすサクラ。

 もしかして泣いているのか?


「ジン、あんな目にあったのに怖くないの?」


「なーに、これくらいで怖じけていても、何も変わらないさ」


「うん、だけど……」


「おいおい、しっかりしろよ。お前さんは神様なんだから」


「……分かっているけど、私は元は人間で……」


「何をブツブツ言っているんだよ?」


「……それもそうだね」


 深呼吸をしたサクラが緊張を解き、樫の杖を僕の頭にちょこんと乗せて念じる。


「願わくば、彼に、もう一度チャンスを与えたまえ……。

ブットビプリン!」


 サクラの移動呪文により、無感情の空間がお花畑で広がり、僕の重々しい体が輝きながら軽々と宙を舞う。


 その気分は宇宙飛行士。

 もう、この呪文にも慣れたものだ。


****


「──ジン。こんなに大量の怪物に囲まれていたら、そちらへの加勢は無理ですよ!!」


「……はっ!?」


 聞き覚えのあるミヨの声に視界が開く。


 僕はサクラの呪文で、ここに戻ってきたのか。

 しかし、その場に戻ってきたような感覚で、今までの転生とは違う。


 まるで先ほどまでの夢の世界を、もう一度体験しているかのように……。


『この上級移動系呪文ブットビプリンは特別な魔法で、一度きりしか、その場に転生できないの。今度は例の草の件は悟られないようにね』


「お気遣いセンクス。そうか、分かった」


「サッキから、何をブツクサ呟いているのデスカ!」


「ぶつくさと呟いて、悪い法律なんてないだろ。まあ、ここはリアルとはかけ離れた異世界だけどな」


 ──今、キル・ユーとの対決が始まる。


 ポケットに潜ませた魔法草を慎重に手探りで確かめながら、僕はもう一度、キル・ユーとの一騎討ちに挑むのだった。






 

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