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蒼ノ旅人 ー蒼風のヘルモーズー  作者:
『オルカストラ』編〈1〉
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第68話 狩人……?

 魔獣騒動があった日の夜。僕は用事を済ませて帰ってきたアエルさんの熱烈な勧めで、今日も屋敷に泊めてもらえることになった。

 当てもないし、一人で外に出たら魔獣を殺すためだけに追いかけ回して、先日のように疲労困憊で倒れるまで暴走してしまいそうな気がしていたから、ありがたくその勧めを受け入れた。

 彼の歓迎の言葉を聞いたマキネさんは、顔色一つ変えない、それこそ『当たり前』と思っているような様子だった、しかし、アイネさんは僕の宿泊になにか思うところがあるのか、暗い影が差そうとしていた表情を、無理やり作った笑みで隠しているような様子だった。

 そりゃそうだろう。昨日今日に出会った、たいして事情の分からない異性が自宅に泊まるんだから。ロンという愛し合っている恋人がいる女性として、何か思うところがあるに違いない。

 そう納得した僕は、宿泊中、アイネさんに近付きすぎないようにしようと心掛ける。

 マキネさん特製の美味しい薬膳料理を食し、沸かしたての熱い湯に浸かって身体に溜まっていた疲れを癒やした。

 そして貸してもらった空き部屋に戻り、フカフカのベットの上に横たわって、眠りに恐怖を感じてしまっている僕は今晩は眠ることなく、そっと瞼を閉じて時が過ぎるのを待つ——


 翌日。僕は日の出とともに目を開け、早々に着替えを済ませて部屋を出た。

 身支度を終え、朝食の準備をしていたマキネさんの手伝いを強引に始める。 

 まあ、手伝いとは言っても、マキネさんが振る舞ってくれる『プロ級』の料理を僕なんかが作ることは、たとえ天地が逆転しても不可能なので、食卓の上にある埃を布巾で拭き取ったり、出来立ての料理が装われた食器を、食卓に並べたりするくらいだったのだが。

 子供の手伝い。僕の行動はまさにそれだ。

 しかし、それでも、マキネさんは僕のことを馬鹿にしたりしなかった。

 剰え「ありがとうございます、ソラ様」と、優しさ溢れる柔和な笑みを浮かべてくれた。

 そんなとても気分がいい朝を過ごすこと、小一時間。

 朝の七時くらいに、アエルさんが食卓にやって来て、粛々と上座に座す、その数分後、マキネさんが起こしに行っていたアイネさんが、食卓中央、アエルさんから見て右手の方に座った。

 客人として屋敷に宿泊させてもらっている僕は、アイネさんの対面に置いてある椅子に腰掛ける。全員が食事の準備を済ませたことを確認したアエルさんは、一度頷いてから口を開いた。


「今日も温かな食事を摂れることに——感謝を」 

  

 厳かな物言いで、食事に対する感謝を口にする。

 祈るように両手を編む。

 アエルさんやアイネさんのそばに立っているマキネさんも、信徒のように祈りを捧げ始めた。

 完全な無宗教である僕は、全員の祈りを見てどうすればいいのかが分からず、取り繕ったように彼らの真似する。

 焦って皆の真似をしだした僕の不恰好を薄目で見ていたのか、アイネさんが我慢できないとばかりに「クスッ」と笑う。

 その笑いは周りにも伝播してしまったようで、マキネさんは笑うのを必死に我慢しているのか、真っ赤な顔でプルプルと震えていた。

 アエルさんは厳かな雰囲気を崩し、苦笑するように口を弧にする。

 そして、アエルさんは僕が待っていた言葉を口にする。


「それでは、いただきます」


「「いただきます」」

 

 その言葉を言い終えた僕達は、一斉に朝の食事を始めた。

 食卓に置かれている皿に盛られた食事のメニュー。

 両面に焼き色がついた板パンが数枚に、葉野菜をちぎったものの上にハムを乗せたサラダ。それと、牛乳で煮込んだカボチャのスープ。

 朝から手が込んでるなぁ。

 そう感心しつつ、僕は手に持った板パンに雑にバターを塗っていく。

 対面に座っているアイネさんは、果実を擦り潰した物を砂糖漬けにしたのだろう赤色のジャムをたっぷりと塗ってから、小さな口で齧り付く。

 アエルさんは一口分に千切ったパンをカボチャのスープに漬けて食べるなど、各々で食事に個性が出ていた。

 そうして美味すぎる食事に舌鼓を打ち終えて、非常に、この上なく満足した僕は、先に食事を終えていたアエルさんに声を掛けられた。

     

「ソラさんは狩りなどは為されるのですかな?」


「狩りですか? えっと、野生動物の狩りはしないです」


「いえいえ、私が言っているのは野生動物ではなく『魔獣狩り』のことですよ」


「あ、あぁ……えっとぉ」


 魔獣狩りをするのか。

 そう聞かれても、ひたすらにアイリ村がある——保護されるまで、そこに村があるとは知らなかった——高山を目指して、広大な樹海を突っ切っていった理由がまさにそれなんだよな。

 でも、これを正直に他人に言っていいものなのだろうか? 


「魔族を殺すためだけに、この山を目指していたら疲れて動けなくなりました!!」


 なんて命知らずが過ぎる。腹の探り合いに長けてそうなアエルさんに、僕なんかが誤魔化しをしても普通に怪訝がられそうだし、嘘は言わない形で、少し濁して伝えることにしよう。


「えっと、まあ……魔獣狩りはしてましたね」


「やはりそうでしたか! どうでしょう? 昼過ぎぐらいに私と狩りに行きませんかな?」


「ま、魔獣をですか?」


「ええ、その通り」

 

 僕は微笑しているアエルさんから、魔獣狩り、の誘いを受けて、それを承諾するかどうかを決定するために、口を横に結んで思慮する。

 ぶっちゃけ、魔獣狩りを僕が断る理由はない。

 あれだけ暴走して、自力で動けなくなって、他人に迷惑を掛けた。 

 にも関わらず、僕は今でも魔族を追いかけ回して、この手で殺してやりたいと思っている。

 もし今の精神状態で、僕一人で狩りを始めたら、再び暴走してしまうという確信がある。 

 しかし、誘われたこの狩りは『アエルさんに同行する形』になる。

 つまり一人じゃあない。それなら暴走をする可能性は低いだろう。だから大丈夫な気がする。 そう纏めた僕は、椅子に腰掛けたまま返答を待っていたアエルさんに承諾の意を伝える。


「じゃあ、同行させてもらいます」


「決まりですな。では、昼食を摂り終えたら南の樹海の方へ出発しましょう。私は他の者にも声を掛けてきますので」


「分かりました」


 僕の承諾を聞き、ニコッと目尻に皺を作った彼は、マキネさんが手に持って用意していた赤いマントを肩に取り付け、魔獣狩りに同行する誰かを求めて屋敷から出て行った。

 

「ソラ様は、アエル様に気に入られているようですね」


 そう言ってきたのは、玄関先で屋敷の主人であるアエルさんを見送っていたマキネさんだ。

 縁が細い眼鏡を指先で上品に持ち上げた彼女は、一緒に見送りをしていた僕の方を見て「クスクス」と笑った。

 アエルさんに気に入られていると微笑む彼女に言われた当の僕はというと、彼に気に入られるようなことしたのか? 死にかけた時に助けてもらっただけでは? と思い、首を傾げた。


「何で気に入られてるんですかね?」


 率直な疑問をマキネさんに問い掛けた。

 僕の問いを受けた彼女は再度「クスリ」と笑い、その疑問に答える。


「ソラ様が屋敷に担ぎ込まれた後、丸一日眠っていた日がありましたよね? 貴方が昏睡している間、貴方が持っていた剣をアエル様は見てしまわれたようなのです。恐らくですが、ソラ様が気に入られた理由はそれだと思います」


「んん……?」


 僕の鏡面剣を見て僕のことを気に入った。って、一体どういうことなんだろう? 

 もしかして鏡面剣のことを気に入ったとかか? いや、そんなわけないか。

 アエルさんからして見たら、三千ルーレンの剣なんて安物でしかないだろうしな。

  

「どういうことなんですかね?」


 納得しきれていない僕の追及を受けて、マキネさんは自身が考え付いている答えを口にする。


「アエル様は、ソラ様を『凄腕の狩人』と見込んでいるのではないでしょうか?」


「か、狩人……?」


 ヒョロヒョロで田舎臭い格好の僕を見て、どこをどう考えたら『狩人』なんて大層な答えが出てくるのだろうか?


「だって、魔獣を狩ってここまでいらしたんでしょう?」


「………………へ?」


 突然の狙撃に不意を突かれた僕は、彼女の口から放たれた矢が眉間に直撃し、ついつい間抜けな声を出してしまう。

 自身の素性を隠していた気になっていた、ソラという名をした阿呆な珍獣。 

 その隙だらけな眉間を完璧に貫いた凄腕狩人のマキネさんは、焦りで視線を右往左往させる僕を見て、堪えられないとばかりに「あはは」と笑い声を上げた。

 今の今まで『山の中で生き倒れていた理由』は隠していたつもりだったんだけど、もしかしてバレバレだったのか……?


「な、なんで知ってるんですか……?」


「おや、当てずっぽうだったんですが——図星でしたか」


「うっ……!」


 カ、カマをかけられてたのか。

 美しい軌跡を作りながら飛翔する矢で眉間を射抜かれて。

 モノの見事に言葉の罠にも嵌められて。

 これじゃあ、どっちが狩人なのか分からないじゃないか。

 まあ、僕が狩人ではないのは確かなのだが……。

 僕はひた隠していた、誰にも知られたくなかった『狂行』を凄腕狩人に勘取られ、ガクリと首を折った。

 そして観念したように、勝利の笑みを浮かべる彼女に向けて敗北宣言を行う。

 

「ま、参りました……」


「ふふふ。……ところで、なぜ倒れるまで魔獣狩りをしていたのですか?」


「————」


「……?」


 心からの疑問を口にする彼女に僕は何も語らず、空虚な無言のみを返した。

 ただ、目の奥に殺意を糧に燃え上がる黒い炎を宿して。

 僕は『ごめんなさい、それは言えません』と無言で彼女の前から移動する。


 この『ドス黒い殺意』のことは僕以外の誰にも教えられない。

 この殺意を、僕の口から誰かに教えるとは則ち——

 僕が友を害した奴らへの復讐を諦めて、他の誰かに『助けを求める』ということ。

 それは、それだけは絶対に駄目だ。これは僕の物だから。僕が一人でやるべき事だから。

 もう、大切な友を置いて『一人で逃げる』わけにはいかないんだよ。

 

 疑問を解消させてあげれなかった彼女には悪いと思いつつ、僕は借りている部屋に戻り、窓の外を眺めながら、アエルさんとの約束の時刻が来るまで時間を浪費した。

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